第二話 出会い
ーーー「ついに来た。」
思わず1人言を喋ってしまったが気にしないでおこう。
「フッフッフッ。」
俺は今、非常に気分が良い。
なぜかって?今日、初めて魔法を使うからだ。
齢4歳にして、俺は魔法使いへの階段を一歩踏み出す。
この4年間、魔法への憧れを胸に秘め続け、俺の愛読書、いや相棒と呼べるであろう禁忌のインペリアルの修練編を見事に昨日終わらせることができたからだ。
試練はそう、坐禅を組み12時間瞑想だ。
簡単そうに聞こえるが全然そんなことはない。
実際、12時間同じ場所に座っているだけでしんどい。
加えて、瞑想するだけでなく、エネを常に集めながらやらなければならない。
当然、エネの容量を超えて、燃料溺体症の危険が出てくる。
この間、10回は吐きそうになった。
この3年の間、魔法を使うのを我慢にして、容量アップに専念した甲斐があった。
まぁ、それ以上に俺の場合は親が過保護だから、座って目を瞑ってるだけで、布団に連れ込まれる。
12時間だから、両親が出かけたタイミングくらいでしか挑戦できないから、そもそもチャンスがかなり少ないのだ。
それはさておき、
「ふーむ。」
本をペラペラと捲る。禁忌のインペリアルに書いてある修練の内容をこなせる様になった。
基本的には座禅メインだった。
内容としては、容量アップとか体内で手に集めたり、足に集めたりの操作とか、余裕があったらエネを体内に取り入れたりもした。
おかげで体感ではあるが、当初の数十倍程度のエネになったと思う。
残りは、応用とか実践か。
とりあえず、魔法に取り組むための下地は完成したのだった。
何もしてなくても実感できる。
「しかし、効果はなかなかに高そうだな。身体中からエネがみなぎってくるというか…。」
握りしめた拳からエネを強く感じる。
普通の魔導書だと思っていたけれど、もしかしたら、そうではないのかと思っている。
もしかしたら、アーティファクトなのでは無いかと頭に過ぎる。
…決して漆黒の日々のことでは無い。
転生してからの4年間、様々な本を読んだが、この本に書かれたことが他の本に書かれていることはほとんどない。書かれてはいないが実践すると効果を強く実感できる。
それに、初級の魔導書を読んだが今やっていることよりも格段に楽そうだし。
「そういえば、魔法発動のところ大分違うんだよな。実践する前に初級の方も見て比べておかないと。」
ペラペラと初級魔導書を捲る。
魔法の発動は…と…。あったあった。
基本的な魔導書ではエネを放出したい場所に一点に集め、出すものを口に出して発動する。例えば、ファイヤーボールとか。
頭でイメージしたことを喋ることによって、イメージをより具現化するのだとか。
この際、イメージしたものが自分の持っているエネを超える消費量であると魔法は発動しない。
加えて、イメージがあやふやであるとか、そもそも自身のエネの構造に合っていないとか、そもそもエネのコントロールができていないなど、様々な要因によって魔法は発動しないことがある。
つまり、全人類が一度は考えたであろう自分オリジナルの魔法。コチラの言葉でスキルを使うには、相当な修練と反復をし、エネを溜め込み、その操作についても上達している必要がある。
魔法を使うというのは、才能というものが大きいのだが、練習次第でどうとでもなっていく。
魔法というのは、勉強すればするほど奥深いものである。
しかし、悲観することはない。そのために魔導書があるのだから。
基本的に最初は魔導書に書かれている魔法を使用する。
魔法には下級から特級まである。当たり前だが、上に行くほど難易度は上がるが、威力も格段に上がる。ちなみに、スキルと呼ばれるオリジナル魔法は大抵は特級か超級に分類される。
まぁ、使えるだけで常識外の強さってこと。
家にあるのは初級魔導書なので、下級の魔法しか載ってない。
魔法ごとにエネの流し方や発動するためのイメージ方法、はたまた出た後の対処法まで書かれている。
初級とあって至れり尽くせりである。
そして、魔導書に書いてあるものは一点にエネを集めたり、一気に放出させるなど、子供できる内容しか無い。
禁忌のインペリアルの様な複雑なエネ操作は要しないのだ。
といっても、初級しか見たことがない。もしかしたら禁忌のインペリアルは中級上級相当の物なのかもしれない。
まあ何がともあれ、初級魔導書を使えばエネを持つものは大抵魔法が使えるということ。
エネの量は大分多くはなったから心配はないとは思う。
肝心の禁忌のインペリアルには、何が書かれているのか。
初級と同様に、エネの操作方法や運用について書かれているのだが。
禁忌のインペリアルには、少し違ったことが書かれている。
まず目に引くのは、『魔法は心の中から湧き出るものだ。』と。
捉えようによっては大分パッションであるが、曰く、自分が潜在的に持っているものが1番強力な武器になると俺は解釈した。
思えば、具体的な方法などは魔導書の方が書いてあって、大分感覚的なものにやっている気がする。
抽象的でよく分からないが、魔法のこともまだよく分かっていないのであんまり変わらない。
とりあえず初級から試しにやってみるとするか。
「よし!」
今日は、両親が出かけているんだ。基本母親がいて、1人になれないから、この日を待ち侘びていたぞ。親に何言われるか分からないし、その間に挑戦してみよう。
さて、庭に出てみよう。
「あれ、なんか緊張してきたな。」
庭に行くまでは、恐らく30秒とかからない。
普段なら軽快に進んでいくルートであるが、一歩一歩進むたびに、心臓の高鳴りが抑えられなくなっていく。
緊張感で心臓まで締め付ける様だった。
「緊張とかほぐす魔法無いかな…。」
庭の真ん中に立ち、周りを見渡す。
「大丈夫。たくさん練習したんだ。それに、皆んな応援してくれてるさ。」
庭の花、そして木々が何かを期待しているかのように揺れていた。
枝や上には小鳥が囀りながらコチラを見ている気がする。
「任せていろ!皆んな!これが天久周理伝説の始まりだぁぁぁ!!!」
鳥が飛び立っていく。
勢い良く、右手を差し出す。
頭が真っ白になって、思わず、フリーズしてしまった。
勢いだけで行ってしまった。反省反省。
「こっから先は何をするんだっけ。」
差し出した右手を引っ込めるのは少し恥ずかしいから、このままで…。
えーと確か最初は?
左手で初級魔導書をパラパラとめくり、お目当てのページに行き着く。
「エネを一点に…こうか?」
集中しろ、毛の先からつま先まで余すことなく全ての力を手のひらに…。
「お、なんか体がぐーっとなった気がする!」
なんとも形容し難いが、全力で走った直後の様に全身に流れを感じる。
「あとは、イメージ…。」
火の球。丸くて赤くて。
大きさはお盆くらいの…分かりにくいからドッジボールくらいで…。
手を振り上げ、気を落ち着けるために深呼吸した。ダメだ、出る気がしない。
もしかしたら、イメージが足りないとか?
それか、勢いか?
こうなったらやけだ。
そして、「火の玉!」と叫んだ。
「…。」
だが、何も起こらなかった。手を下ろすと、ただの空気がそこにあるだけだった。
あれ? 何で? 俺の心臓はドキドキと早くなり、耳の中まで響いてくる。
頭の中では「魔法が使えない」という現実とそれに伴う驚きと不安がぐるぐると回っている。
間違ってはいないはず、ロジックというかやり方は魔導書をそのまま見たからあっているはず、エネの操作を失敗したのか、それとも火の魔法の適性がないとか。
とりあえず、違う魔法でやってみよう。
まだ諦めるのは早い。
「えっと、次は風の魔法だ!」
少し深呼吸をし、胸の鼓動を抑えようとする。
先ほどよりも鼓動が落ち着くのを感じる。
「イメージ…イメージ…。」
気を取り直して再び手を上げる。
今度は、風が吹くように思いを込める。
強い風を一点に圧縮し、放つイメージで。
「風よ、集まれ!」
すると、またもや何も起こらない。
シーンという時間が流れる。
先ほどまで吹いていたそよ風すら吹き止んでしまった。風を止める魔法であったなら大成功であるが、今回は正反対だ。
手を下ろした瞬間、僕の心はさらに沈み、絶望へと変わっていく。
まるで、魔法の力が俺から逃げていってしまったかのようだ。
確かに、右手あったエネは魔法を発動しようとすればするほど蝋燭の火が消えていく様に無くなって行ってしまった。
もう一度、心の中で念じる。自分を信じなきゃ! でも、どうやって? 俺は自分の小さな手を見つめた。
「なんで魔法が使えないんだろうか…。」
先ほどとは違い驚きはなく、不安が大半を占めている。
やり方が合っていないのならそれでいい。
大きくなった時に、両親に聞けば良いのだから。
それか、俺のエネがまだ基準に達していないのならそれはそれで良い。
初級魔法すら使えないほどに才能はないのは残念だけど、これから練習すれば良いのだから。
ただ、そもそも魔法を使えないのなら、どうすれば良いか?
「ふーっ。」
この4年間は、出来るだけマイナスことは思わない様にに心がけていた。
「ああ、もう! どうしてこんなにうまくいかないんだ!」
思わず叫んでしまう。
元々、高校生にしては大人びてる方とは言われていた。
だから、叫ぶことはもっての外で、心に波風が立つことも殆どなかった。
先ほどの叫び声で庭の隅にいた残っていた小鳥も驚かせて飛び去ってしまったらしい。
「あーあ、応援してくれてたのにな。」
僕はその瞬間、情けない気持ちになった。
「こんなことで魔法使いになれるわけがない…」
正直、落ち込む。
才能がある者は初級魔法であれば、適性がないものでも一発で使えるらしい。
俺のプランであれば、初級魔法は今日中にコンプリートして、スキルの制作に取り掛かりたいところだったんだが…。
魔法が使えるか否かという問題までおちてしまった。
才能がないと悲観するのはとりあえず後回しだ。
今は、何か使える魔法を探し出そう。話はそこからだ!
とりあえず、魔法はまだまだある。
水を生成する水魔法。石を操作したりできる石魔法。スピードやパワーアップのバフ魔法。
多種多様にあるんだ。
何かしら、俺に適性のある魔法はあるだろう。
「気を取り直して、行きますか…」
落ち込んでいる暇はない。
俺はページをめくり、祈るような思いで次の魔法の呪文を唱えた。 ーーー
ーーー俺は今日、5歳になった。
といっても相変わらず、ほとんど部屋に篭り本を読み漁ってはエネの増強に取り組んでいる。
初めて魔法を使おうとして分かったことがある。
魔法というものは誰でも簡単にどんな魔法でも使えるわけではないということだ。
結論から言うと、俺は魔法が使えなかった。
あの後、初級魔法の全てを試した。
でも、うんともすんとも言わなかった。
正直、絶望したが俺には禁忌のインペリアルがあった。
俺は藁にもすがる思いで禁忌のインペリアルを使おうとした。
ただ、俺はさらに絶望することになった。
父親がアーティファクトこと、漆黒の日々とともに燃やしてしまったのだ。
それを聞いた時、涙は出なかった。
ただ、頭も体も真っ白になった。
その日から、俺は部屋に篭り続けエネを増強している。
正直辞めてしまおうと思ったが、やらないと落ち着かない。一種の中毒にかかってしまったようだ。
まだ、5歳。別に学校とかあるわけじゃ無いし、家に出る用事は無かったため、ほとんどニートの様な生活を送っている。
世にも珍しい、前世よりも引き篭もりのニートらしくなってしまった。
母さんは篭りっぱなしの俺を心配そうに見てくる。ただの5歳であれば、何かしらの興味を持って出てくるかもしれない。しかし、もう手遅れである。
17年プラス5年。22年人生を送ってきた人間が新しくくニートとして誕生したのだ。
そう簡単には立ち直れない。
そんな、感じなので最近母さんは積極的に街へ連れて行こうとする。
まぁ、別に良いけど、同世代が魔法を使っていたりしたらわ泣いてしまうと思う。
「周理、今日はお買い物に行こうか?」
思わず、えーっと声が出そうになる。
昔は、1人でも積極的に動いていたから、母さんは街で逸れるのが心配で街に俺を連れて行こうとしなかった。
ただ、俺は今この有様なので、母さんはことあるごとに街へ連れ出そうとしていた。
最近、元気が無いと、父さんと話しているのは何度も聞いている。
申し訳ない気持ちがありつつも、何回も断っていた。
今日も今日とて父さんは街へ出かけており、母さんは1人で俺を世話しなければならない。
俺という人格が宿ってなければ、もっと仲良くやれていたかもしれない。そう思うと、胸が痛くなってきた。
魔法が使えなかった時の痛みに似ていた。
もしかしたら、俺が母さんを寂しくさせているのかと。
まぁ、一回くらいなら大丈夫か。
「母さん、俺も街に行くよ!」
俺は決心した。
もう逃げないと。ーーー
ーーー「でかい…!」
俺は生まれて初めて村から出た。
村から街までは2時間ほど。
魔物がでる危険区域は通らないため、歩いていける。
いつもは小さな村で過ごしていたから、忘れていたが、ここは日本である。
ビルが立ち並ぶ光景をひ久しぶりに目にした。
あれほど渋っていたけど、やっぱりお出かけっていいなと思うほどに俺は単純だ。
「周理、どう楽しい?」
母さんが不安そうに顔を覗いてくる。
本当に心配させていたんだな。
「うん!楽しいよ!」
思えば、母さんとこうやっているという事自体俺にとっては新鮮だった。
母親がいらということを噛み締められる。
初めて母さんと街に出かけた特別な日だった。
街はまるで別世界のように賑やかで、色とりどりの店や人々が行き交っていた。
俺は母さんの手をしっかり握りながら、目を輝かせて周囲を見回していた。
ビルや建物はあの頃の日本であるが、店で扱っているものが違う。
武器屋に鍛冶屋に宿舎、はたまた錬金術なる店まであった。
そして、そこには一際目を引くものがあった。
「ほら、あれ見て! ギルドだよ!」
俺は興奮して、思わず指を差してしまった。
母さんは微笑みながら、
「周理は、将来お父さんと同じ冒険者になるのかな?父さんの息子だからきっとすごい冒険者になれるわよ。」
その言葉が嬉しかった。
母さんはまだ知らないとはいえ、俺を冒険者になれるといってくれた。
俺は期待に応えようと決心した。
様々な店を見ながらしばらく歩くと、やがて街の外れの方に出た。
先ほどまでのビルが立ち並ぶ光景とは違い。
緑が少し増え、田舎に来たかの様な落ち着いた雰囲気となった。
「俺は絶対に冒険者になるんだ!」
すると、前方で三人の子どもが話しているのが目に入った。
男の子と女の子、同じくらいの年齢に見えた。
男の子は元気いっぱいで、まるで何かを熱心に語っているようだった。
その姿はまるで小さな炎のようで、見ているだけでこちらまで元気が出てくるようだ。
「絶対になるんだ! なんたって僕は、特訓をしているから!」
彼の声は大きく、緑の多い景色の中で一際目を引くものだった。見た目も元気いっぱいで、短い髪が風になびいている。
彼の情熱は、まるで周囲の空気を熱くしているかのようだった。
羨ましいなと心の中で思わず呟いてしまう。
一方の、女の子はその男の子の横で、少し恥ずかしそうに微笑んでいる。
彼女の髪は長く、ふんわりとしたドレスを着ていて、まるで小さなお姫様みたい。
彼女は男の子の話を聞きながら、頷いたり、時々甘い声で「すごいね」と返していた。
彼女の声は優しく、まるで風に乗ってどこか遠くへ運ばれていくような音色である。
そして、もう1人の女の子は男の子をギロリと睨みつける様にする。
「あんたじゃ無理無理!私の足元にも及んで無いんだから!」
女の子がフフンと鼻を高くする。
随分と高飛車だな。
あーいうのは将来ツンデレになって主人公に惚れるんだろう。
この場合の主人公は俺じゃなくて、あの男のなんだろうかど。
俺はその三人を見ていると、心が躍るのを感じる。ここ5年間子供やってきているせいか、人格が周理に染まってきている気がする。
その証拠に同年代の子供を見て、胸が少し高鳴っている。
男の子の熱意が伝わってきて、俺も何かをしたくなった。
特訓? 冒険? 何でもいい、俺もその中に入りたいと思った。
「ねえ、君たち何の特訓をしているの?」
思わず声をかけてしまった。
三人は驚いたようにこちらを振り向いた。
男の子はすぐににっこり笑い、
「僕は魔法の特訓だよ。 将来は、世界一の冒険者になって世界を平和にするんだ!」と自信満々に答えてみせた。
女の子は少し照れくさそうに、「私は、応援の練習してるの。みんなが頑張るのを見ているのが好きだから」と言った。
彼女の言葉には、優しさがにじんでいた。
「私は野次入れてるの!こいつが調子に乗るからね!」
僕はその三人の姿を見て、ますます興味が湧いてきた。
前世でもなかなか見ないほどに熱い少年と優しそうな少女。
男の子の熱血な姿勢と、女の子の穏やかさ、そして、それをかき乱す存在。絶妙なバランスを保っている。
まるで、三つの異なる星が一緒に回っているみたいだ。
「君も特訓どう? 一緒にやろう。」
少年はこちらをまっすぐに見て、誘う。
俺は驚いた顔をしながらも、目を輝せていただろうか。
「はぁー?なんで知らない子を仲間に入れるのよ?」
俺は、なんだこいつと思いつつも同じ歳くらいだからいいやと無視した。
俺はすぐに「もちろん! 一緒に練習しよう!」と返事をくれ、女の子も嬉しそうに頷いた。
「少ししたら迎えにくるね。」
母親はどこか安堵した表情を見せて、買い物へと足を向けた。
「君の名前は?俺は西条!西条悠令!」
男の子が元気に答える。
「私は龍炎寺明日香です。」
女の子は恥ずかしそうに答える。
龍炎寺ってすごい名前だな。
「私は、水神エリ。ここにいるのはみんな5歳よ。」
腕を組みながら答える。
こいつと仲良くならのは、時間がかかりそうだ。
「俺は、天久周理。同じ5歳だよ!」
子供特有の喋ったらすぐ友達になる能力に助けられた。
前世では、友達があいつくらいしか居なかったから、すでに前世の俺を超えている。
「そうか、周理!よろしくな!」
「周理くん、よろしく…。」
「ふん、せいぜい私の後ろで隠れてなさい。」
三者三様である。
ほんといいトリオだなこいつら。
「さて、3人は何をしてるんだい?」
この年であれば鬼ごっこかかくれんぼ、あるいはアスレチックで遊んだりとかそんなもんだろうか。
「魔法の練習だよ!」
悠令が元気に答える。
そうか、ここは異世界。
忘れてたが、普通に魔法使えるんだ。
「ふん!悠令のは魔法じゃなくてただの念じゃ無い!」
エリが突っかかる。
将来、悠令のこと好きになるフラグビンビンじゃないか。
「そんなこと言うの辞めてよぉ。エリちゃん。」
消え入りそうな声で龍炎寺が呟く。
本当に気が弱いんだな。
「ふふ、俺が成長したのを知らないな?周理もいることだし成長した俺の魔法を見せつけてやる!」
その時、ふと、足元にあるに小さな石を拾った。 何気なくそれを握りしめ、「石よ、動け!」
と唱えた。
手を伸ばし、石に集中する。
しかし、動かない。
悠令はもう一度、「石よ、動け!」と、声を大にして叫んだ。
そして、何度目かの正直で、石がほんの少しだけ動いた。
「よっしゃーーーー!」
少年は喜ぶ。
手の平サイズの小さな足が数センチカタカタと揺れた。
「すごいね。悠令くん。石、また大きくなったね。」
龍炎寺が小さく拍手をする。
一瞬可愛いと思ってしまったが、断じてロリコンではない。
「はぁ。まだそこなの?その石貸して!」
そういうと、悠令の石を取り上げて、右手を壁の方へと向ける。
指の上にのせ、「石弾。」と唱えながら石を弾く様に放つ。
ガキーーンという金属音が鳴り響く。
俺は思わず、耳を塞ぎそうになりつつ、石の行方を見る。
「は?」
穴が、空いてる?金属製の板だぞ?
下手したら拳銃よりも、威力があるんじゃないか?
「2人ともすごい。」
「ありがとう明日香。」
悠令が照れるように頭を掻く。
「はぁーーー?一緒にしないでよ!私の方が凄いって。」
エリはその場で地団駄を踏む。
まだ、5歳なんだな。微笑ましいよ。
「それをいうなら、明日香の方が凄いだろ!この前、身長よりも大きい岩を動かしたんだからさ!」
え、何それ?
そんなことでできるの?
今時の子供ってすげー。
「明日香はいいの特別だから!って、周理も黙って見てるだけじゃなくて、魔法使って見なさいよ!一つくらいできるでしょ?」
う。図星を突かれた。
やっぱり、今時の子供は5歳で魔法使えるんじゃん。だから、街に来たがなかったんだよ。現実見せられるから!
「俺も気になる!なんの魔法使えるんだ?」
待て、悠令までその気に。
明日香さん、助けて?
「…。」
無言でコクリじゃないんだよ!
なんの魔法とかそういう次元じゃなくて、使えないんだよ!
「はぁー…。」
とはいえ、この状況で魔法を使わないわけにはいかないだろう。
手品とかで誤魔化せるかもだが、これはどうしようもない。
ありのままを、受け入れてもらおう。
覚悟はいいか少年たち。
澄み渡るような青空の下、みんなワクワクしている様子だった。俺の心は曇り模様だけどな。
「周理、早くやってみてよ!お前の魔法、絶対すごいんだから!」悠令が煽る。
この場面だとこいつの元気いっぱいっぷりが腹立ってくる。励まそうとしてくれるんだろうけど、その言葉が逆にプレッシャーになると理解できるのはいたからなのだろうか。
「う、うん…でも、さっきの石は壁にめり込んでるから…それに、今日はちょっと調子が…」
俺は言い訳をしてみた。
「周理?いつまで言い訳してるの?石がないなら、私の飴玉上がるから。」
そういうと、エリがポケットに手を突っ込み、飴を渡してくる。
逃げられない。5歳児だからって馬鹿にしすぎたか。
「周理くん、やらないの?」
明日香も地味に加勢してきたよ…。
何気に、1番彼女の目は期待に満ちてるし。
5歳児の好奇心ってほんとにすごいな逃げ場がない。
「よし、行くぞ!」
と堂々と宣言してみる!
とはいえ、何もできないわけで。
今度こそ成功するはずだと自分に言い聞かせでやってみるか?
まぁ、いいや。
手を上げ、足が浮くイメージを心の中で繰り返す。目を閉じて、石よ浮け。石よ浮け。石よ浮け…。
しかし、何も起こらない。静寂が一瞬訪れ、周囲の風も止まったように思えた。
5歳児でも気まずくなるんですね。
次の瞬間、私の手のひらから「バサ!」という音と共に、何かが飛び出した。
「え?」
翼を広げてた、鳥が飛び去っていく。
あ、鳥が飴玉を…。
気付くと手のひらに飴玉は無かった。
何もない手のひらを4人が見つめる。
「え、え?これどういうこと?」
エリは呆然とした。
他の2人からは「ぷぷっ…」という笑い声が聞こえる。
やがて、残りの2人も笑いをこらえきれない様子となった。
「新しい魔法のスタイルか?」
悠令が笑いを必死に堪える。
「な、なに?魔法?魔法なの?」
エリが答えを得ようと右に左にキョロキョロと向く。
「そんなわけないよ。」
明日香が、今にも笑い出しそうに答える。
「これ、結構面白いかも!」
悠令が言う。
「鳥魔法の使い手になれるかもね!」
エリが乗ってくる。
「そう、周理くんの新しいスキルだね。」
明日香は、本当に優しいな。
もう、5歳で気を遣えるなんて。
「いや、そんなつもりはないんだけど。新しい魔法作っちゃったみたい。」
まぁ、面白かったならそれでいいや。
とりあえず、今は鳥魔法の周理として、やっていこうかな。 ーーー