エンドロール
俺は真っ白な病室の病床に臥していた。
窓に顔を向けることすら、困難だった。
俺はどうにか、窓へと顔を向けた。窓の外には青葉も纏っていない寂しい樹木の細い枝らが真冬の風に晒され、揺れていた。
天候は快晴で、灰色の雲は視界に入らない。
曇り空であったら……と笑いたかったが、笑うことすらまともにできない皺だらけの自身の醜い顔が窓に映っている。
病室には、俺——八佐視祐斗だけが居る。
窓に映るのは、自身の醜い顔だけではなく病室の廊下側の壁に吊り下げられたプロジェクタースクリーンに映し出された自身が主演の青春群像劇の映像もである。
俺が撮りたいと言い出したかも判らない自身が主演の青春群像劇が、映し出され続けている。
窓際に花瓶が置かれているが、どの花も挿してない空だ。
見舞いに訪れた人間は居ないのか、見舞いに訪れた人間は居たが花を買ってきてくれた人間が居なかったのか……もう記憶もない。
俺がいつからこの病院のこの病室に入院しているのかすら……定かではない。
病床の傍らに置かれた一脚のパイプ椅子はもの悲しい。
縞那賀が俺を見舞ってくれたか……もう朦朧する脳では。
二人の親はもうすでに逝去している。
もう思い出せない中学生の頃の虐められていた同級生を見て見ぬフリする自身がプロジェクタースクリーンに映っていた。
まだ中学生の頃のシーンかぁ……
青春群像劇のエンドロールに達するまで、俺は生きていられるのか危ぶまれる。
お世話になった人達のクレジットは観なきゃならないのに……
確か俺の下に並んだ人の名前は確か……しぃ、縞那賀沙奈だった気がする。
俺は彼女に一度裏切られ、それ以降も何度も裏切られた。
俺のことが好きだ、愛してる……といった発言は偽りだった。
だって……死期がもうじきだというのに、傍らに居らず手を握ってすらいないのだから。
でもまぁ……俺を愛してくれたのは、縞那賀沙奈——彼女一人だけだった。
そんな縞那賀に愛想をつかれ、死に際ですら看取られないのは当たり前だよなぁ。
縞那賀も俺と同じように歳をとり、老いている。
彼女に殺されなかったのは、神様が下した皮肉なのか……どうだろ?
縞那賀沙奈が主演の青春群像劇のエンドロールでは、俺はどこなんだろう?やっぱり脇役だろうね……それも悪くない。
健康であった際は満たされないことが嫌で嫌で仕方なかったけど、それが幸せと言うなら……そうなのかもなぁ。
ココロが痛くて痛くて……落ち窪んだ眼窩から涙が溢れて、止まりそうにないやぁ。
生きて、生きて、生きて生きて、生きて生きて生きて……行きたいよぉぅ、沙奈ぁぁああぁぁ。
もう……死ぬよ、俺ぇ。
俺は……俺は、沙奈に一言……最後にこう告げたかった。
——ありがとう。
八佐視祐斗は、愛していた元恋人に最期の本音を告げれずに死んだ。
俺は独りで、誰にも看取られずに——亡くなった。
八佐視の病室のプロジェクタースクリーンには彼が主演の青春群像劇のエンドロールが流れ出していた。
***
俺は悪夢に魘され、起床すると身体が脂汗をかいて、不快だった。
「沙奈ぁぁ……俺を独りにしないよなぁ。なぁ、沙奈ぁー!」
彼がこのような最期を迎えるかは、彼もわからない。