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Depend  作者: ホノユカ
Songs About Jane
12/24

Secret

僕はサチさんを抱いた。サチさんは僕が望む事を全て受け入れてくれた。本当は雪子にしたかったけど出来なかった事。サチさんは受け入れてくれたんだ。独り善がりではない性は溺れるには十分だった。


罪の意識がないなんて、僕はそこまで堕ちていない。しっかりと雪子に申し訳ない気持ちがある。裏切ってしまった。浮気をした最低な男だと自覚もしている。だけど、それ以上に1人の男と認められた事に感動もしている。


サチさんと一晩過ごした朝、僕は雪子にメールをした。


“昨日はごめん。自分の事しか考えていなかった”


素直に謝る。絶対的に僕が悪かったはずだ。頭に血が昇ってそれさえも気が付けなかった。あれこれ言い訳して、自分を正当化して…本当に恥ずかしいくらい自分の事ばかりだった。それだけ焦っていたんだろう。


それが今じゃ余裕がある。少なくとも、自分の失敗を認められるぐらいには気持ちが穏やかだ。ふと隣に目を配るとサチさんに見られていた。


「ちゃんと謝れました?」


「うん」


「偉いですね。私はどうしよっかな」


僕は何も答えなかった。一晩中あれだけお互いを求め合ったのに、今では別々に本来のパートナーについて思案している。とても退廃的で、少し大人向けの洋画の一コマに思える。それがシュールに思えて仕方なく、つい苦笑が浮かぶ。


「後悔してますか?」


「いや、後悔は…いや、してるかも。でもそれ以上に満足しちゃってるので…」


「私も同じ感じかも」


そう言いながらサチさんは僕に身を寄せる。お互いにまだ服を着ていないから、温もりと感触が僕に直接触れる。とても心地よい。


「…もう少しだけ時間ありまけど、どうします?」


僕は再び溺れていく。


サチさんと別れたのは10時もそこそこ回ったくらいだ。別れる時はとても簡素だった。お互いに「それじゃあ」と言い合い、そのまま解散。今度は引き止められる事はなかったし、僕もそれで良いと思えたし,僕から引き止めようともしなかった。ちなみに連絡先も知らない。僕はサチさんの事を名前以外知らないままだった。


これで“カズユキ”と“サチ”の物語は終了した。


雪子からメールが返ってきたのは昼過ぎだった。


“私こそごめんなさい。ちゃんと話したいから今日会えないかな?”


僕は二つ返事で了承した。正直に言えば今日はとても疲れている。だけど今日会った方がお互いの為なのは確かだ。僕から謝った手前。会うしかないだろう。


夜に雪子の家に向かった。すごく自然にお互いが謝る事が出来た。僕は酷い言葉を掛けてしまったこと、雪子は僕に冷たくしてしまっていたかもということ。謝った後は、何を気を付けようよか、こうしたら良いねとか、今後に繋げていけるような建設的な話が出来た。


夜も更けてそろそろ帰ろうかなって時に、雪子が僕に抱きついた。雪子から抱きついたのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「…今日は帰らないで欲しいかな」


それの意味する事は僕にだって分かる。雪子が僕を求めてくれている。僕は心から喜び、その誘いに全力で応えようと思う。


だけどそれは昨日まで。


今の僕は雪子が無理をしている事も分かる。その証拠に全く目が合わない。照れ隠しじゃなくてこれは恐怖だ。それが伝わる。それとは別に、僕はそれだけじゃないと疑っている。


「大丈夫だから。無理はしない、でしょ」


そう優しく声を掛けて、そっと引き剥がす。雪子なりの罪滅ぼしなのだと思うと心が苦しくなる。雪子は見るからに安堵している。怖らがせてごめんとは思うけど、その態度には冷めてしまう僕もいる。やはりそういう振りなだけかと思ってしまう。


「今日は帰るね。また明日からいつも通りにしよう」


こうして無事に和解も済み、僕は家路に着く。僕の心は虫喰いの痕のようにスカスカだ。昨日までは確かに雪子と話すだけで幸せを感じていた。それが今はどうだ。何も感じてないじゃないか。もう付き合って3年。もしかしたら世間の恋人達もそんなものなのかもしれないな。僕が子ども過ぎたんだ。それに気が付いた時、心が一段と冷えたのを感じた。


少し時が進む。あれから3ヶ月が経ったけれど、僕と雪子はあれからはトラブルというトラブルはなくなった。上手くやっていると思う。


だけど、やはり物足りないし、情熱は戻ってこない。


だから僕は暇を見つけてはあのバー「Depend」に向かってしまう。また会えるんじゃないかと期待をしながら。


「カズユキさん?」


その期待は意外にもすぐに叶ってしまった。もしかしたら彼女も僕を探していたのかもしれない。そんな事はないかもしれないが、そう思うだけで胸の奥が暖かくなる。


「すごい偶然ですね」


「…偶然じゃあないです。僕はもう一度サチさんに会いたかった」


僕の本音だ。もう一度会いたかった。もう一度話をしたかった。もう一度抱きたかった。


「彼女さん悲しみますよ?」


「その彼女が付き合う時に言っていたんです。僕の事を愛せないかもって。多分そうです。彼女は僕を愛せなかった。だから…」


「そうですか…それでカズユキさんは私とどうしたいんです?」


僕の気持ちなんて本当は分かっている癖に。サチさんは意地が悪い顔をして僕を見上げる。大人の駆け引きを楽しんでいる。存分に嗜虐性を含みながら。無様にもそれが僕を更に惹きつけていく。


「…前の続きをしたいです」


サチさんは満足したようにニヤニヤと僕を見る。それに僕は恥ずかしくなる。だけど嫌じゃない。僕はこれを求めている。


「…私もカズユキさんに会いたかったから嬉しいです。それじゃあ、ここじゃ迷惑になっちゃうし、場所を変えましょうか」


悪魔のような笑みに僕は逆らえない。もう後戻りもできないのは分かっている。


そうして僕は再びサチさんを抱いた。


罪悪感はなかった。

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