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Depend  作者: ホノユカ
Songs About Jane
14/24

Tangled

鮫島雪子は綺麗だ。


そう。最後まで綺麗だった。予測はしていたのだろうか。目が赤いという事はそういう事だと思う。今は黙って無表情のまま。ここまで無を表現できるものかと、不謹慎にもつい感心してしまうが、その赤い目で見られ続けられるのは流石に居心地が悪くなる。表情がないからこその恐怖だ。


僕は別れを切り出した。雪子は僕を想っていない。いや、少しばかりの何かしらの感情はあった。確信はないけれど、それくらいは伝わってきていた。けれどそこに“愛”は一欠片もなかった。そして僕も他の女性と寝た。そこに罪の意識もなくなったことで、僕の気持ちがもう雪子に向かっていない事を知った。


雪子は“コウ”に囚われている。男か女かも知らない。だけど愛はしっかりとある。それが全てだ。そうしたら僕たちが付き合っている理由はない。別れるしかないだろう。


場所は初めて行く高級なバーにした。特に深くは考えていないけれど、飲みながらじゃないと話せないと思った。だけどDependは使いたくなかった。


“ごめん。やっぱり僕は愛されたいんだ。だから…別れよう”と切り出してから、雪子は赤い目で僕を見る。それに無言のまま。どうにも居た堪れない気持ちになる。だから僕は逃げた。あの空気は耐えきれないよ。


本当は別れた後にそのままDependに行って、サチさんと会いたかった。そこに行けば会えると疑っていなかった。それでまた愛を確認して、サチさんとちゃんとそういう関係になれたら…。


確かにそう思っていた。雪子を想うよりも強く、心からそう思っていたのに。


何故か行く気が起きない。そのまま足が帰路に向かう。ずっと気持ちが落ち込んでいる。


せっかく雪子と別れたのに。


これからは何も考えずにサチさんを抱けるのに。


どうしようもなく気持ちが沈んでいくんだ。


家に着いて僕は後悔をした。


玄関には小さいサンダルが置いてある。もちろん雪子のだ。ちょっと歩いてコンビニに行く時に便利だからって買ったんだっけ。


洗面場には歯磨きやコップ。同棲した訳じゃないけど、歯磨きを置く事にした時にこれから何度も一緒にいられるって約束したみたいでとても嬉しかった。


リビングにはお互い専用の座布団。いつも何を話してたっけ。つい思い返せば、そこに雪子が座って、テレビのバラエティーで大笑いしている雪子に僕が笑ってしまって、拗ねさせてしまった事もあった。


なんだ。とても幸せだったんじゃないか。


僕は泣いた。本当に泣く資格なんて僕にはない事は承知しているけど、そんなことに構いはせずに泣いた。

 

何がいけなかった。

どうしてこうなった。

どうすればよかった。


今更すぎる後悔が遠慮なく僕に殴りかかる。反撃する気力も理由もない。何もかも僕がいけなかった。


さっきの彼女は目が赤くなっていた。泣いたのだろう。では何故泣いたんだ。僕のことを愛していないはずなのに。愛していない僕との別れに、何故雪子が泣く必要があるんだ。


“そんなの決まってる。彼女も幸せだったんだろ?”


僕の中で違う自分が声にする。彼女は幸せだったのだろうか。僕よりも”コウ“を大切にしていたのは明らかだったから、とてもそうは見えなかった。…だけど全てが終わってからの自分の部屋には、確かに僕と雪子の幸せの欠片があちこちに散らばっている。


雪子との絆が千切れそうな時に、彼女は消えそうな声で”信じて“と言った。僕は信じられず、自暴自棄になって他の女性を抱いてしまった。そもそも何を信じて欲しかったんだろうか。雪子はこうも言っていた。


“そんなに話してるかなぁ”


無自覚な振りをして、しらばくれていると思った。それが僕を更に逆上させていた。


本当に雪子はそんな事をするタイプだろうか。僕の知っている雪子は超が付くほどに真面目で、大小問わずに嘘を吐くことを嫌う。そんな子だった。無闇に誤魔化してお茶を濁す真似はしない。雪子の中では本当に“コウ”の事ばかりではなかったのかもしれない。


雪子はどこか異常な状態だったのか。誰が何のためにかなんて想像も出来ないけれど、僕に気が向けなくなるような、そんな状態なんてあるのだろうか。


盲信。洗脳。そんな極度の依存状態に陥っていたのかもしれない。だけどそんな事あるのか。


思い返せば、僕はどうだった。確かに自暴自棄になっていた部分はある。思う通りに全くいかなくて、イライラしていたのも事実。だけど、いくらなんでも短絡すぎていないか。なんで僕は愛されなかったのか。それは僕が雪子を信じきることが出来なかったからじゃあ…。


…駄目だ。今は頭が働きたがらない。まとまりがない考えがどんどん溢れてくる。強烈な違和感がある。けれど不甲斐なさ、罪悪感、悲しみが邪魔をして、何が変なのか考えさせてくれない。


僕は別れたくなかった。今からでも許してくれるか。いや無理がある。僕の何を許せるというのか。それでももう一度話しがしたい。話をするべきだ。


スマートフォンを手に取り、ロック画面を解除したところでメールが届く。送り主は雪子。心臓が大きく一回鳴る。雪子も同じ事を思ってくれたのか。もう一度、僕にもう一度チャンスをくれるというのか。期待と焦燥が手を震わせる。それでもなんとかメールを開くと単文と画像だけだった。でも、この内容は…


「意味が…意味が分からない!」


僕は叫ぶ。その画像は見慣れてしまったDependの風景と雪子。それにサチさん。


送られてきた単文は“助けて”。


僕は…

次回から新しい章に入ります。

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