90 町づくりの未来(最終話)
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「へー、だからこの町にはたくさんの病院があるっていう訳なんだ」
「まー、太郎君はあまり病院とか行かないとか思うけど、あたしなんかはおじいちゃんやおばちゃんの付き添いでよく病院に行くのよね」
「そういえばみーちゃんのとこのおじいちゃんとおばあちゃんは、この近くに住んでいるのよね」
「ああ、だから病院なんかも一緒に行ったりしてるんだ」
「偉いなーみー姉ちゃんは……」
「太郎君、そんなに褒めないでくれよ。病院っていったって、すぐ近所にある高橋医院さ。ここの先生は何でも診てくれるんだ。お腹が痛いっていっても、目の調子がおかしいっていってもね。まあ、体のことなら何でも相談にのってくれるんだ」
「ぼくの家の近くにある木村医院だってそうだよ。小さい頃、熱を出してよくぼくも木村医院に通ってたんだ」
「あー、分かるよ。わしが、いつも岡崎医院に通っているみたいなもんだね」
「そっか、みょんちゃんの先生は、岡崎医院の先生なんだね」
そう、この町は、何でも診てくれるお医者さんっていうのが、いたるところにあるんだよ。内科とか外科とかいろいろあるけど、とりあえず体のことだから何でも診てくれる。そして、治療が必要かどうかの検査をちゃんと手配してくれるんだ。
その検査をしてくれるのが、町立の総合病院だよ。今は、7つの町が合併されたので、地区ごとのセンター病院っていう風に言われているけど、元々はその町の町立総合病院だったんだ。
検査結果をもとに、簡単な治療だったら家の近くの病院を紹介されるし、手術とかはセンター病院でもしてくれる。その後のケアは、どこで治療を続けるか患者さんの希望を聞いてくれるんだよね。
「本当にこの町の医療制度は、患者さんのためのものになっているよね」
「ねえ、この病院同士の協力っていうか、助け合いの基本を考えたのは、わたしのおじいちゃんっていうことなの?」
「ああ、志津奈ちゃんのおじいちゃん、岡崎芯也さんじゃよ。彼は、自分の病院の事より、この町の……いやこの地方の医療制度の充実に奔走しとったなあ」
「そうか、だからおじいちゃんは、病院をすぐにお父さんに任せて、自分はいろいろ町のためにお仕事してたのね。どうりで家に居ないことが多いと思ったの」
「そうだね、芯ちゃんにとっては、この町全部が患者さんみたいなものだったかもしてないね」
「ねえ、みょんちゃん。わたし……もっと町のことを考えてみたい! 医療の事だけじゃなくて、人が暮らしやすい、住みやすい町って何なのか、いろいろ調べてみるわ」
「そうだね、志津奈ちゃんには、まだまだいっぱい学んで欲しいよな。きっとそれが、志津奈ちゃんの栄養になって、ステキな芽が顔を出すんじゃないかな」
「ありがとうみょんちゃん、わたしがこんなにいろいろ考えて、いっぱい迷えるようにしてくれて。そして、その迷いを解決できるように、学校も、町も……そして、たくさんの仲間たちを紹介してくれて」
わしは、この虹ヶ丘を開拓してきたつもりじゃったが、開拓してきたのは、ここで暮らす人達の気持ちだったかもしれんな。いつでも、希望をもって前に進めるように、気持ちを開拓していたのかもしれんわ。
( 完 )




