第18黒 天才魔導師、黒百合に散る
空気が震え激突した魔力の余波が、
蒼光本部の石床をきしませる。
リィナの黒刃が振るわれるたび、闇色の魔力が花弁のように散る。
その軌跡はまるで、夜に咲く黒百合の花びら。
対するルシオは荒い息を吐きながら、次々と魔法陣を展開していた。
「くそっ……!」
額から汗が落ちる。
「これならどうだ!!」
ルシオは両手を突き出した。
魔法陣が三つ、同時に展開する。
赤、蒼、紫――三色の魔力紋章。
≪三属性連鎖魔法≫
「燃えろ――《紅蓮爆球フレア・バースト》!!」
「凍てつけ――《氷槍群アイシクル・ランサー》!!」
「貫け――《雷轟撃サンダー・ストライク》!!」
三属性同時詠唱。
蒼光でも上位魔導士にしか扱えない高度な連携魔術だ。
炎の爆球が廊下を埋め尽くし、氷槍が雨のように降り、
雷撃が空間を走る。
だが――
「遅い」
リィナの声は静かだった。
黒刃が一閃する。
「闇よ――すべてを裂け」
低く、短い詠唱。
≪黒龍断閃!!≫
闇が剣から奔る。
雷撃も、氷槍も火球も、音もなく斬られる。
ルシオの瞳が揺れる。
(勇者がこんな……化け物だったなんて聞いてないぞ?)
その瞬間だった。
ルシオの耳元で、魔力通信が弾けた。
『――なんのようだ!?
僕は今、黒のカサブランカを殺っている所なんだ、余計な手出しは――』
通信の向こうで、鋭い声が叩きつけられる。
『退け、ルシオ!!
そいつは今、お前が相手にする敵じゃない!!』
カイランの声だった。
その言葉に、ルシオの眉がぴくりと動く。
そして――
唇がゆっくり歪んだ。
「……は?」
小さく笑いながら、肩を震わせる。
「冗談だろ……」
床に巨大な魔法陣が展開される。
蒼光塔の床一面に広がる、複雑な魔導紋章だ。
「この僕が?」
ルシオの瞳が狂気を帯びる。
「ここで逃げたら――」
魔力が空間を満たす。
「誰がウィザーを出し抜くんだよ!!!」
通信の向こうでカイランが叫ぶ。
『よせ、ルシオッ!!』
だがもう遅い。
ルシオは両手を広げ、
蒼光本部の天井に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「見せてやるよ……」
蒼い光が渦巻く。
「蒼光第七位階――」
「――≪蒼雷終焉!!!≫」
次の瞬間。
天井を突き破るように、巨大な雷柱が落ちた。
神罰のような、巨大な雷柱が一直線にリィナへ叩き落ちる。
轟音と激しい爆発で床が砕け、壁が崩れる。
その中心でルシオは荒く息を吐いた。
「……はぁ……はぁ……」
唇が吊り上がる。
「どうだ……勇者」
「これが僕の――」
その言葉は途中で止まった。
雷が消え、煙が晴れる。
そこに立っていたのは――無傷のリィナだった。
黒刃を、ただ一振り。
それだけで雷は斬られていた。
ルシオの瞳が見開かれる。
「……は?」
理解が追いつかない。
リィナは静かに歩く。
コツ。
コツ。
瓦礫を踏み越える音。
「……終わりよ」
淡々とした声。
「な……なんで……」
ルシオが後退る。
次の瞬間―黒い魔法陣が足元に咲いた。
黒い魔力の枷が、足から腕へ、胸へと巻き付き
ルシオの身体が動けなくなる。
「ま、待て……!」
恐怖が滲む。
「僕は協会の要だぞ!大魔導士なんだ!!」
リィナはゆっくり剣を向ける。
その瞳は氷のように冷たい。
「だから?」
静かな声。
「あなたの魔力も、魂も……全部、私の糧になる」
黒い魔法陣が花のように開く。
ルシオの顔が歪む。
「ふざ……」
リィナが呟く。
「《奪魂の契約》――発動」
その瞬間。
ルシオの身体から魔力が引き剥がされるように溢れ出す。
「や、やめろ……!それは……僕の……!」
「もう、あなたのじゃない」
リィナの赤い瞳が輝く。
「今度は私が使ってあげるわ」
全てが吸い込まれていく。
「あ……ああ……」
膝から崩れ落ちるルシオ。
身体が崩れ、存在が薄れていく。
「やめ……」
声が消え、魂が砕ける。
最後に残ったのは恐怖だけだった。
リィナの瞳に、蒼い光が一瞬宿る。
「吸収完了よ。」
リィナは静かに剣を振るうと、黒い花弁が霧散する。
「私の復讐の贄になるといいわ」
その時だった。
「くそ、ルシオ……!」
駆けつけたカイランが歯を噛みしめる。
そこにはもう何も残っていない。
ルシオ=アストレアは跡形もなく消えていた。
リィナがゆっくりと振り向き
赤い瞳が、カイランを捉える。
「ふふっ…次はあなたかしら?」
黒百合は――
まだ咲き足りない。




