第13黒 王国魔法協会最上階、裏切りの円卓会議
王国魔法協会本部《蒼光》
王都の中心に突き刺さる、蒼白の巨塔。
昼でも冷たい輝きを放ち、夜は月光を吸い上げて青く脈打つ。
その最上階。
三重結界と完全沈黙の術式に閉ざされた円卓の間。
床一面に刻まれた巨大な魔法陣が淡く発光し、
青白い魔力灯が心臓の鼓動のように明滅している。
その中央に投影されていたのは、一枚の報告書。
《オルベール=カインハート子爵 死亡確認》
空気が凍る。
「……なるほど。」
低く落とした声の主。
――蒼光剣士隊長、カイラン=ブルーム。
短く整えた金褐色の髪の長身。鍛え上げられた体躯は鎧越しでも分かる。
蒼銀の軽装鎧は光属性の魔力を帯び、肩当てには剣士隊の紋章。
鋭い碧眼は常に獲物を測る猛禽類のようだ。
腕を組み、映像を睨む。
「護衛は全滅。侵入痕は最小限。
――これは、戦争屋の仕事じゃないな」
その声には、敵への警戒とわずかな高揚が混じっていた。
強者を前にした剣士の本能。
「当然でしょう。」
静かに返すのは、――魔導師 ルシオ=アストレア。
痩身で、長い黒髪を後ろで緩く結んでいる。
蒼白な肌に細い銀縁眼鏡。
ローブは協会の正装だが、無数の魔法陣が縫い込まれ、淡く発光していた。
その薄灰色の瞳は常に冷めている。
「これほど“無駄のない殲滅”。
解析するまでもない。
最近噂の“黒のカサブランカ”――の手でしょう。」
その名が出た瞬間、
室内の魔力灯が一瞬だけ強く脈動した。
「……ふん。」
円卓の影から嗤い声。
――僧兵長 リオネル=サンクティス。
大柄な体躯に分厚い僧兵装束。
胸元には金の聖印。だがその装束はどこか着崩れている。
短く刈った赤茶の髪に顎には無精髭。
手には常に金貨袋。
袋を弄びながら、いやらしく笑う。
「金の匂いが消えたと思ったら、首が飛んでたってわけか。」
「オルベールは上客だったんだがなぁ。
死体になっちまえば、もう払えねぇ。」
忠誠心は皆無。
あるのは金と、自分の命だけだ。
「黙れ。」
壁に背を預けながら、低く鋭く遮る声。
暗殺部隊長のヴァレン=シャルク。
黒髪は短く、片目は隠れている。
灰色の瞳は常に笑っているようで、実際は何も信じていない。
「問題は、誰が次に消えるかだ。」
その言葉に、沈黙が落ちる。
その円卓最奥で
一段高い席に座る女が、ゆっくりと口を開く。
「……予想より、早いですね。」
王国魔法協会長 大賢者、セラフィナ=ルクレール。
長く艶やかな白銀の髪を背に流し、
深蒼の法衣を優雅に纏う。
細い指先には宝石を嵌めた指輪。
その一つ一つが高位魔術媒体。
紫がかった蒼眼は、冷たい湖のよう。
微笑を浮かべながらもその奥に情はない。
「オルベールは使い勝手の良い駒でした。」
指で報告書をなぞる。
「研究資金、政治的裏処理。
ですが――壊れたなら、それまで。」
「切り捨て、ですか。」
カイランが低く言う。
「情は不要です。」
即答。
「彼が勇者時代の“裏”に関わっていた以上、
いずれ辿られる運命でした。」
その視線が、ゆっくりと横へ滑る。
「そうでしょう?……ウィザー。あなたもかつて勇者パーティにいたのですから…」
名を呼ばれた魔導士が、静かに顔を上げる。
大魔導士 ウィザー=アルヴァレン。
長い蒼銀の髪を高く束ね、背に流す。
薄紫の瞳は宝石のように澄んでいるが、奥に炎が潜む。
青と白を基調とした協会正装ローブ。
若い。だが才能は突出している。
表情は知的で冷静。
だが今、その瞳の奥に揺れるのは――嫉妬と執着。
「……はい、協会長。」
声は抑えられている。
「あなたの研究に融資していた貴族が消えた。
偶然だと思いますか?」
「……いいえ。」
唇を噛む。
白百合だった頃のリィナが脳裏をよぎる。
称賛を浴びる勇者。
自分よりも、常に中心にいた存在。
胸の奥で黒い感情が燃え上がる。
「彼女は……必ず、私の元へ来ます。」
「ええ。」
セラフィナは微笑む。
「だからこそ――あなたには役割がある。」
円卓を、軽く叩く。
「蒼光を挙げて迎え撃ちなさい。」
その声は甘く、冷酷。
「黒のカサブランカを――
王国の敵として、完全に葬るのです。」
ウィザーの胸に、
敗北と嫉妬が再燃する。
あの背中を越えられなかった記憶。
「……必ず。」
その呟きは、誓いであり、執念。
ヴァレンが肩をすくめる。
「勇者パーティの残骸同士の殺し合いか。
最高の見世物だな。」
「戦力配置は私がやる。」
カイランが前に出る。
瞳に宿るのは純粋な闘志。
「金になるなら壁くらいにはなってやるぜ。」
リオネルが笑う。
ルシオは冷ややかに術式展開図を広げる。
蒼光達は、静かに牙を剥く。
そしてその牙の先には――
黒百合の女帝がいる。




