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Depend  作者: ホノユカ
Songs About Jane <西嶋和幸>
5/5

Must Get Out

西嶋くん書いて4話目。

なかなか苦戦しています。

“雨が降ってますね”


鮫島さんからメールが届いた。今は午前8時。外を見れば雨の中、小学生が赤い傘を差しながら登校している。雨は降ってはいるけれど、ちょっと外出する分には支障はない程度だ。それに予報では午後までには晴れるという。


“お昼までには止むといいですね”

 

と打ち込んで送信する。この半年間で随分とメールを打ち込むのも手慣れた。言葉使いも自然になっていると思う。この調子で話せると良いんだけど、そんな想像は出来ないのが正直なところ。緊張で全く落ち着かない。


“みたいですね。では予定通りに11時に駅に着くように向かいますね”


“分かりました。気を付けてください”


これで良し。11時までまだ時間がある。なんて思わずに、準備を入念にしておく。服、髪、靴。それに僕なりにダイエットも頑張った。西嶋史上最高の到達点だ。これ以上はない。


ひと足先に駅に着いた。家の外に出た時には雨が止んでいた。幸先が良い気配がする。今は10時になるところ。早すぎるのは分かる。けど居ても立っても居られないんだから、家にいても仕方ない。それならと早めに駅に行く事にした。遅刻するより断然とマシだ。


あっという間に1時間が経った。あと5分で約束の11時。この待ち時間で脳内シミュレーションで訓練を繰り返した。僕なら出来るはず。


しかし、1時になっても鮫島さんは来ない。遅刻だろうか?しかし、彼女の性格的に遅刻する場合は連絡があってもよさそうだけど。不安が胸を包み込もうとする。逃げるように携帯でも時間を確認しようとポケットから取り出す。ちょうどその時に着信が来て、ついビクッとしてしまう。いつものメールではない。電話の着信だ。相手は鮫島さん。一気に緊張と動悸が僕の体を襲う。震える腕を耳までなんとか持っていき、強張る声で応答する。


「…も、もしもし?」


「あ、よかった。出てくれました。おはようございます。それで確認なのですが、今どちらの駅にいますか?」


電話越しとは言え、久々の鮫島さんの声が直接耳に当たる。正直ゾクっとしてしまった。我ながら気持ち悪い。


「あ、えと…いつもの会社の近くの…」


「そうですよね…その、ごめんなさい。私、先に着いちゃってます。どこの駅か伝えるの忘れてました…」


確かに確認していなかった。思い込み怖い。


「すいません!僕のミスです!急いで向かいます!それじゃ」


言い切らぬうちに僕は走り出した。今来た電車に乗れれば10分で着く。逆に乗れなければその分待たせる事になる。これ以上の失態は自分を許せない。とにかく急げ。


無事に目的の駅までは着いた。走った後遺症か、待たせている冷や汗か分からないが、今も汗が止まらない。このまま会うのはエチケット的に問題はないのか。しかしこれ以上待たせる訳にもいかない。どちらにしても確かなのは謝罪は必要だ。頭の中で言葉を纏めようとするが焦りが邪魔をしてくる。


「あ、お疲れ様です」


不意に背後から挨拶された。焦りは思考だけでなく視界も邪魔してたらしい。確かに足下しか見てなかった気がする。もちろん声の主は鮫島さん。そんなのは分かる。分かるからお辞儀をした格好のまま顔を上げられない。


「…あの、その、ご…」


「謝らないくださいね。確認しなかったのが悪かったのでお互い様ですよ」


それはそうなんだけど格好が付かない気がして、割り切れない。お待たせしてしまった罪悪感は、そんな簡単には消えてくれない。


「んー。それでは今日中に何かしてもらいたい事を考えておきますので、そろそろ顔を上げてもらえませんか?」


そう言われれば上げざるを得ない。確かに周りから見れば、変な場面だと思ってしまうかも。覚悟を決めて正面を向く。当たり前だけど私服だ。思えば初めて見る私服姿に心臓が高鳴る。ファッションの事はよく分からないけれど、派手ではなく落ち着いた印象の服装が、とても鮫島さんらしく似合っている。


「…?なんか変ですか?」


「いや!そんな事ないです!…とても、その」


「よかった、それじゃ行きましょうか」


意気地がないのは分かってるけど、遮られてしまった気がする。勇気の出しどころを誤った気もする。失敗だらけで心が萎んでいくが、負けるわけにはいかない。今日というチャンスを弱気で逃す気はない。


だけど食事はあっという間に終わってしまった。僕はもちろんだけど、鮫島さんもお喋りに花を咲かせるタイプではなさそう。何か話さなきゃいけないと思う焦りはあったけど、変な事を言ってしまう確率が高い。焦ってばかりだし。


僕としてはもっと一緒にいたい。話せなくても一緒の空間にいられるだけで幸せだ。でもそれは僕の気持ちだけ。鮫島さんにとってはどうだろう。言わずもがな退屈な時間にしてしまっている。これは、きっと失礼だろう?だから今日はここまで。だからせめて、お礼と次の約束を…。


「お時間あればですけど、もう少し一緒に歩きませんか?近くに大きめの公園あるみたいですし、歩いてみませんか」


そうこう考える内に鮫島さんから話しかけられた。公園に行こうと言う事か。お誘いしてもらってるのか?ぼくが?


「それにほら。してもらいたい事、まだ思いついてないんで。良かったらですけど」


「あ、ありがとうございます!」


ありがとうは違う気がするけど、僕の中ではありがとうでしかなかった。鮫島さんは少しキョトンとした顔になっている。それはそうだ。


10月も終わりそうな時期。気候的にも寒くも暑くもなく、紅葉もあり、公園にはそれなりに人がいた。家族連れや学生さん、カップルもいる。とても平和な風景だ。だけど僕の心の中はちっとも平和ではない。焦り、動悸、止まらぬ汗。好きな人と一緒に歩くという事にこんな試練があるとは想像していなかった。そこのカップルさん。君たちはよくそんな自然に話せるね。その技術を少しでも良いから分けて欲しい。それはもう切実に。


公園に着いてから僕と鮫島さんは一口も話していない。なんとなしにそこらを歩き、なんとなしに空いていたベンチに座って今に至る。1時間にもなろうか。一緒にいるだけで幸せだと思ったけれど、今はこの沈黙の時間が辛い。幸せなんだけど辛い。つまりは情緒はぐちゃぐちゃだ。何か話さなきゃってプレッシャーと、つまらない事を話してしまったらのプレッシャーが頭を駆け巡る。


「あの、僕といても退屈じゃ、ないですか?」


結局話さなきゃいけないプレッシャーに負けて、つまらない事を聞いてしまった。こんな事言われても困るだろう。退屈だと思っていても「退屈です」なんて言えようもない。意味なく嫌な言い方だ。鮫島さんはきっと退屈じゃないと答えてくれる。けど、それは言わせてしまっているだけだろう。


「…そうですね、退屈です」


あれれ?はっきり退屈と言われてしまったよ?心の中で言い訳して予防しておいたけど。そうだよな。話もしなきゃ退屈だよ…。僕には鮫島さんを楽しませる事が出来ない。


「退屈ってそんな悪いものではないですよ。休日に退屈を感じながらゆっくりする。とても休日らしくて良いじゃないですか。私は好きですよ、退屈」


そう言う鮫島さんを僕はつい直視してしまう。今まで何時間も一緒にいたけど、真っ直ぐ見る事はなかった。視界には入ってるけれど、芯に捉えていない感じだった。照れ恥ずかしいから?違う。僕は理解している。彼女を真っ直ぐに見てしまえば、きっと気持ちを抑え込むことが出来ない。それにタイミングが悪い。雨上がり、今は綺麗な秋晴れだ。陽の光が雫に反射して鮫島さんが輝いて見える。僕の思考を消し去るには十分過ぎる美しさだ。思考がなくなれば気持ちを抑え込むものはなくなる。だから僕の口から気持ちが溢れてしまう。


「鮫島さん、僕と付き合ってもらえませんか?」

さてどうなるのだろうか()

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