20 日記③
——〇〇年。〇〇月〇〇日。
今日はメチャクチャ寒い!
夜にこうして日記を書いているんだけど、外は雪がずっと降っているし、明日にはそこそこ積もっていると思う。
宿だって外よりはそりゃあマシだけどさぁ。
古びた木造建築のこの部屋は、どこか穴でも空いているんじゃないかって思うぐらいにとにかく寒い。寒すぎる。
でも、明日からはここよりも寒い場所で野宿をしなきゃならない。魔物だって多いだろうし、当分はまともな生活は望めないだろう。
本当に魔法使いがパーティにいなかったら詰んでいたよ。
魔法と魔道具で恐らく寒さと魔物の問題はある程度解決できるだろうしね。でも、まぁ、ある程度なんで想像以上にここから先の旅は苦しくなると思うけど。
あぁっ!
ダメダメ。ネガティブ禁止!
せっかくの日記なんだから楽しい事を書かなくちゃね。
まず私たちはノウトっていう村に辿り着いたの。
恐らくはこの世界で最北の村だ。
運が良いことにノウトではお祭りが開催されていたの。
私はお祭りが大好きだったから凄く嬉しかった。私の地元でも何かある度にお祭り騒ぎだったから、どこか懐かしく感じたのかも。
沢山の屋台に、おっきな松明が並んでいてね。どうやら女神様に感謝するためのお祭りだったみたい。
この村の人たちは、いつ凶暴化した魔物に襲われてもおかしくはないのにさ。みんな明るくお祭りを心から楽しんでいるみたいだった。
寧ろ、不安だからこそ女神様に願ったのかもしれない。
この世界が救われるように。魔王が倒されるように。村が無事でありますように。そんな願いを込めていた気がするんだ。
どんなに暗い世界でも、こうやってみんなが笑っている。
その姿を見て、絶対に魔王を倒すって決意がまたひとつ固まったの。きっと、君もそうだったんだろうね。
でね!
私たちは思う存分にお祭りを楽しんだの!
私なんていろいろ食べすぎちゃってもうお腹パンパン。みんなに食べすぎだって笑われたけど仕方ないじゃん! 全部美味しそうだったんだもん!
でも、一番美味しかったのはやっぱり綿菓子でね。
甘い物に目が無い私は、両手にひとつずつ綿菓子を持って交互に食べてたの。アレはもう至福のひと時なんてものじゃないよ。本当にね、最高だった。
それを見ていたみんなは引いていたけどさ。もう関係無しに食べてちゃった。しかも、君が買ってきてくれたんだしね。そりゃあ食べないわけにはいかないよ。
そして私がお腹いっぱいに綿菓子を食べ終わった時、花火が打ち上げられたんだ。
すっごく大きな花火だった。
綺麗で、派手で、とにかく凄かったの!
子供の頃は音が大きくて嫌いだったんだけど、今日見た花火は最高だった。もうずっと見ていたかったなぁ。
隣に立っていた君は何故だか私の方ばかり見ていたけどね。
私がちゃんと花火を見なよ、って注意しても結局こっちばっかり見てたし。
あぁいうの、凄く恥ずかしいからやめて欲しい。
君は最近顔も引き締まってより格好よくなったから、心臓に悪いんだよ。今思い出しても顔が熱くなっちゃう。
他の二人が気を利かせて離れていなきゃ、どう思われたことか。もう私たちの関係は彼女たちにはバレているみたいだけど、まだ魔王討伐は終わっていないんだから集中してほしいよ全く。
私がそういう風に言ったらさ、君は謝りつつも手を握ってね。だからそういうの心臓に悪いんだって!
そりゃあ私だって嬉しいけどさぁ。
でも魔王を倒すまでは、やっぱりこういうのはやめた方がいいと思うの。いつか絶対痛い目を見るし、そのいつかが命に関わってしまう場合だってある。私たちの旅はそういう旅なんだから。
私はそう思いつつ、言葉には出せなかった。
だって、今ここにある確かな幸せを噛みしめていたかったもん。
ズルい女だ。
わかっているけど、あの状況に抗える人なんているわけないじゃん。
世界を救おうとしているんだ。
この瞬間ぐらい、私個人の幸せを優先したっておつりがくるよ。
だから、結局私は花火が終わるまでずっと君の手を握っていたんだ。君との幸せを感じていたの。
こんな世界だけど、今日あの瞬間だけは間違いなく幸せだった。
もし魔王を倒すことができたら、この幸せがずっと続くんだ。
君と一緒に暮らして、君と一緒に笑って、君と一緒にご飯を食べて、君と一緒に眠って。そんな些細な日常を送ることができる。
絶対に魔王を倒そうね。
私の言葉に、君はそっと唇を近づけて応えてくれた。




