魔族に嫁いだ花嫁は、同担の夫と推しを愛でる
思いつきでぱぱっと出来ました。
異種族婚姻譚になるのかな。
でもメインは推し活です。
ザラ・ブライアンはとにかく強く、とにかく美しい。王都からやってきた麗しの女性騎士は、田舎の騎士団を席巻した。
女性としては背の高い、一般男性の平均くらいの身長に、すっきりとした細身の体躯。赤みがかったまっすぐなブラウンの髪を一つに纏めると、鋭い琥珀色の瞳が人々の目を射抜く。神が丹精込めて作り上げたであろうその顔は白磁のように白く滑らかで、わずかに色づいた唇は自然と大人の色気を醸し出していた。女性というより中性的。騎士服にその肢体を包めば男性にも見えてくる。おかげで同僚である女性騎士はもちろん、下働きの女の子までザラ・ブライアンに夢中になった。
彼女は孤高の剣士であり武断の英雄でありみんなのアイドルであり、私の中の不可侵領域に唯一お住いの人、神を超えた神的な存在……
ザラ・ブライアン。絶対的な、私の推しであった。
私、クラリスは、辺境伯であるお父様の隣で騎士団の練習試合を観戦し、ザラ・ブライアンに惚れた。十六歳の感性はザラ・ブライアンの魅力に共鳴した。完全に落ちた。命綱など無用の勢いで、潔く真っ逆さまに、恋のドツボへホールインワンである。
女同士で何言ってるの、って?
ふざけないで。だったらもっと素敵な男性連れてきてみなさいよ。どいつもこいつも、田舎臭くて泥臭くて脂っこい。周囲を見渡してみても、ザラ・ブライアンよりいい男なんて、どこにもいないじゃない。ザラのように洗練された身のこなしや、不敵さを滲ませた僅かな微笑みや、体幹のいい立ち姿勢とか、できるもんならやってみればいいわ。
ああんもう、ザラ・ブライアンかっこいい……! ザラしかいらない、ザラだけが全て!
私は暇を見つけては騎士の鍛錬場を覗きに行った。辺境伯の娘という立場を利用して、理由をつけては騎士の鍛錬場を視察した。私はひたすらザラ・ブライアンを凝視し続け、彼女の声に耳を澄ました。
私は権力者の娘であるから、当然忖度がされる。私がザラ・ブライアン推しと周囲に知れると、外出の際はザラ・ブライアンが護衛につくことが多くなった。
馬車から降りるたびに女性の割に無骨な手を差し出して、微笑むザラ・ブライアン。ああ、推しが目をつんざくほどの輝きでもって私に仕えている。丁寧かつ不敬にならない程度の距離感で、世話を焼き会話をしてくれる。
推しの手を取って馬車を降りながら優越感に浸る、私。
権力者の娘でよかった、ほんと、マジで!
と、脳内でよだれを垂らしながら、ニタニタしていたのだが。
我が辺境領は、魔族領と隣り合わせである。領境ではときどき魔族の哨戒兵と小競り合いのようなものが起こっていると聞いていた。境界線が不明瞭なため起こる争いであった。
ところが、新しく赴任してきた魔族側の辺境領主が、明確な領境の線引きを提案し、お父様がそれを了承した。人間と魔族との和平交渉・不可侵条約と共に、通商条約まで結んだ。どうやら魔族側の新領主はやり手らしい。
和平交渉には、条件が付いた。
人間側代表の娘と、魔族側の新領主との婚姻である。
この婚姻をもって、和平案に賛同し了承する。要約すると、人間なんて信用できないから人質をよこせ、ってことだ。
人間側代表、というのは辺境伯である私のお父様のことである。お父様の子供は五人いる。私の長兄、次兄、私、弟、下の弟である。
お父様の子供の中で、生物学的に女性というのは私しかいないわけで。私は人間側の娘代表に選ばれたわけで。そもそも選択肢なんかないわけで……
権力者の娘って最悪だな、ほんと、マジで!
というわけで、私は魔族の代表と結婚するために魔族領へと向かわされたのであった。
◇ ◇ ◇
魔族領に入って馬車で二日。領主の館のある町まで、それなりの距離があった。
馬車の窓を開けてみればザラ・ブライアンが騎乗で並走しているのが見えた。お父様がせめてもの慰めとして、ザラ・ブライアンを護衛として付けてくれたのだ。ありがとう、お父様。ザラ・ブライアンだけが生きる糧です。推し抜きでは精神が持ちません。
だって、結婚相手が魔族ってさあ!
そりゃあ私だって貴族の娘ですから、いずれ政略結婚もあるんだろうな、とは思っていたよ。政治利用の駒になるのは知ってたし。しかも今回は和平を結ぶ条件という重たい役目だから、本来ならやりがいを感じるべきところなんだけど。
お相手が魔族だとは思わないじゃん。せめて、人間にせえよと思うじゃん。
馬車が大きな町に入った気配がして、ちょっと窓から覗いてみたらね。
あああああ。普通に獣の耳つけた魔族歩いてるうう。尻尾ついてるし。羽生えてるし。皮膚鱗だし。うわ、角生えてる魔族もいるよ。牙が、牙がはみ出てるから!
私はピシャンと窓を閉めた。
いけない。偏見でもって魔族を見てはいけない。獣っぽいけど知性が備わっているのが魔族だ。なんなら高度な魔道具の普及なんて人間より進んでるんだって聞いた。だから大丈夫。見た目は違うけど、人と変わらない。文化的な生活を送ってるじゃない。
だけど、ほんの少しだけ、私の本音を漏らそう。
えーんえーん、怖いよーたすけてー……
領主の館、と聞いていた建物は、私の持つ知識では、それはお城だった。
頑丈そうな石造りの巨大な建物である。門番とかもしっかりいる、素敵なホームセキュリティの高さである。見た目からして、おまえここから逃げられないからな、と言っている。
ビビり散らかしながら馬車から降りる私を、ザラ・ブライアンが心配そうな顔で手を取ってくれた。ほんとにさ、あなたがいてくれてよかった。そうじゃなきゃ今泣いてた。ギャン泣きしてた。
貴族のような恰好をした、羊みたいな角を生やした魔族に案内され、私は豪奢な部屋で領主である魔族の前に立った。大小五人ほど立っているのでどれが領主かわからなかったが。
誰を見ても、見た目は魔族らしく、角や尻尾が生えていた。
私は丁寧にお辞儀をした。
「オスクル・ファンディエゴ辺境伯の娘、クラリス・ファンディエゴと申します」
「……」
「クラリスとお呼びくださいませ」
「……」
「クラリス、でございます」
「………………」
……私、ちゃんと挨拶できたよね?
無言で返されるとは思っていなかったので、チラリと先方を窺ってしまった。
黒い髪と長く豊かな黒い尻尾を持つ魔族が、苦い顔をしながら真ん中の銀髪の魔族をせかしていた。二本の角を持つ銀髪の背の低めな青年……少年に見える……が、よそ見をしているところを気づかされたようで、はっとしていた。慌てたように私に向き合い、居住まいを正す。人間にはない、赤い瞳が印象的だった。
「……わ、私が辺境伯である、ヴァセル・キリバリーだ。盟約により私があなたの夫となる」
「はい」
「えー、それで……あなた、えーと、クラリス殿の背後にいるのは」
「私の護衛兼付き人です。書類でお知らせしていたはずですが」
「あ、ああ。確か女性の護衛が一人つくと」
「ザラ・ブライアンはこう見えて女性です。父が女性の護衛を連れて行くといいと申しまして」
「ザラ、と申すのか」
ザラ・ブライアンは胸に手を当ててお辞儀をした。まっすぐな赤茶色の髪がハラリと揺れた。もうそれだけで格好いい。美が溢れてる。眼福。推します。
「クラリス様の護衛の、ザラ・ブライアンと申します。領主様におかれましては、私のような者がクラリス様のおそばに控えますこと、お目障りかと存じますが、ご容赦ください」
「…………いい…………」
……ん?
私の未来の夫、ヴァセル様はほんのりと顔を赤くした。口元がゆるゆると綻んでいる。
私になんか見向きもせず、麗しい私の推しをガン見していた。
ガン見の奥底にある、夢見るようなうっとり感がどうにもおかしい。その感じ、身に覚えがありすぎる。
……おや?
「ザラはクラリス殿の付き人をして長いのか」
「恥ずかしながら、騎士としての業務ばかりで過ごしておりまして。今回の人事により、付け焼刃でクラリス様のお世話を学んでまいりました。ご迷惑をおかけしないよう、いそしむ所存でございます」
「無理はするな。こちらもクラリス殿専用の侍女を用意している」
「お心遣い、痛み入ります」
「き、気にするな。私はそなたたちを歓迎している。
な、なんならザラよ。私の護衛となり、私のそばで……」
「ちょーーーーっと、待って」
私はそれなりの大声でストップをかけた。周囲がざわめいたが気にしない。
そんなことより、我が夫(仮)だ。
てくてくと銀色の頭した未来の夫のそばに寄った。近くで見ると背も私くらいで幼い顔をしている。高級そうな貴族服を身につけているが、明らかに服に着られていた。サスペンダー付き半ズボンとかが似合うと思う。
私はどんな顔していいか分からず、真顔でヴァセル様に向き合った。
「ヴァセル様、ちょっと」
「な、なんだ」
「ちょっと、お話が」
「え? なんで。あなたとは別に」
「お・は・な・し・が!」
ヴァセル様は息を飲んで私を見た。じいいいいっと見つめ続けると、ヴァセル様は私の眼圧に負けた。目をバキバキにして睨んだ甲斐があった。
少し嫌そうな顔をして、ヴァセル様は私の手を取った。そのまま部屋の脇にあったドアに誘導する。隣室に繋がっているのか。
隣室は控え室兼資料室のようだった。テーブルといくつかの椅子、棚には沢山の本や資料が詰め込まれている。
ヴァセル様が私を赤い瞳で睨みつけてきた。銀色の頭髪から二本の角が生えているのが見えた。
……うわあ、こんな近くに魔族がいる。さすがに、ちょっとビビる。
「話ってなんだ」
「ここ、会話漏れませんか」
「めんどくせえな、おまえ」
ヴァセル様は手のひらを顔の前で水平に掲げた。手のひらに白いモヤのような球体が生まれる。それにふっと息をかけると、モヤは一瞬で飛散した。
「これでおれたちの会話は聞こえない」
「……すご。これ魔法? サイレント?」
「おれを誰だと思ってんだ」
「いいとこの魔族の坊ちゃん」
「……その回答、間違っちゃいないが、ムカつくな。
で、話ってなんだ」
ヴァセル様が鼻にシワを寄せて私を見ている。非常に険しい表情だ。どうやらこの短時間で坊ちゃんの尻尾を踏んづけたみたいだった。
だが、私だって言っておきたいことがある。放っておく訳にはいかない。私の中で最重要課題だもの。
「私の護衛に色目を使わないでください」
「ザラ・ブライアンか。
あれは美しいな。見ているだけで目が潤う気がする。世界の色彩が鮮やかになったみたいだ」
ヴァセル様がうっとりと顔を上げた。脳裏に焼き付いたザラ・ブライアンを思い出しているのだろう。
ザラ・ブライアンのおかげで世界が鮮やかに……当然よ。私の推しだもの。世界を鮮やかにさせるくらいの実力があるわ。なんならマイナスイオンも発生してるわ。ヴァセル様の言葉に、同意しかない。
「ザラ・ブライアンには浄化作用がありますから。ザラのおかげで世界は美しくなるのです」
「違いないな。存在がエリクサーだ。
顔、身体、声、どれを取っても美しい。美が集まり過ぎている。集まりすぎて渋滞してる」
「ええ。華麗と美麗と秀麗の、壮大なトラフィックジャム」
「もう、ザラ・ブライアンが世界を救う」
「推しから始まる世界平和」
ヴァセル様はふうとため息をついた。
「存在だけで世界を救っているのに、本人のなんと謙虚なことか。己の魅力に気づいていないのか。
なんと哀れな。だからこそ魅力的な。マジやべえな。断トツでしゅき。すごくしゅき」
「はああああ、もう。……もうもうー。
綺麗すぎよ、ザラ・ブライアン。完璧すぎて窒息するわー」
「その上あのプロポーション、なんだよー。ずるいだろー」
「そーなの! どこに賄賂送ったらあの身体になれんのよ。誰と癒着すればいいのよ」
「卑怯だよな。差別としか思えん。どこにも欠点がない完璧超人なんておれが許さん」
「その完璧超人であるザラ・ブライアンに、色目を使わないでください」
本題にもどって、私とヴァセル様はジリジリと睨み合った。権力でもってザラ・ブライアンを奪われてなるものか。
この坊ちゃんは見かけは完全にショタだが、この城で一番偉いのは間違いない。確か魔王の血族だって聞いている。トップダウンでザラ・ブライアンの人事に介入することだってできるだろう。
そんなことさせてたまるか。私のザラ・ブライアンを取られるわけにはいかないのだ。偉い魔族だからって、人間の小娘が簡単に言いなりになると思うなよ。
私は首から下げた魔道具をヴァセル様に見せつけた。お父様から預かった私の最終兵器である。
「これがなんだかお分かりですか」
「おい、それは」
「人類が開発した特注の魔道具、エレキテルカル防犯ブザーです。この魔道具を発動すれば、すぐにお父様に連絡がいき、人類の軍隊が出動する手筈になっています。人類は魔族を敵とみなし、魔族領へ攻勢を仕掛けることでしょう。圧倒的な数でもって」
「……」
「魔族は人類より少数であり、長い戦いとなると魔族側は不利。それはご承知ですよね」
「おまえな……」
「人質としてあなたの妻になることは了承しますが、私の推しをあなたに預けるつもりはありません。ザラ・ブライアンは私の永遠の推しなので」
「……………………わかった」
ものすごく長い沈黙の後、ヴァセル様は苦々しげに頷いた。勝った。
魔族は個々の身体能力や魔力は強いが、いかんせん数が少ない。魔族が持つ戦闘力と人類の戦闘力を単純に数字で表すと、一:十くらいの差がある。人類は数の暴力で魔族に圧勝できるのだ。それをしないのは、単純に犠牲が多く出ることと、魔族の持つ魔道具の知識が有用なためだ。お父様は将来的に魔族と魔道具の共同開発をしたいらしいが、娘の私は知ったこっちゃない。
とにかく、ザラ・ブライアンを手元で眺め続けること!
それより優先する事柄などないのだ。
ヴァセル様は忌々しそうに私を睨んだ。
「ひとつ、条件がある」
「何かしら」
「……その日にあったザラ・ブライアンの動向を、おれに報告すること」
「なんで?!」
「おまえの、ザラ・ブライアンについての表現は、まずまずだ。ザラについてはまだ深く知る必要があるし」
「ちょっと! 権力でザラのことどうにかしようとしたら、すぐさまエレキテルカル防犯ベルを鳴らすからね!」
「そんなことしねーよ、バカヤロウ! おれの一存で国を危険にさらすつもりはねえし、ザラ・ブライアンはそういう対象じゃねえし!」
……ザラ・ブライアンはそういう対象じゃない? じゃあどういう対象?
じとっとヴァセル様に目をやると、ヴァセル様はゆるやかに赤くなった。床に目を落とし軽く蹴っている。拗ねた少年のような姿がドンピシャでハマっていた。
ヴァセル様は私から目を逸らしながら、独り言のように呟いた。
「ザラ・ブライアンは、なんというか。かっこいいお姐さまというか、眩しくて見てらんないけど見ちゃうというか、超越してて奇跡の存在を見てるというか」
「わかる。そこにあるのが信じらんないよね! あんな完璧な存在がいるはずがないよね!」
「目が離せないんだけど、目が合うとやべえっていうか。ちょっと微笑まれたら、心臓がぐわってなるというか」
「なるなるぅ。心臓壊しにかかってくるぅ」
「だから、性的にどうこうとかじゃなくてさ。ただ見たいし、知りたい、っていうか」
「つまり、私と同じ? ヴァセル様の推しはザラ・ブライアン、ってこと?」
ヴァセル様は沈黙した。ヴァセル様の脳内でいろいろ協議が行われていたようだが、最終的に銀色の頭がコクンと頷いた。お、素直なショタ、かわいいじゃない。
「いいわよ。同じ推し活同士、情報は共有しよう。私は同担拒否ではないからね」
「お、おう。
つーかおれ、推し活してんのか」
「まさか同担とは思わなかったけど。初対面だけど、私たち会話に困ることはないわね」
「む。確かに」
「ところでさあ、こんな話、家臣に聞かれたくないじゃない。二人でどこで話せばいいの?」
「ああ。おれたちの部屋でよくないか」
「おれたちの部屋って、何? 推し活部屋でも作るの?」
私は当然のように自分の部屋をもらえると思っていた。辺境伯領では、幼い頃から自分の部屋をもらって生活していたからだ。
ヴァセル様も自分の部屋があるだろうから、その中間地点辺りで、推し活部屋を作るのかと。
ヴァセル様は呆れたように私を見返してきた。ショタのくせに、こいつ大丈夫かという大人びた視線を投げかけてくる。
「おまえ、ここに来た意味わかってんだよな」
「え?」
「ザラ・ブライアンの推し活の延長で来たんじゃねえ。おれと結婚するためだろう」
「あ」
「おれたちの部屋ってのは、夫婦の部屋に決まってんだろが」
「あああ!!!」
◇ ◇ ◇
魔族領に来て三日後には、結婚式があった。
人類側からは招待客のない、ものすごく急いで行われた式だった。結婚したという事実をもとに、政策を先に進めたかったのだそうだ。
私は純白のウェディングドレスを着せられ念入りにお化粧をされ、それはもう盛大にお祝いがされた。
明らかに燕尾服に着られているショタ旦那のヴァセル様は、城のバルコニーに立ち、終始笑顔で声援に応えていた。領民にはとても人気があるらしい。
問題の夫婦の部屋、というのは巨大なリビングルームと巨大な寝室の、二間で構成されていた。寝室に鎮座しているベッドなんて、ベッドメイクの仕方が想像つかないくらいでかかった。
初夜の夜。私たちはベッドの真ん中で、大いに盛り上がっていた。
もちろん、ザラ・ブライアンについて、である。
でかいベッドの真ん中で、私とヴァセル様は白い寝間着のまま足を延ばして語り合った。二人とも中空を見上げながら、本日の麗しいザラ・ブライアンを思い出していた。
結婚式の間、私の背後に控えていたザラ・ブライアンは、我が実家であるファンディエゴ家の紋章付きのサーコートに、魔族領で咲く白い花を胸に飾っていた。感無量とも言える満足気な表情で、私の背後ですっきりと立っていたのだが。
その姿の凛々しさ美しさと言ったら、もうなんていうか、なんて言ったらいいのか、なんつーかよくわかんないんだけど……もうー!
「私の背後から虹が出てた……!」
「おれにも見えた。光の三原色が、刺さる勢いで襲いかかってきた」
「主役は私たちなのに、圧倒的に推しのステージだったね!」
「情勢上、人類側から参列者を呼べなかったから、ザラ・ブライアンが人類代表みたいだっただろ。威厳を保ちながらも、慈愛を込めた表情が……エグいほどそそった!」
「ヨダレ出る。もう二度と見れないかもね! ヴァセル様、誰か写真の魔道具で、写真撮ってないの?」
「……おれに、様つけなくていいよ。
写真は撮ってるはずだけど、おれたちばっか撮ってんだろうな。もったいねえ」
「立場上、ザラ・ブライアンを撮れとは言えないしねー」
「見切れててもいいから写ってないかな。手元に置きたくねえか?」
「ほしいー! 家宝にするぅ!」
「クラリス、式の前にザラ・ブライアンに何か言われてなかったか?」
「あん、あれね! 『クラリス様、お幸せに。私は未来永劫貴方様を見守り続けます』って、きゃあ! 未来永劫だって! ザラ・ブライアンの視線が私だけに注がれるのよ!」
「護衛騎士の鑑かよ! 男前かよ!
ああ、くっそ、クラリス羨ましい!」
「好きー。もう、大好きー」
ザラのことはおれの方が好きだしー、私の方が好きだしー、うっせー負けねー、私だって負けないー、なんか疲れたー、眠くなったー、もう寝ようぜー。
と、私たちはでっかいベッドの端と端で、ぐうぐう寝た。硬さのちょうどいい、よいベッドだった。
翌朝、ベッドメイクを担当した侍女にその事を耳打ちされ、黒髪・黒尻尾の副領主、ゴードンが眉をひそめた事を、私たちは知らない。
◇ ◇ ◇
ヴァセルは領主として、ちゃんと忙しかった。
どうやら、魔族辺境領は副領主のゴードンが采配をふるって政治を行っているようだが、最終決定権はヴァセルにある。年若いヴァセルの補助としてゴードンがいるが、ゆくゆくはヴァセルの手で切り盛りしていきたいらしい。毎日が勉強と実践を同時進行で行っているようなので、忙しくないわけがない。
私も魔族のことについて勉強することが山ほどあるので、昼間は別室で勉強漬けである。文化がちょっとずつ違ったり、言葉のニュアンスが違ったりとか、きちんと覚えた方がいいことが多くて頭がパンクしそう。そんな時は扉の近くで背筋を伸ばして控えているザラ・ブライアンを眺めて、寿命を延ばした。はああ、今日も凛々しい、私の推し。
夜はヴァセル相手にザラ・ブライアンを称えまくる。
ヴァセルは見た目がショタだけど、かなりの紳士だった。結婚してからヴァセルに触れられたことはない。毎日一緒に寝てるけど、初夜の時と同じようにベッドの端と端で寝ている。朝は私より先に起きて、身支度して食堂に行ってしまうし。
そんな状態なのに、私の侍女がやたら露出の多い夜着ばかり用意してくるので、私は独断でヴァセルの夜着を借りることにした。ゆるっとした白い長袖長ズボンである。サイズもほとんど変わらない。ヴァセルは何も言わなかった。侍女には露骨にがっかりされたけど。
同じ白い夜着を着た私たちは、寝る前にベッドの真ん中で話し込んだ。今日の推しはいつもより眠そうだったとか、なんかやたら肌ツヤよかったとか、ちょっと前髪切ったとか、特別に手ずからお茶を入れてくれたとか、でもこぼしまくって照れ笑いしてたとか。ザラ・ブライアンについて話すことならいくらでもある。
ヴァセルはいちいち羨ましそうにしたり、好奇心に駆られたり、可笑しそうに笑ったりしていた。私の話でキラキラした赤い目が、楽しそうにしたり、嫉妬したりするのを見るのは、面白かった。
魔族だけど、人と変わらない。
むしろ同担なだけに感情移入しやすい。ヴァセルが楽しそうだと私も楽しい。ヴァセルが嫉妬にかられると優越感に浸れるし、ヴァセルが心底うらやましそうにすると、一緒にザラ・ブライアンを観察できる状況を模索したくなる。町の視察とかいいのよね。
同担の夫と推し活ライフを続けて、約半年。
事件は唐突に起きた。
唐突ではなかったが、充分育ってから急激に日の目を見て、殴りかかってきた。私の印象ではそんな感じだった。
◇ ◇ ◇
ある日、珍しくザラ・ブライアンから、お話がありますと切り出された。できれば領主様も含めてお話ししたいと。
訝しくは思ったものの、公的にヴァセルと推しの鑑賞会が行われることになる。大変喜ばしいことだ。
私はヴァセルに言って時間を取ってもらった。ヴァセルもノリノリだった。隠しカメラで動画を撮れないかとか、それは犯罪じゃないかとか、話の終わりになんとなく記念撮影に持っていけないかとか、前日の夜に二人で悩んだ。
ヴァセルの執務室で、執務机についたヴァセルの後ろに副領主のゴードンと私、机の前にザラ・ブライアンが立った。ザラはいつものように清々しく、凛とした立ち姿だった。
話とは、というヴァセルの問いかけに、ザラはにこりと微笑んだ。今までになく艶やかな微笑みだなと、その時思った。
「この度、懐妊いたしました。出産育児のため、しばらくお暇をいただきたいのです」
「「 は? はあああっ??? 」」
「腹に命が宿りました。医者によれば妊娠五か月ほどだろうと。一年ほど出産・育児休暇をいただきたいのですが」
「ちょ、ちょ、ちょ……」
ちょっと待ってーーーーー!!!
あの、私の推しの、究極の美の塊の、唯一無二の無敵理想系鉄人女性騎士の、ザラ・ブライアンが妊娠!!!
中性的カッコよさナンバーワンぶっちぎりの、ザラ・ブライアンが、お母さん!!!
よろけて執務机に手を突く私。隣を見るとひきつって完全に固まったヴァセルがいた。私と同じくらいショックを受けている人がここにもいた!
「っだ、誰? 相手、誰?」
「ゴードン様です」
ゴードン!!!
ばっと、ヴァセルと二人でゴードンを振り返った。お前かよおおお!
黒髪・黒尻尾のゴードンは嫌そうな顔でザラを見ていた。豊かな黒尻尾が不機嫌そうにブルリと振られた。イライラしたように組んだ腕の上で指を叩いている。
「私ではないと、何度も言っているでしょう」
「時期的にはゴードン様の可能性が高いと、何度も申し上げております」
「だが、あなたは同じ時期に複数人の男と同衾している。そのいずれかの男では?」
……ん?
んん?
なんだって?
なんつった?
同じ時期に? 複数人の男と同衾?
ザラ・ブライアンが。
男と。
んん?
んんん?
聞き間違い?
ザラ・ブライアンが端正な顔をゆがめてゴードンに言い募った。
「それは! あなたとの夜が凄すぎて!
魔族とはこうも濃密な夜を過ごすのかと思い。確かに魔族の男を幾人かつまみ食いはしましたが!
種族の違う魔族を試してみても、あなたを超える男はいなかった。あなただけが私を満足させてくれる男なのです!」
「ザラ、ブライアン。あなた、何を言っているのか分かってますか」
「分かっていますよ。馬の属性を持つあなたとの夜が忘れられないのです、ゴードン様!
絶え間ない官能が私を蹂躙した、あの夜。あなたの身体に魅了され、私の心はあなたで塗りつぶされた。もう、もとには戻れない!」
「もうやめなさい。ヴァセル様とクラリス様の御前ですよ」
ザラ・ブライアンは顔を赤くして黙り込んだ。強い目でゴードンを見ているが……いつものような凛とした感じではなくて。女性らしさが強くなって、色っぽさというか艶っぽさ……いや、なんか違う。
なんだかな、なんだろう。
ヴァセルがゴードンに向けて、「説明」とつぶやいた。ゴードンは自分より小さな主に目を向けて、ため息をついた。話すべきなら既に話しているのだろう。黙っていたということは、話したくなかったということだ。
「……魔族と人間の婚姻というのは、ヴァセル様とクラリス様が初めてのことでございます。人類との和平を象徴すること以外にも、我々には目的があります。
我が魔族は繁殖力が弱い。それゆえに、人口の伸び率がいつまでも横ばいです。
その点人類の繁殖力は我らにとって垂涎もの。人類の血を混ぜることにより魔族の人口が伸びる可能性があります。そのためにも人類と不可侵・平和条約を結び、魔族と人類の壁を低くする。さらに辺境領主のヴァセル様に人類との混血である後継者を作っていただき、混血を促進していくことこそが、この度の政略結婚の意義でございます。
ところが……」
ゴードンがヴァセルと私を同時に見やった。不甲斐なさと意気地のなさを詰る様な視線だった。
「主寝室担当の侍女によれば、ベッドにはそのような乱れはないと。二人仲良くベッドの端と端でお休みになられているようだと、報告が上がりました。
健康な男女が同じベッドで……普通に考えてありえませんよね。
魔族と人間ではそもそも構造が違うのかと。繁殖行動が違うのであれば、根本を考え直さねばなりません。それゆえに、私が実地で試してみたのです」
「おまえ、それっ……!」
「主人の伴侶であるクラリス様を暴くわけにはいきません。
人間の女ならもう一人いるじゃないですか」
「……ザラ・ブライアン……」
「彼女にも初めからそのつもりで、と伝えたはずですが」
ザラ・ブライアンはうっとりとした顔でゴードンを見つめていた。美しくはあるが、うっとりの中に紛れ込んだ、媚や欲望が見え隠れしているような気がした。
あれ? 美しい、かな……。
「ザラ・ブライアンの身体を試しまして、繁殖行動には問題なしと、判断致しました」
「あの熱い夜が、ただの実験だなんて思えない! あんなに淫らな行為は私だってしたことがない。あれを何度も繰り返すなんて。あなただって私を堪能していたでしょう!」
「あなたが凝りもせず、何度も挑みかかってくるからでしょう。返り討ちにするのは、男として当然」
「私をここまで満足させてくれる男は初めてなのです。王都の男どもにも、あなたほどの男はいなかった。お願いです、私と生涯を共にしてほしい」
「私は独身主義です。もう関わらないでください」
「あの後も、何度か抱いてくれたじゃないですか! あれを楽しんでいなかったとは言わせない!」
「他の女の予定がなかっただけですよ」
「あ、あなたって魔族は! ひどい、最低な男!」
「王都の騎士団の一部隊を食べ尽くしますか、全員を兄弟にした女に、言われたくないですね」
うわー。
うわーー。
うわーーーーーーー。
……引くわ。どん引いてるわ。
これが、大人の男と女の会話ってやつ?
大人ってこうなの?
なんか、すごく、やらしい。すごく汚い。
やだ。見たくない。すごくやだ。
やなんだけど……素直に自分をさらけだす推しを、初めて見た気がする。作り上げられた推しばかりを見ていた気がする。完璧すぎるザラ・ブライアンは、彼女が演じた理想の騎士で。
本当のザラ・ブライアンという人に、私は初めて会ったのかも。
私は硬直していた空気から意を決して、執務机から離れた。部屋の端にあった椅子をずるずる引っ張って、ザラ・ブライアンの脇に置いた。
「座りなさい」
「でも」
「いいから、座りなさい。あなた、妊婦さんでしょ!」
ザラはおそるおそる椅子に座った。手が自然におなかを守っていた。おなかの中の新しい命。守るべき命。
……もう、ちゃんとお母さんじゃない。
私はヴァセルに顔を向けた。ヴァセルはそれだけで分かってくれた。
ヴァセルは後ろに平然と立っている、タガの外れた朴念仁を見上げた。
「ゴードン、お前、ザラと結婚しろ」
「丁重にお断りしますが」
「人類との混血が生まれることがこの政策の意義だろう。副領主の子供が人類との混血であれば、それは大いに意義のあることだ」
「なっ……」
「さらに、魔族と人類との混血児の妊娠・出産について、先例があると助かる。思わぬトラブルがあるようでは、クラリスの時に困るからな。
ザラ・ブライアンの様子をつぶさに記録するように」
「ヴァセル様。それは、ついに後継を……!」
「まあ、近いうちにいずれ、という話だ」
「……」
「ゴードン?」
「……かしこまりました。
ザラ・ブライアンとの婚姻、承りましょう」
ザラ・ブライアンが両手で顔を覆った。喜びで頬がバラ色のなったのが見て取れた。
それは本当に心から綺麗な女の人だな、と思える瞬間で。
女性として、ザラ・ブライアンが綺麗だと思う日が来るなんて。
私は座っているザラの頭を抱き寄せた。ザラは私の身体に縋り付いてきた。
ザラ・ブライアン。
うれしいね。頑張ったね。
これから頑張ってね。
……よかったね。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
私とヴァセルはいつものようにベッドの真ん中にいた。
二人して沈黙したまま体育座りをしていたが、ため息をついたのは同時だった。
思わずヴァセルに目をやると、ヴァセルの赤い目もこちらを向いていた。やるせなさが全面に出ていた。
考えてることも、同じかな。
「……推しが、推しじゃなくなったね」
「今やゴードンの奥さんだもんなあ。妊婦さんだし」
「もうね、少しおなか出てきてるんだって。愛しそうに撫でながら言ってたよ」
「はああああ。でもその正体は、王都で名を馳せたヴィッチ……」
「言わないで。男漁りして風紀を乱した罰で辺境に送られてきたなんて事実、知りたくなかったんだから」
「推しが、ヴィッ……」
「言うな」
鋭い私の一言で、ヴァセルは黙った。そういえば、ザラ・ブライアンの妊娠で、同じくらいショックを受けてた仲だった。仲よくしよう。
ちなみに確認なんだけど、と銀色の頭を傾げてヴァセルは私の様子を窺った。聞きたくないけど聞かずにはいられない、という感じだった。
「人類の女性は、その、色んな男とそういうことするの、普通なの?」
「王都のヴィッチと一緒にすんな」
「すいません」
「えーと、一応念の為聞くけど。
魔族の男性は、日替わりで女の人、とっかえひっかえするの当たり前?」
「下半身のしつけがなってない、某副領主と一緒にすんな」
「すいません」
ヴァセルはさらに頭を傾けた。ヴァセルの角が私の肩に優しく触れてきた。
初めて会ったときに手を引かれて以来、ヴァセルが私に触れてきたことはない。これが二回目になる。
二回目に触れてきたのは、角かあ。角なんだ。
「クラリスは、一途だもんな。推し活見てたからわかる」
「そうだよ。好きになったら一直線だよ」
「推しがいなくなっちゃったけど、どうするの」
「そうだねー。新しい推し見つけるかあ」
「見つかりそう?」
「うーん」
私は悩むフリをする。深刻そうにしてヴァセルから顔を逸らす。焦れたように角が追いかけてきて、私の頭を優しくこすった。
私は日々学んでいるのだ。魔族領のこと、魔族の考え方、魔族の習性、魔族の生理現象。
角を持つ魔族が角に触れることを許すのは、心を許した人にだけ。角で相手をこするのは、甘えてる証拠。
って、教育係の先生がすごーくしつこく教えてくれた。ヴァセルが角持ちだからじゃないかな?
「今までかっこいい系の推しだったから、今度は違う方向に行ってみようかなって」
「ふーん」
「身長とか関係なくて。まあ、私くらいなら全然いいし?」
「う、うん」
「童顔もありかなー。寝てる顔とかかわいいからさー」
「お、おまえ、いつの間に」
「結婚相手の種族が違うから、勉強とかしてくれてるみたいでさー。人類の出産適齢とかしっかり調べてて、慎重になってるんだって。めちゃくちゃ優しくない? それ知った時には、キュンってなったし」
「わー! なんで知ってんの?」
「羊の角を持った教育係の先生は、おしゃべり好きなのです」
「あの野郎……」
ヴァセルの角が私から離れた。見るとぷんすか怒っている。
う、可愛い……。
ヴァセルが甘えてるのなら、私も甘えちゃっていいのかな。
私はヴァセルの指に、自分の指を絡めた。つないだ手が温かい。
えへ。
ヴァセルも握り返してくれるのが、仲良しの恋人同士みたいでうれしい。魔族も手を繋ぐの好きなのかな。だったら素敵だな。
えへへへへ。
ヴァセルの口がむずむずしていた。口だけじゃなくて全身むず痒いみたいでモゾモゾしている。
「ヴァセル、どうしたの?」
「……人類の女性は、愛情を欲するときに手を繋ぎたがる、って。本当?」
「そ、それ、先生からの情報? そういえば先生には言ったかも……あの、羊野郎」
「クラリスは違うの?」
「あの……違わない、です」
「おれの愛情、ほしいの?」
「いや、ちょっと待って」
「ねえ、ほしい?」
うわー。
赤いきらきらした目で私を見るな。期待したような顔して近づいてくるな。無垢に見える表情は、多分意図的で計算ずくで老練な手段なんじゃないの? その顔、決して嫌いではなく、どちらかというと推せる顔だから。
推しに失恋したのに、もう推し変しそうにってる私がいる。
というか、これは推し変決定か。
もうヴァセルの罠にかかってたのか。
いつから罠を張っていたのか!
そろりと頬が撫でられた。片方の手はしっかり私と手を繋いだまま。もう片方の手が私に触れている。ヴァセルの指が頬から頸へ。頸から肩へ。ヴァセルの指が私の身体で遊んでいる。
新しい推しが、私の答えを待っていた。おねだりするように、私に体を寄せてくる。
「ね、クラリス。ほしい?」
「待って、ヴァセル」
「待てない。ちゃんと答えて」
「だって、ヴァセル……」
「クラリス?」
「……ほしい、ヴァセル。ほしいよ」
「ああ、クラリス。おれも」
ヴァセルが私を抱き寄せた。思わぬ力強さで息が詰まる。骨がミシッていうかと思った。
え? このショタ、見かけよりずっと……。
密着したまま、ヴァセルは私の耳に囁いてきた。ヴァセルの手は、すでに自由自在に動き始めていた。
「おれ、ずっと我慢してたんだぞ。半年生殺しなんて、耐えられる魔族他にいないからな。
今日から夜は覚悟しろよ」
「ヴァセル、ちょっと待って。展開早い。こういうことは、順を追ってさ」
「順を追うって何? 全部一度で済むことじゃん」
「それ、人類と魔族の、決定的な文化の違いなんじゃないの?! 一つずつ、ゆっくりとね、ね!」
「一つずつって何? ゆっくりて、どうやるの?
クラリス、細いなあ。力を込めたら折れちゃいそう。お願いだから壊れないでね」
「え? ヴァセル? うわ、ちょっと、何してんの。急にそんな……!」
「優しくできるかわからないんだ。おれもう、限界だから。
でも、推しより愛してみせるよ、クラリス」
……ショタに見えてたヴァセルは、どこまでもちゃんと男性だった。
◇ ◇ ◇
主寝室担当の侍女が、ゴードンを追いかけて耳打ちした。ゴードンが片頬を上げてにやけるのが、とても不快だった。
と、いつものようにベッドの真ん中で、ふくれっ面をした夫が言った。
私付きの侍女が満面の笑みで差し出してきた、露出の高い夜着を着た私を、ちょっと嬉しそうに眺めてたくせに。何言ってんだかな。
ヴァセルのふくれた頬をつぶすと、途端にふにゃりと笑みがこぼれた。
こすこすと角を擦り付けてくるヴァセルに手を伸ばすと、そのままベッドに押し倒された。童顔のくせにこの瞬間は雄の顔になることを、私は昨日知った。すごくそそる顔なんだけど、誰にも見せたくないから門外不出。
ヴァセルの腕の中で思う存分甘えることが、これからの私の推し活となる。
ーー終ーー
推しが残念だった経験、ありますか。私の推しは犯罪に手を染めたことがあります。凄まじいショックでした……クスリ、ダメ、絶対。
クラリスとヴァセルの間にはまだまだ種族の違いで、なんたること!みたいなこともありそうですが、若いからなんとかするでしょう。ザラとゴードンの場合は、ガチンコで喧嘩になりますね。
評価★★★★★、ブックマーク、リアクション、感想など頂きましたら、喜んで皆様を推していきます。暑苦しくむさ苦しく、推させていただきます。きゃあああ、しゅきー!だいしゅきー!
読んでいただき、ありがとうございました!




