表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 最初のメインターゲット 大魔導士、ウィザー=アルヴァレン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/40

第10黒 復讐の第一手。裏切り貴族オルベールの首

 

「それで……この後はどうするつもり?」


 リィナが取り押さえられた小男を睨みながら冷たく言い放つ。


 レジスタンのリーダー格の人物が淡々と答える。


「我々のアジトの牢に捕らえておく。我々の作戦が完了するまではな」


 その声には威圧も怒気もない。

 だが、反論を許さぬ確固たる意志が宿っていた。


 リィナの赤い瞳が細くなる。


「……作戦?」


 一言。

 しかしその響きには、剣先のような鋭い疑念が含まれている。


 リーダーは周囲を一度見渡し、声をわずかに落とした。


「丁度いい。キミも一度アジトへ来て貰えないか?」


 空気が一瞬だけ張り詰める。


 シルフィの影がわずかに揺れ、短剣の柄に指が掛かる。

 カイゼルは口元に薄い笑みを浮かべ、楽しげに状況を観察していた。


 リィナは一歩も動かず、ただ静かに問い返す。


「何が目的?」


 その視線は氷の刃。

 一切の情も躊躇(ちゅうちょ)も含まない、純粋な“敵味方の選別”の目だった。


 リーダーはその視線を真正面から受け止める。


「ここでは多くは話せない。だが簡潔に言えば……

 我々は魔法協会と敵対している。」


 言葉が落ちた瞬間、路地の空気が微かに揺れた。


 リィナの瞳に、ほんの一瞬だけ冷たい光が走る。


「どうだ? 我々と手を組まないか?」



 それは懇願(こんがん)ではない。

 取引の提示だった。


 互いに利益があるかどうか。

 それだけを問う、極めて合理的な誘い。


 沈黙が流れ――やがて、リィナは小さく息を吐く。


「……あくまで一時的よ。」


 その声には、冷たい線引きがはっきりと刻まれていた。


「それと条件が一つ。邪魔はしないこと。」


 剣の柄に添えられた指がわずかに動く。

 その仕草だけで、周囲の黒衣たちの緊張が一段高まる。


 リーダーは即座に頷いた。


「了解だ。」


 迷いは一切ない。


「……私のことはライラと呼んでくれ。」


 そう言って、黒衣の人物はゆっくりと顔を覆う仮面に手をかけた。


 外された瞬間。


 路地の灯りが、静かに彼女の素顔を照らす。


 そこに現れたのは、レジスタンスのリーダーとは思えぬほど整った美貌を持つ若き女性だった。

 だがその瞳には、幾度も死線を越えた者だけが持つ鋼の光が宿っている。


 強い意志。揺るがぬ覚悟。


 差し出された手は、仲間の証というより“契約の確認”のようだった。


 リィナはその手を見つめる。


 ほんの一瞬。


 だが次の瞬間には視線を外し、静かに答えた。


「リィナよ。」


 淡々と名乗る。


 そして、冷たい一線を引くように続けた。


「……でも余計な馴れ合いはしない。」


 差し出された手は、宙に残されたままだ。


 だがライラは気を悪くした様子もなく、小さく笑った。


「フッ……それで充分だ。」



 レジスタンスのアジト ―― 地下牢


 鉄格子が閉じる音が、静かな地下に冷たく響いた。


 ガシャン。


 小男は床に座り込んだまま、歪んだ笑みを浮かべる。


「くく……勇者様も堕ちたもんだな。

 今じゃ魔王気取りか? 世の中分からねぇもんだ」


「……言葉を選びなさい」

 リィナの赤い瞳が、まっすぐ小男を射抜いた。


 舌を残しておく価値があるかどうか。

 …まだ判断していないの」


 小男の笑みが一瞬で凍る。


「ひっ……!」


 リィナは表情一つ変えない。


「あなたは駒。

 駒は、役割を果たす限りは壊さないわ」


「でも無価値になれば――」


 赤い瞳がわずかに細まる。


「終わりよ」


 小男は言葉を失った。


 リィナはそれ以上見もしない。


 ただ、胸の奥で。


 消えない名が、静かに疼いていた。


(ウィザー=アルヴァレン……)


 怒りよりも悲しみよりも


 もっと冷たい感情。


(あなたが選んだのなら…その代償を払わせるだけよ……)



 歩みを止めない。



 作戦室 ―― アジト会議室


 地図が広げて、リーダーが口を開く。


「オルベール邸は簡単に言ってしまえば要塞。

 結界は三層、巡回は極めて厳重。侵入は容易ではない」


 リィナは地図を見つめたまま答える。


「正面から入る必要はないわね」


 指が排水路をなぞる。


「ここが死角。

 警備は薄い。罠があるとしても感知型」


 周囲が息を飲む。


 一瞬で構造を読み切っていた。


「ほう……だが、陽動が必要だ」


 リーダーが言う。


 リィナは静かに頷いた。

「ええ。…でも正面で騒ぎを起こせば警備は動く。」


 赤い瞳が灯りを映す。


 その奥に宿るのは、揺るがない冷たい決意。


「そして、ウィザーならそれに気付く…」


 一瞬の沈黙。


 誰もがその名前の重さを理解している。


 リィナは続ける。


「だからこそ――」


 指先が地図の中央に止まる。


「彼女の予測を一つだけ()()


 ほんのわずかに笑う。


 それは温度のない笑み。


 私が先行するわ」


 部屋がざわめく。


「危険すぎる!?」

「囮になる気か?!」


 リィナは首を横に振った。


「違うわ」


 淡々と言い切る。


「死ぬのは()じゃない…。」


 空気が凍る。


 赤い瞳が静かに細まる。


「裏切りの代償を、払うのは()()()よ。」


 かつての勇者の声ではない。


 それは。


 正義を捨てきれなかった女の裁きの言葉。


「……これが、私の正義よ」


 灯りが揺れる。



 リィナの瞳は真っ直ぐだった。


 一切の揺らぎもない。


 まるで最初から結論が決まっている者の目。


 迷いも、躊躇も、逡巡も。


 そこには存在しない。


「……分かった。君を信じよう」


 リーダーの低い声が静かに落ちる。


 周りもそれ以上異論は口にしない。


 言えるはずがなかった。


 あの目を見てしまえば。


 止めるという選択肢そのものが無意味だと理解してしまう。


 リィナは小さく頷くだけだった。



(あなたが選んだ道よ、ウィザー)


 赤い瞳が静かに細まる。


(私がバケモノなら)


 心の奥底で、刃のように冷たい言葉が形を成す。


(……あなたはクズよ)


 リィナは背を向ける。


 かつての仲間を“敵として認識し直した者”の歩き方だった。


 灯りが揺れ、影が長く伸びる。


 まるで、夜に咲く黒百合のように。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ