第17黒 追い詰められた、天才魔導師
魔法協会内部。
ルシオ=アストレアはゆっくりと眼鏡を押し上げ笑みを浮かべる。
「今のキミ達は袋のネズミ。さぁじっくり料理してあげよう。」
その視線の先。
黒い外套を揺らし、
リィナが静かに剣を構えていた。
赤い瞳が、微動だにしない。
「……随分と自信ね」
低く呟く。
ルシオは肩をすくめた。
「当然だろ?勝つのはこの僕、天才魔導師のルシオだからさ。」
指先を軽く振りその瞬間――
魔法陣が一斉に発光した。
「光槍」
空間から生まれた無数の光の槍が、
弾丸のような速度でリィナへ殺到する。
だが――
リィナは一歩も動かない。
「遅いわ」
剣が振られる。
「闇よ!食らい尽くせ!」
≪黒龍断閃!!≫
目にも止まらぬ斬撃が空間を裂き、
光槍を一瞬で切り裂いた。
パリンッ!!
魔力の破片が雨のように散る。
ルシオの眉がわずかに動く。
(……今のを斬った?)
普通なら回避する攻撃。
それを――
斬った。
リィナは剣を下ろしたまま言う。
「それで終わり?」
ルシオの口角が歪む。
「調子に乗るなよ!!!」
両手を広げる。
魔法陣が三重に展開。
≪光束砲!!≫
圧縮された光の奔流が一直線に放たれる。
廊下を埋め尽くす破壊の魔法。
だが。
リィナの身体が消えた。
「……!」
次の瞬間――ルシオの横。
影が迫る。
「っ馬鹿な…!!」
ギィン!!
剣が振り抜かれる。
ルシオは瞬時に障壁を展開した。
≪光壁!!≫
衝撃が爆発し障壁が歪む。
ルシオの体が数メートル吹き飛んだ。
靴底が石床を削る。
「……クソっ…こんな筈じゃ…」
体勢を立て直す。
思考が走る。
(有り得ない……詠唱の間に距離を詰めてくるなんて?)
ありえない速度。
魔法戦において、距離は絶対の優位。
それを――
一瞬で潰された。
リィナはゆっりと近づいてくる。
コツ……コツ……
その様子はまるで死神のようだ。
「魔導師なら、距離管理くらいしなさい…」
ルシオのこめかみに青筋が浮かぶ。
「ハハハッ……言ってくれるじゃないか」
指を鳴らす。
床の魔法陣が変形する。
「なら、逃げ場をなくしてやる!!!!」
光が走り廊下全体に魔力網が展開された。
≪魔力拘束網!!≫
無数の光の鎖が空間を走り、回避不能の封鎖魔法。
「どうだっ…驚いたか!?」
だが――
リィナは剣を一度だけ振った。
「闇に散れ!」
≪黒百合斬!!≫
静かな斬撃。
だが次の瞬間――
バリン!!と音を立て魔力網が、まとめて断ち切られる。
ルシオの目が見開かれる。
「……は?」
魔法を斬った?
そんな芸当、聞いたことがない。
リィナは淡々と言う。
「魔法陣が甘いわ」
赤い瞳が冷たく光る。
「構造が見えるなら斬るのは容易いわ」
ルシオの拳が震える。
(馬鹿な……僕の魔法は完璧だ)
王国魔法協会でも上位の術式。
それを
“甘い”だと?
リィナが剣を構える。
「これならウィザーの魔法の方が強かったわよ。」
その一言。
ルシオのプライドが、完全に燃え上がった。
「……舐めるな!!!」
魔力が噴き出し、床の魔法陣が巨大化する。
「まだ本気じゃない!…僕がアイツより下なわけがあるかァァァ!!!」
ルシオの瞳が狂気を帯びる。
「それを思い知らせてやる!!!」
魔力が空間を満たし、
二人の間で火花のように弾けた。
黒百合の剣が、ゆっくりと持ち上がる。
「いいわ、来なさい。」
――戦いの決着は近い。




