慶びの果実
俺は隣で寝ている縞那賀の寝息が顔に掛かり、覚醒した。
この日はホワイトデーだった。
3月14日のチョコのお返しとしては何倍もするネックレスだった。
俺は隣で寝息をかいている彼女を起こさないように物音を立てずリビングへと移動した。
キッチンへと行き、冷蔵庫から牛乳の紙パックを取り出し、マグカップを用意して、それに牛乳を注いだ。
レンジでマグカップの牛乳を温める。
レンジで熱されたマグカップを取り出し、ダイニングチェアに腰を下ろすまでホットミルクを飲まずにいた。
緑茶やコーヒーを飲む気に何故かならなかった。
俺はマグカップの縁に口をつけ、ホットミルクを啜った。
倉田美夏からのメッセージが届いていた所で動揺を見せる程では無くなっていたからスマホは置いてきた。
静かな時間を要したくて、壁掛け時計を見つめた。
時刻は5時13分だ。
プレゼントを渡す時機は重要で、いつ頃渡そうかと思索してみる。
◇◇◇◇
まだ縞那賀は起床して姿を見せることもなく、物音は聞こえない。
5時42分になったが、壁掛け時計の針が時を刻む物音しかしない。
もうすっかりホットミルクは冷めてしまった。
米を研ぎにキッチンへ移動し、米を研ぎ炊飯器にセットして、待つことにした。
6時に寝室に戻ってみたが彼女はまだ起きる気配はなかった。
スマホを掴みダイニングチェアに腰を下ろし、気になった聴いているバンドの新しい情報が掲載されてないかチェックしたり、好きな作家の新刊情報をチェックしていく。
こなしていき、終えた後はラジオのアプリを起動させ、無料で他県のラジオ番組を聴いていく。
◇◇◇◇
7時8分に彼女が起床して姿を見せる。
「おはよー、早いね。おかずは?」
「何が良いの?」
「味噌汁はのみたい。あとはなんでも良いかな」
「そうだね、今日も寒いし暖まりたいのわかる」
俺は朝食のおかずを作り、向かい合って朝食を食む。
二人は大学へ向かった。
◇◇◇◇
17時に帰宅すると縞那賀は既に帰宅していた。
「ただいま」
「おかえり、祐斗。外食にする?」
「今日は此処で。良い?」
「そうだね。少しは節約してかないとだし」
「ああ、うん」
夕食を済ませて、バイトして貯めて買ったネックレスを彼女に箱のまま渡した。
「えっ!?ネックレスなんていつの間に……!?嬉しい、ありがとっ!!」
その後は彼女に皮膚を触れ合わせる営みをせがまれたがセックスをせず、抱きしめるだけに留めた。
寝室でベッドの上で愛してると囁き合いながら就寝した。
◇◇◇◇
人は支えられては支えて、傷つけられ傷つけ、想われては想って、在ったことを忘れられ忘れる。
人は愛して愛されて、求めて求められて、疎まれては疎んで醜さを解っては解られずながら、生きていく。
八佐視祐斗と縞那賀沙奈は恋をして育んで、現在がある。
大学を卒業した年に縞那賀が妊娠して、貴方が産まれる。
貴方になにを教えよう縞那賀沙奈と一緒に。
夢に出てくる楕円形のオレンジ色の果実は変色も膨張、押し潰されていない。
安心した、腕を伸ばしても触れることさえ叶わなかったこの果実が漸く掴めるようになった。
掴んだ果実を顔に近づけ、口に運んでかぶりついたらとても甘かった。
縞那賀を泣かせ、傷つかせ、取り返しの付かない罪を犯したのに——果実は苦くも渋くも酸っぱくもなく、甘かった。
瞳に映る果実はいつから成熟していたんだろう?
種はいつ芽をだしたんだろう。
握りしめ、歯形のついたこの果実は、いつ腐ってもおかしくなかった。
今まで変色して腐らなかったのはどういう意味なのか?
ただ、いま俺が言えることは縞那賀沙奈と恋を育み、未熟さを忘れずに生きて来たから、果実を掴めれたのだし、味わえたのだ。
君はどんな形をして、どんな色をした果実を食べれた?
その果実は、どのような味をしていたのかな?
果実とは……道徳を比喩しています。
八佐視は甘く感じたというのは——ということでしょう。




