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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 最初のメインターゲット 大魔導士、ウィザー=アルヴァレン編

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第20黒 幻影五十の包囲網、黒百合は毒に沈む――だが”禁呪の魔女”が現れた

 

 崩れた魔法協会・蒼光塔の廊下。


 リィナ達は結界に閉じ込められ、周りには罠。数も向こうの方が優位。

 状況は、誰の目にも明らかだ。


 ヴァレンの声が、(たの)しそうに空間に溶ける。


「さすがだな、黒のカサブランカ。」


 幻影の一体が、ゆっくり歩み出る。


「でも――」


 背後の幻影が(ささや)く。


「一人で全部背負う人間は直ぐ壊れるんだよ」


 その瞬間――


 殺気。


 リィナの首筋へ、短剣が滑り込む。


 だが、リィナの剣が幻影の一体を切り裂く。


「……遅いわ」


 リィナが静かに呟く。


黒百合(リリィ・)魔装(ドミネーション)!!≫


 影が花のように咲き床一面に広がると、

 黒い刃が空間から突き出し幻影を貫く。


「おや?」


 ヴァレンの声が笑う。


「領域型魔法か…」


「なら、これはどうだい?」


 今度は六体のヴァレンが同時に動く。


 四方から囲むようにリィナに迫る。


光影双刃(ルクス・シェイド)!!≫


 眩い閃光と幻影の斬撃。


 上下左右から十字の斬撃が走る。


 だが。


 リィナはその場から動かない。


黒百合ノ守護(リリィ・ヴェール)!!≫

 黒い花弁が旋回しリィナを守る。


 ギィィィン!!


 斬撃が弾かれ、火花が舞う。


 その瞬間。


 リィナの瞳が細くなる。


「そこよ…」


 黒い魔力を纏った斬撃を放つ。。


黒百合斬(ノワール・リリィ)!!≫



 幻影をすり抜け――


 空間の“何か”を斬った。


「……っ」


 小さく息を呑む声。


 ヴァレンの本体が、影から飛び退く。


 肩から血が滲んでいる…。


「今のは危なかった」


 ヴァレンが軽く笑う。だが瞳は冷たい。


「幻影の中から本体を当てるとはね……なら僕ももう少し本気を出そう。」


 空気が揺れ、さらに幻影が増える。


 二十、三十…五十近い数だ。


 包囲が完全に閉じる。


「…きりが無いわね。」

 リィナが周りを見ながら呟く。


「くく……さあ、大人しく諦めたらどうだい?」


 ヴァレン=シャルクが再び姿を消し声だけが、

 四方八方から響く。


 シルフィが周りを警戒しながら話す。


「結界、二重……いや三重ですねぇ」


 外周封鎖に魔力遮断。


 それに転移阻害。


 脱出は困難だ。


「中からの突破は難しいですよぉ」


 シルフィが肩を竦めた。


 加えて結界の奥には、蒼光剣士(アズール・ナイト)のカイラン。


 逃げ道となる通路を完全に封じている。


 後退すれば、斬られる。


「……厄介ね」


 リィナは短く息を吐いた。


 肩がわずかに上下する。

 激しい戦闘が続いた証拠だった。


 魔力はまだ残っている。

 だが、確実に消耗している。



 その時。

 床に刻まれていた魔法陣が――

 一斉に光った。


 ガァァァン!!


 石床に刻まれた数十の紋様が同時に起動する。


 拘束陣に魔力抑制。


 リィナの足元を白い魔法線が絡め取る。


「かかったな…!!」


 ヴァレンの囁きが空気を裂く。


 次の瞬間――紫色の霧が辺りを包む。


「これは毒っ…!!」


 リィナの肺に、焼けるような刺激が走る。


 視界がわずかに歪み魔力の循環を鈍らせる。


 ただの毒ではない。

 神経麻痺型の魔法毒だ。


 リィナの足が、鈍くなる。


 その一瞬を――


 ヴァレンは逃さない。


「貰ったっ!!」


 闇の中から、短剣が閃く。


 暗殺者の一撃。首筋を狙う完璧な軌道。


 致命の間合い。


 ――しかしその瞬間。


 空気が“変わった”。


「……あら」


 甘く絡みつくような声。


「その罠、もう“()()”わよ?」


 空間が黒く染まり床の魔法陣が、軋む。


 光の紋様が消える。


「な――」


 ヴァレンの声が止まる。


 床の魔法陣が、内側から“侵食”されていた。


 光が黒く染まり、魔力の構造が書き換えられていく。


「呪詛魔法、展開よ」


 黒い円環が、静かに広がる。


 それは魔法陣ではない。


 呪い、古代系統の”禁呪”だ。


 空間そのものへ刻まれる“拒絶”。


「これもあげるわ。」


 その瞬間、ヴァレンの足元の影が――


 絡みついた。


 黒い鎖のような呪詛が足首を捕らえる。


 身体が重く魔力が奪われていく。


「……っ!」


 ヴァレンが即座に跳ぼうとするが――


 動きが遅い。


 呪詛結界、それは動けば動くほど呪いが絡む仕掛けになっているのだ。


「くそっ……面倒だな」


 ヴァレンが舌打ちした。


 その時――


 空間が裂けるように開き1人の人物が姿を現す。


 長い黒髪に夜のように深い紫の瞳。

 漆黒と紫の魔女服、裾には月の刺繍が施されている。

 年齢は20代といった所の妖艶な女性。


 彼女はゆっくりと歩み出る。


 その足取りは、まるで散歩でもしているかのように悠然としていて

 リィナの赤い瞳が、わずかに見開かれる。


「誰なの……?」


 その声には、わずかな動揺があった。


 この戦場に割り込める魔力。

 しかも結界を逆転させる程の術を扱う。


 普通ではない。


 彼女は肩越しに振り返りくすりと笑う。


「自己紹介は後」


 紫の瞳が細くなる。


 その視線の先には、まだ動けないヴァレン。


「今は撤退でしょ?」


 そう言って、彼女は指を鳴らした。



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