Show Me How to Live
私は目を閉じた。
それで終わるはずだと思っていた。だけど一向に終わりが来ない。身体も無く、ただ意識だけが暗闇に浮かんでいる。そんな感覚が無闇に続いている。死後の世界なんてものは信じていなかったけれど、存外こんなものなのかもしれない。
「…じ…まだ…」
意識の中に声らしき音が反響する。あちらこちらに響き渡り、一つだけの音が何倍にも増えていく。音が跳ね返るほどに高くなり、微睡んでいた意識が冴えていく。
「聞こえてたらで良いのですが、もし生きたいと思っているならどうにか教えてください」
今度ははっきりと聴こえる。だけど“生きたい”ですって?そんな事を望むはずもない。たった今、何もかもを諦め、捨てたばかり。これ以上、苦しみたくはない。
でも…目を閉じる直前に想ってしまった後悔。捨てたと思っていただけだったものだ。私は結局捨て切れずに、死ぬ直前まで愛を求めていたんだ。
悔しい。
そう思うと、力が微かに入る感覚が甦る。失っていた身体を、本当に僅かにだけ戻ってきた。
パチン。指を弾く音が綺麗に鳴る。響いた音が消えると、私の意識は消えた。
「鮫島さん。起きれますかー」
閉じた目に薄らと光を感じる。そうっと慎重に瞼を開く。ぼやけた視界の先に、先ほどバーにいた店員さんがいる。確か佐々木さんという名前だった。
「そうです、そうです。その佐々木です」
佐々木さんがにこりと微笑む。さっきまでの綺麗でピシッとした雰囲気と違い、どうにもフランクで柔らかい。それでも異様な気味悪さを隠すつもりはなさそう。
「気味悪いは心外ですねー。さっきまでいたのはバーテンダーの佐々木で、今はただの佐々木。鮫島さんだってオンとオフくらいは使い分けますよね。それと同じ事ですよ」
それはそう。ただの正論を聞けば納得するしかない。ここはきっとバーの中。だけど、隣を見るのがやっとなくらいだった暗さもなく、いやに明るくて、店の雰囲気も全く違う。
「そう、カフェでも通用しそうですよね。けれどカフェは面白味がなくて。集まるのは愚痴の応酬ばかり。バーの方がドラマ性が高いんです」
聞いていない事をどんどんと話しだす。こんな人だったのか。
「聞いていないも何も、鮫島さん。何も喋ってくれないじゃないですか。そんなに黙ってて息苦しくないです?」
喋っていない…?何を言っているの…?だってこうやって会話を…
「うぉおおえっっええぇ」
急に猛烈な吐き気が込み上げて、抗うことは出来ずにカウンターに吐いてしまった。血が大量に口から溢れてくる。止まった時にはカウンターだけではなく、床にも血溜まりが出来ていた。息が整わず荒れている。
「あららら!そうか。ごめんなさい。喋れる状態じゃなかったんですよね。すっかり忘れてましたー」
パチン。佐々木さんの指が弾かれる。今まであった血が一瞬で綺麗に消える。
「気にしなくて良いですよ。あんな刺されたら誰だって血ぐらい吐きますから」
その一言で、刺された感触が蘇ってくる。何度も何度も刺された。痛みこそないものの、体に刃が入ってくる感覚が襲ってくる。
「…うぅ」
「おっとっと!それは無しで!それは向こうのトイレまで頑張って!」
慌てた振りをする佐々木さんを尻目に、口元を押さえながら私は行動した。しっかり体がある事を認識しながら。
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