Alive
再び物語が動き出します。
曲はPearl Jam/Alive です。grungeの中でも評価が高い一曲です。
「それでは話をちゃんと始めましょうか」
トイレで存分に吐いても、すっきりとはせず不快な感覚は残っている。それでも休んでいる場合ではない。席に用意されていた水を一気に飲み干す。
「…話すって何を?」
「何をも何も。何もかもです」
そんな事を言われても、その問答はずるいとしか思えない。この状況で何を聞けば良いのか。何から聞くべきなのか。
「気になりませんか?私の事とか、ここが何処だとか。何がどうなってるのかとか。寧ろいっぱいあるんじゃないかと」
だから困っているのだけれど。
「ほらほら。また口が閉じてますよ」
そう言われて言葉を発していない事に気が付く。それでも会話が成立するから変な気分だ。しかし、という事は…
「…もしかして考えてる事とか分かったりする…?」
「ええ。もちろん。丸聞こえです」
途端に恥ずかしくなる。頭の中を覗かれることがこんなに恥ずかしいとは知らなかった。
「そうです。だから隠し事や嘘を吐いても無駄だと知っておいてくださいね。本音でのトーク。それを楽しみましょう」
そんな事を言われても、そういうのは苦手だ。特に最近は私が私を分からな
「確かに色々ありましたしね。そうなっちゃうのも仕方ないですよ」
「…あの」
「はい」
「考えている事が分かるかも知れませんが、いちいち返事しないでもらえません?こっちは考えて、考えをまとめたいの」
やれやれ、と分かりやすい表情と大袈裟なジェスチャーをする佐々木さん。見た目の良さからか、コミカルな動きがどうにも演技臭く、気持ちを逆撫でる。
「そしたら、私が質問をしていくので、それに鮫島さんが答える。そういった形で進めていきましょうか。よし、そうしましょう」
一人で決めて一人で納得していく。強引で自己中心的な人。…いや、人ではないのか。
「早速始めますね。まずは相互理解。話していくにはとても大切です。では、私は何でしょう」
「悪魔?」
「おっとー?そうきましたか。初対面に近い関係で人の事を悪魔呼びするのは、なかなか酷いと思いますよ?」
それはそうだけど、天使か悪魔かで言えば、確実に悪魔寄りの性格をしていそう。少なくとも今は慈愛の欠片も感じない。
「いやいや、死にかけの救ったでしょう。慈愛そのものじゃないですか。ですが、まぁどっちも不正解なんですが」
「じゃあ、妖怪の類とか?」
「ぶぶー。もう少し興味を持って欲しいところでしたけど、正解は…なんでもない!そう、私の正体はなんでもない、ただの佐々木です」
そんなわけがないでしょう?そんな言葉が心の中に思い浮かび、しまったと思う。ちらっと佐々木さんを盗み見ると、手のひらを向けて、“どうぞ”と促してくれていた。
「それはない、ですよね。それなら神様と言われた方がまだ納得できるし…」
「お、今までで一番マシですね。神様。ですが、それもまた違います。神みたいな事も出来ちゃいますが、あくまでただの佐々木です」
それは神様と何が違うのだろうか、とやはり頭で考えてしまう。今度はニヤリと笑っている。
「皆さんが想像する神って全知全能ですよね。私は違うんです。ただの全能でなんでも出来ます。けれど、全知ではない。だって全知なんて退屈でくだらないですし」
私には違いがよく分からなかった。
「それでは、鮫島さん。今度は鮫島さんの事を教えてください。もちろん考えながらでも良いですよ」
悪魔だ神だと話した後に、本当にただの一般人の何を紹介すれば良いのだろうか。
「…鮫島雪子。年齢は34歳。血液型はAB型。趣味は読書。あとは」
「身長165cm、体重48キロ、既往歴はなくて、健康そのもの、短大卒、一人暮らし、家族関係は…あー触れちゃいけないやつですね」
途中から佐々木さんが私に取り変わり話し出す。いつの間にかタブレットを腕に抱え、如何にもインテリな眼鏡を掛けていた。言っている内容は全てが正しい。家族の事にあまり触れてほしくないのも本当だけど、そう言われるのも癪に感じる。
「それで、えーと。長所は思慮深く慎重、短所は考えすぎる。そうっぽいですよね、ふふ。友人関係はそこそこ広くとても浅い。初恋は中学校の担任、ませてますね。初めての彼氏が高校2年生の時、見た目の割に遅いですね。理想が高いのかなぁ。初めての性体験もその頃。でも興味はもっと前から、あ。中学の」
「ちょっと!」
堪らずに声が出る。神様もどきに失礼な口調かも知れないけれど、黙って聞き逃すには恥じらいが強すぎる。
「良いじゃないですか、私と貴方しかいないですし。それに一応は女同士。こんな事も話す事はあるでしょう?」
そもそも佐々木さんに性別があるのかも疑問だ。それに問題はそこじゃない。
「世間は知らないけれど、私は同性でも話さない。こういうのはもっとお互いを知ってから」
「いやいや、さっき話してたじゃないですか。相方の女性とセックスがどうのこうのって。営業中のお店でそんな事を話しておいて、今更そんなつまらない事を?」
再び正論。悔しいけど言い返せない。
「ふふ。賢いですね。それでは続けます…が、大目にみましょう。今日が初対面ですし。それで、一人でする頻度は…おやおや」
何を言っても無駄っぽい事が分かり、諦めて聞き流していく。無遠慮に辱めを受ける屈辱はあるけれど、セクハラ上司の相手をしていると思えば…不快でしかない。神に近しい存在とセクハラ上司を比較対象にしていいものなのか知る機会は初めて。不快な事には変わらない。
「ふふ。冗談ですよ。私が知りたいのは、ストレスを受けた時にどういう反応をするのか。鮫島さんは諦めて受け入れてしまおうというタイプですね。聞いたり読んで情報として知っていても、やっぱ目の前にいるなら確認したいじゃないですか」
諦めて受け入れる。意識はしていないけれど、そういう癖があるのかもしれない。それであんな事になったんだし。
「それは気に病むことないですよ。あれ、人を支配する事に関しては世界大戦も起こせちゃう程度の天才。声と抑揚だけでいけちゃって、ずっと無自覚で自然なのも相性抜群、性格もとっても悪いですし。人間があれに抗うの無理かなー」
また心を読まれている。これもまた良い思いはないが、これもまた“人間に抗うのは無理”なこと。そんな皮肉を考える。どうせこれも読まれているから遠慮はしない。諦めて受け入れるのが私なのだから。
起承転結の結。頑張ります。
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