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Depend  作者: ホノユカ
Songs About Jane <西嶋和幸>
4/4

Sunday morning

今回のテーマ曲はSunday morningです。本当にまじで一回は聴いて欲しい。ていうか多分聴いたことあると思います。毎回気合入って書いてるけど、今回はいつもより気合入れて丁寧に書きました。曲のように楽し気に爽やかに。少しでも雰囲気が通じたら嬉しいな。

鮫島さんと食事をする場所が決まった。ここからは少し離れているけど、SNSでは最近評判が良い和食系だとか。流行りの店なんて行く事がないから、僕が行っても良いのだろうかと不安になっている。


だからと行かない選択肢はなく、少しでも今よりマシになれるように準備をしなくてはならない。例えば服だ。女性と外で会うのに激安店のよれた服では、TPOにそぐわないって事は僕でも知っている。でもさ、とネットで無難そうなブランドをざっと見てみたけど、どこのブランドもすらっとした細身のモデルさんが試着してて、何の参考にもならない。もっと顔が整っていない、ぽっちゃりしたモデルさんはいないものか。きっと需要あると思う。


それと髪。普段は千円カットで散髪している。美容室なんて行った事がない。これは自論だけど、街中歩いてて、千円カットか美容室か一目見て分かるものなのだろうか。僕には全く分からない。ただ、何となくだけど千円カットでは駄目な気がする。ではどういう髪型が良いのか…再びネットで検索する。やはり出てくるのは顔が良いモデルさん達。だから需要を考えてくれ。少し泣きたくなる。


どうしようか。ファッションなんてどうしたら良いのか検討もつかない。そう、検討もつかないのだ。だったら考えても仕方がないとも言える。そうすれば行動するしかない。ということで、有名な大手服屋に行ってみるか。テレビCMだと爽やかな無地で、ファッションに疎い僕には無難の王道に見える。そういえば痩せてサイズも変わっている。どちらにしても行ってサイズも調べる必要がありそうだ。


ちょうど仕事帰りにも寄れる場所に店舗があることは知っている。一度も寄った時はないけど。いざ入ってみれば普通の服屋だ。そういうお店だし当然ではあるけど。緊張していた力が少し抜ける。ざっと見て回ってみたけど、服の種類の多さに目移りしてしまい。マネキンに着せられているような着こなしを狙えばいいのかと思うが、僕の体形に合わないとも思える。なんとなくこういう格好がいいのかも、という考えはあるけど、それが本当に僕に合うのか判断も出来ない。これは困ってしまう。仕方がないので、ウロウロとあちこちに移動しながら見てみる。


「お客様、お探しの商品でもありますか?」


店員さんが見兼ねたのか、接客対応をしに来てしまった。これがあるから服屋は怖い。急かされているみたいだし、なにより迷っているだけで探し物なんてない。いや、でもこれはチャンスなのかもしれない。勇気の出しどころだ。


「あの、どういう服が合うのか悩んでいまして、その、なにか、お勧めみたいなのはあり、ますか?」


「んー、そうですね…。今だとこのカーディガンが使い勝手も良くて人気ありますし、サイズ感も少しゆったり目ですので体型問わないで使えますよ。下は、これに合わせるとしたら少しきっちり目がよさそうですね。私個人ですとストレートのチノが合いそうかなーって思います。試しにちょっと試着してみます?サイズは…まずはここら辺でやってみて、調整してみましょうか」


良く分からないが促されるままに試着室へ。カーディガンなんて着たことがないし、それにいつも着ている服よりも絶対に小さい。本当に着れるのかな。もし破いちゃったら弁償しなきゃかな。それは理不尽だよね…。なんて思っていましたが、無事に着ることが出来た。特別に窮屈な感じもしない。


「ご試着できましたかー?よろしかったら、サイズの確認したいのでご試着できましたらお返事してくださーい」


「あ、はい」


「それじゃあ失礼しますねー。うん、サイズはぴったしかなと思いますが、どうでしょう。苦しいとか動きにくいとかありますか?うーん、裾は上げた方が良いですね。30分ほど時間をいただければ当店で裾上げいたしますが?」


「あ、はい」


再びとんとん拍子で話が進んでいく。捲し立てるマシンガントークに耳がついていけない。やり手だ。いや、僕が鴨ネギ状態なのかもしれない。別に鴨ネギでも構わないけど、店員さんに選んでもらって良かった。僕が選んでいたらもっと時間を掛けてダサい格好になっていたのは間違いないと思う。


一先ず服はなんとかなった。次は髪の毛だ。こちらも目星は付いている。駅前の美容室兼床屋。他の駅でも見たことあるし、多分チェーン展開されてる。だったらきっと無難だと思うんだが。少し短絡的な考えかもしれないけど、いかにもな、すごいお洒落なところは敷居が高い。一見さんは断られてしまうのではと危惧している。


それに、どういう髪型が良いのか分からない。説明のしようもない。だから「お任せします」と気軽に言える雰囲気が欲しい。お洒落で高そうなところはそれも無理そう…。なので行く時は、この服を着た上で、この服に合うような髪型をお願いするつもりだ。大丈夫、イメージトレーニングは出来ている。きっと出来るはずだ。


「いらっしゃいませー、ご予約のお客様ですか?」


予約か。なるほど…なるほどね。そうか、予約が必要なのね。ありがとう。勉強になった。…ホームページに予約が必要って書いておいてよぉ…。


「予約は、その、してないです」


「予約なしのお客様っすね。そしたらっすね…店長、どうっすかー?」


受付の女性が店長と思わしき店員さんに聞きに行く。しばし安堵の時間が訪れる。すでに精神的に疲れている。


「そうだなー。カットだけならいけるから、あと5分待ってもらえる?ヒアリングはしといてね」


「はーい」


話がまとまった様で、受付の店員さんが一枚の用紙を僕に渡してくれた。「こちらを書いてお待ちください」とのこと。これがヒアリングなのだろうか。思い思いに書いてみる。程なくして「お待たせしましたー」と店長らしき人に呼ばれた。歳は僕よりも年上だろうけど、僕よりもずっと若く見える。何というか活力に溢れていて、何も喋っちゃいないのについ気圧されてしまう。


「はい、初めましてですよね。ご来店ありがとうございます。そちら見せてもらいますねー」


と一息に書いた紙を取り、じっと見る。鏡越しに見ていると、少し怪訝そうな顔に見えて、また気圧されてしまう。


「んー結構空欄あるけど、あれかな?こっちに任せてくれるって事で良いのかな?」


「あ、はい」


「はい、了解。お兄さん、ばっちり仕上げるからさ、安心してもうちょっと力抜いてね」


と笑いながら話しかけてくる。爽やかな笑顔がかっこいい。それに良い人っぽい。いつもなら苦手なタイプだけど、今は話しやすい空気にしてくれて助かる。


「お兄さん、あんま慣れてないでしょ?だとしたらワックス付けるくらいで簡単にセット出来る方が良いかなって思うんだけど、どう?短めにするつもりだけど、ブロック作るよりもラフな感じの仕上がりがいい?」


「あ、はい」


僕のテンプレート化した返答を聞き、店長さんが苦笑いしている。折角話しやすい感じなのにごめんなさい。言われた事の半分は魔法の言葉のように聞こえています。


「おっけーおっけー、最後にセットの仕方もちゃんとレクチャーするからさ。大丈夫、任せてね」


そう、対して気にしてない風な店長さん。やっぱいい人属性がする。それがちゃんと受け答えできない僕が、申し訳なく思ってしまう理由だ。会話のキャッチボールが出来ないのが悔しい。もっと若いうちから勇気を出して、ファッションに興味を持たなかったのを悔やんでしまう。それにしてもだ。こういうお店ではシャンプーをするんだね。勉強になった。なんだかんだと初めて体験するのは怖くはあるが、少し楽しくはある。


「こんな感じだな、どっか気になるとこある?」


と、後ろも見えるように鏡を用意してくれた。 文句の付けようがない。だって良し悪しが分からないし。でも、髪の毛がかなり短くなった。今までの僕ならこんな髪型にしない。変われた感じがして素直に嬉しい。


「あ、だいじょ…、あ、はい」


「今のは言い切っちゃってもよかったんじゃない?」


と、言い直した僕を見て笑う店長。釣られて苦笑いしてしまう僕。いつもみたいに笑われてるのかもしれないが、不思議と嫌な感じはしない。


「さてと、セットする前に。ちょっとお兄さん立ってみて。そうそう。君下ー。どう思う?」


促されるまま立ってみると、受付にいた女性が呼ばれる。君下さんって言うのね。なんかじっと見られて怖い。


「…いや、靴っすね。服はまぁ清潔感あって良いと思います。だけどスニーカーじゃないっすね。それに失礼っすけどボロいっす」


「正解。靴だよなぁ。お兄さんにはお節介だけどさ、ここまで仕上げたら、どうせなら靴も頑張ってみない?」


靴。靴かぁ。全く意識してなかった。いやどうしよう。全然分かんない。


「この服ならブーツが良いすっかねぇ。加藤店長があげれるのないんすか?いっぱい持ってるんだし」


「そうだなぁ。ま、とりあえず今はセットしちゃおっか。お兄さん、気になるの分かるけど集中してね?」


そうだ。今は髪に集中だ。どうすれば整えられるのかは知っておかないと…。と思ったけど、セットはすぐに終わった。意外と簡単かもと思ったのは口には出せない。


「簡単でしょ?全体にぱーって馴染ませて、横にちょんちょんするだけ。ワックスはうちでも売ってるけど、薬局で灰色っぽいやつ買った方が安いかなー」


「加藤店長、もっとちゃんと売ってくださいよー。うちの店、ノルマ全然いってないんすよ」


「いやだって、初心者が買うには高いしさ。それに慣れないと扱い難しくない?それはちょっと違うんじゃないか?」


「そりゃそうですけどー。ま、いいっす。その甘い所が店長の良い所っす」


やっぱりこの店長さんも店員さんも良い人だ。優しすぎて困ったことに泣きそうになってくる。


「お兄さん、これ言うの迷ったけどさ。明日も河川敷辺り走る予定ある?」


「あ、はい。…はい?」


「おっけー。そしたらまたね。ワックスは忘れずに買いなね」


なんで走ってること知ってるんだろう…という疑問の顔になっているのだろう。受付の君下さんが「さぁ?」というような肩を落とすようなジェスチャーをしている。


「ま、良い人っすけど、基本変わり者っすから気にしない方がいいっす。それじゃお会計っすねー」


「あ、ありがとうございましたって…」


「いえいえー、また来てくださいねー。事前に予約すると楽っすよー」


店外に出ると、すっかり夜になっていた。薬局は深夜までやってるだろうけど、靴屋はここら辺りにはなかったと思う。今日は無理だ。気になってしまうが、それよりも人の優しさに触れて心が軽い。僕が思っているよりも世間は厳しくないのかもしれない。


翌朝、いつも通りにランニングを始める。変わると決めた時から継続出来ている。もうすっかり日課だ。初めは歩くことから、今はゆっくり走るくらいは余裕にこなせる程度にはなっている。そして、昨日の疑問はすぐに解けた。


「おはようございます、お兄さん。いつもご苦労さん。待ってたよ」


「て、店長さん?あ、お、おはようございます…え、っと」


「俺もたまに走ってるんだよ、ここら。昨日来た時に見かけたことある顔だなって思ったんだよね。頑張ってるよなぁ、ほんとに。ああ、でさ、これ靴。これやるよ」


と、お洒落な紙袋をぐいっと渡してくる。中に入ってるのは、これまたお洒落なブーツ。ただ、受け取れないよ。さすがにここまでしてもらう義理はない。


「怪しいかもしれないけどさ、お兄さんに履いてもらう方がいいんだよ。俺にはもう必要ないし、なら必要な人に履いて欲しいじゃん」


靴が必要なくなることってあるの?と思ってしまうが、恐らくお洒落上級者にしか分からないことだろう。何を言える訳でもない。ただ、人として絶対にこれだけは言わなきゃならない。


「本当に、本当にありがとうございます。ありがとうございます…」


言ってる途中で涙が出てきた。かっこ付かない。それに情けない。


「泣かない泣かない、兄さんが頑張ってるから応援したいだけだからさ。それじゃ髪伸びたらまたおいでね」


と言い残し、走っていく。僕とは方向が違うから追いかけることもないし、それに速さが違うからとても追いつけない。最後まで爽やかに良い人だった。ああいう人に僕はなりたいんだ。頑張ろう。


そして運命の日曜日。昨夜降った雨はまだ残り、今は小雨。だけど昼頃には晴れるらしい。テレビで少し昔に流行った曲が流れている。洋楽なんて普段聞かないけど、とても軽やかで楽し気な曲だ。テレビに書いてある曲名は「Sunday morning」。そのまんま日曜日の朝。この曲のように軽やかに、そして楽し気な一日になったら良いなと願わずにはいられなかった。

彼が主人公の話はあと3話ほど続くと思います。過去話ですので、運命は決まっており、彼の着地点も決まっていますが、どう料理していこうかはずっと考えています。

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