自由を失った寡黙なる性識者
「おーい、野郎ども……喜べ男子!そして泣き叫べ女子! 今日は女子の転校生がきた!」
俺はその一言で眼が覚めた……。
お、んな? まさか……この時期に来る女子って…………。
「……谷村涼子、よろしく」
その姿、膝まである黒い髪その髪は黒髪に更に黒を染めているんじゃないかと思わされる黒髪。
表情も、スタイルも全てにおいて美人。
が、俺は喜べない。何故なら――――。
「涼子!?な、な、な、な、な、何故ここに!!!」
さっきまで美少女!美少女! と叫んでいた男子が、恐ろしい剣幕で俺の方に向くが、俺は気にしない。というかそっちに集中する余裕がない。
「……見つけた、敦………」
「薫、今日の委員会終わったら一緒に本屋行かない?」
「ああ……何か奢ってくれんなら行ってもいいけど、何しにいくんだ?」
「いや、新しい漫画探しでもしようかと」
「なるほどな、オーケー! さっ!今日も―――」
「佐藤! 琴羽! 助けてくれ!!」
ものすごい、恐怖した顔で俺たちに向かってくる一人の変態がいた。いや、嘘ではなく。
「どうしたんだ?馬場」
「みっともねぇな、どれあたしが聞いてやろう………まあ、どうせあの涼子さんが帰ってきたとか、なんつってな!」
「それです!!」
「薫の予想があたってたのかよ!」
「あ、あたしも驚きだ」
明日は雨だな、珍しく薫の予想が当たっていた!
「……逃がさない」
「ま、待ってくれ!! 俺はまだ墓場にはいきたく手が曲がるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
そんな、そんなことってあるのかよ!!
説明してなかった読者諸君。こいつは、…………。
「……敦、今日こそ親に会いに行こう」
「い、いやだっ!! 俺はハーレムをつくるんだっ!! まだ結婚とかしたくない!!」
とりあえず、ラブラブ(?)の関係であるのは違いない。
中学時代、馬場が不良から涼子さんを助けたところから始まったらしい。
涼子さん……それで馬場にベタ惚れしてしまい、以降学校を秘密にしていたはずの馬場が通っているところにわざわざ転校してくるとは…………流石!
俺たちは暗黙の了解でそのばを立ち去る。
「なっ! 待って! 待ってくれ!! こんな地獄において行かないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「……ありがとう佐藤、観念」
「そっそれは婚姻届!? 待て!俺はまだ十八歳未満だから出来ないって―――」
「……大丈夫、十八になったらすぐ届けるから」
「イィィィィヤァァァァァァァァァァア!!!!!」
これで欲望が少しでも減るだろう。
放課後
「さって………それじゃあ行こうか健」
「ん……ああ了解」
今日は何か予定があるみたいだったので、委員会はなくなった。まあ時間が変わっても買える本は限れてるから、あまり変わらんのだが………いいか。
「二人ともどちらへいかれるんですか?」
教室のドアに手をかけたところで雨宮に話しかけられた。薫がなにやら不機嫌な表情をしているのは気のせいでありたい。
「これから大人の本屋に立ち寄るんだが………行くか?」
「行きません!」
そして凹む俺の顔面。アニメでしか出来ない表現だと思っていたが、まさか小説でやるとは………恐るべし雨宮!
「お前なんであんな変な嘘ついたんだよ……」
「………なんでそんな引くんですか?やめてください、微妙に心がへし折られます」
冗談でやったのか、俺の首を掴んで立ち上げてくれた。非常に痛いです。
「さっいっくぞーーー!!」
「おお…」
「………いくぞ?」
「おおおおおぉぉぉ!!!!」
これ完璧脅迫じゃね? しまった、これなら一人でいったほうがよかったかもしれない。
しかし………あんな嬉しそうな顔を見たらそんなこと言えないしなぁ……何か嬉しかったことでもあったのだろう。
そして俺は薫の無邪気な顔に付き合わされながら、近くの本屋へ立ち寄った。いや、嘘ではなく。
さて、とりあえず目の前にいる夫婦でも祝ってくるか。
「ご結婚おめでとう、いやー流石だね、まさかハーレムハーレム言ってるやつが高校で一番速く結婚されるとは思わなかったよ」
「さ、佐藤!? てめぇよくも俺を置いて行きやがったな!!」
「いやいや、俺は夫婦様を助けたにすぎません(笑)」
「(笑)ついてんじゃねぇか! 初めてじゃね? 小説に(笑)ついたの!」
「お客様、あまり(笑)をつけないでください」
「うるさいよ!」
「翔子さん、いま馬場があそこの女性のスカートを見ようとしてたぞ」
「……浮気許さない」
「グァァァァァァァァァァァァ!!!眼が………眼がぁぁぁぁ!!」
翔子さんの必殺目潰しを食らった馬場は、そこら辺を転げ回る。………一度近所迷惑というものを教えたほうがいいかもしれない。
「さっ、薫もそろそろこっち来るし俺もあっち行ってるから、たのんしんでね?」
「……佐藤ありがとう」
「なっ、また? またこいつと二人っきりになるの? やめて! まだ死にたくない!!」
俺が立ち去るとものすごくウザい悲鳴が聞こえた。これがお前の罪だ。助けてあげることはできない
「健、さっき馬場らしき悲鳴が聞こえたんだが……」
「気のせいだろ、良い本あった?」
「本当にいいのか? ………まあいっか! 馬場だし」
「だな、おっこれなんかどうだ?」
「甘いな、これは表紙だけで中身は全く面白くない」
なんやかんやで、今日は終わった。
ん? なんでそんな適当かって?
五時間くらい薫の説明を受けたからだ。
明日は休みたいなぁ……学校。