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Depend  作者: ホノユカ
Grunge
16/24

Heart shaped-Box

暗い。


青暗い間接照明が雪子を妖艶に照らす。女性の私には見せる事がなかった表情を眺め、雪子が堕ちている事を確信する。なるほど。普段は綺麗で油断のない表情が、少し弛むだけで女の魅力を存分に引き出す。今まで男だけにこの顔を向けてきたのは残念だ。思うだけでやはり憎しみが溢れる。


愛すること。愛されること。どちらかが欠ければ妄執と化す。その妄執の矛先を私に向けさせる。慎重にゆっくりと。気付かれないように優しく。矛先が私に向けば、妄執となって肥大した心を私のものにするのは容易い。雪子にはいつも通りに愛することを。カズユキには愛されることを、それぞれに提供してきた。


今回は綱渡りではあった。最期になるとは言っても、雪子が壊れてしまっては味がない。だからと慎重になり過ぎて手を抜けば、私のものにはならない。それは過去の3回が教えてくれている。これで4回目、雪子がどんなに腑抜けても違和感くらいは感じるかも。いや、感じる雪子を願っているのかもしれない。


男の方は単純に不愉快だった。何もかもが「僕は…」という自分語りばかり。そうなるように雪子を介して仕向けた部分はある。だけど、不愉快なものはどこまで突き進んでも不愉快のままだ。そもそも何もかもが「そこそこ」には届かない。なぜ雪子はこれに可能性を抱いたのか。不思議に思うと思うと共に、これに抱かれて嬌声を上げなければいけない未来に恐怖し、雪子を恨んだ。


私は異常だ。愛する女の為に、愛する女を傷付け、踏み躙り続けてきた。雪子の為だなんだと言い訳も続けてきたけど、それももう限界にきている。愛する人を傷付ける事が平気な訳がないもの。雪子が限界になった裏で、異常の私も限界だった。私が雪子を壊したけど、雪子が私を壊している。なんだ。結局はお互い様じゃない。


壊れた雪子と壊れた私。もう最期と決めた。この先はない。


もっと雪子を知りたかった。完璧な雪子が欲しかった。雪子を取り巻く幸せも苦痛も私のものにしたかった。乱暴に抱きたいし潜るように抱かれたい。この先がないならば全てを叶えてしまおう。でないと人生のフィナーレを飾るには私の人生は寂しすぎる。


頭の中には“Heart-Shaped Box”が流れている。このバーにはもう何度も通ったから、今更新鮮味も驚きもない。大体、音楽なんてものに興味がなかった。男を惑わすだけの知識だけでしかない。ただ、今流れているこの曲は、酷く陰鬱で、破滅的で、死を願う私に良く馴染む。


雪子の曲はどういう曲だろうか。どんな曲でも合いそうだけど、雪子は教えてくれなかった。隠されると余計に知りたくなる。まるで普通の恋人同士のような駆け引きを楽しんでいるようで、焦ったくもあるが、愛おしさも増していく。


「ねぇ、幸。幸は今幸せなの?」


不意打ちのように雪子が話す。


「幸せ、かな。うん、今は幸せだよ。どうして?」


「ううん。なんとなく気になったの」


“なんとなく”。何かしらの違和感を抱いているのかもしれない。それとも私のことを知りたくなっているのかも。今はどっちともつかない。“なんとなく”に隠れる不安。もう先がないならと無視することはできる。けど。


「雪。なんとなく気が付いていたけど、もう結構飲んできたでしょ。そんな強くないんだし飲むのはここまでにしない?」


「ありがと、ちょっと飲む羽目になっちゃってね。そうね…それなら…うちはどう?」


「それじゃあそうしよっか」


二つ返事を返し席を立つ。雪子に決めてもらう事で試してみたけど、先ほど瞬間的にあった違和感は消えていた。いつも通り私といる時の雪子だ。ほっと胸を撫で下ろす。


店を出て雪子の家に向かう。道中では他愛のない会話が繰り広げられ、自然にクスリと笑みが洩れる。普通に笑ったのは久しぶりだ。いま、確かに私は幸せを感じている。この幸せを私は求めていた。それが叶った今、どこかに不安を覚える。こんな真っ直ぐな幸せを心に受け入れる事が、私には難しいのだ。私が私である事を否定していく。


もしかしたら、まだ死ぬべきではないのかもしれない。もっと幸せになれるのではないか。一度は捨てた筈の生への意欲が湧き上がってくる。雪子の心を箱に押し込み、いつまでも一緒に居続けられたら。


雪子が住むアパートに到着する。あちこちに苔や黒ずみがあり年季が入っているようだけど、中はリノベーションはされているようで、外観とのギャップが激しくアンバランスに感じる。オートロックもなく、年頃の女性が住むには不用心にも思えるが、ここらでは別に珍しい事でもない。


部屋の前で鍵を開けるのを待つ間、心臓の鼓動が外にも響いているのではないか疑いたくなるほど速く高鳴っている。きっと今の私はセックスをお預けされている男共と同じ顔をしている。雪子にこんな顔を見られたくないから、ドアを開けるのを待って欲しいとまで思う。こんなに余裕がないなんて事は今までなかった。いつも私が主導権を握って、私が思うよう何でも動いていたのに。だけど…不快じゃない。


ゆっくりとドアが開く。パチっと灯りが点くだけで温もりを感じる。だけど、部屋の中は寂しい。質素というのか、生活するのに必要な最低限しか置かれていない。几帳面な雪子は元から家具は少なめだった。けれど、これは少なすぎる。


テーブルの上には一枚の写真が置かれていた。この部屋にある唯一の不純物。それがただの写真を際立たせて目立たせる。肝心の写真は裏返っているから中が見えない。


雪子が無造作に写真を捲る。その瞬間に表情が消える。


「幸」


雪子の声に温度を感じない。神経が全力で警戒し、つい雪子を睨んでしまう。


「そんな怖い顔しないで。私は話したいの」


打って変わり、優しく諭されているように囁かれる。けれど熱はないまま。先ほど速くリズムを刻んでいた心臓が、今度はゆっくりと重低音を響かせる。にこりと笑う雪子に促され、席に着く。


「ねぇ幸。私は気付いたの。私は幸の事を愛してるんだって。きっとさ、多分だけど、幸も私も愛しているんでしょう?」


私の望んでいた展開だ。だけど。これは違う。この雪子はどっちの“雪子”だ。この雪子は誰だ。


「だから」


 雪子の手から写真が落ちる。床に落ちた写真に落ちていたのはカズユキと雪子の笑っている顔。


「私を殺して」

未熟な文章を読んでいただきありがとうございます。

もし少しでも感じるものがありましたら、⭐️や絵文字、コメントを頂けたら、本当にとても嬉しいです。

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