89 患者の為の連携
「岡崎さん、早くその構想の本質的なことを聞かせてはくれないか? 確かに、町に総合病院を作ろうという話しは、全国町長会議の中でもよく出る。当然、もう作っている町もたくさんあるんだ。でも、岡崎さんの構想は、ただ町立の総合病院を作ろうっていうだけじゃないんだろ」
「おやおや、芯ちゃん、町長さんも我慢の限界みたいだよ。もったいぶらないで、早く話さないと町長さんが怒り出してしまうよ、うふふ」
「みょんちゃん、やめてくださいよ。ただ、私は町をもっと住みやすくするためのヒントが欲しいんですよ」
「えっと、すみません、みなさん。別にもったいぶった訳じゃないんですけど……要は、町立の総合病院と町のそれぞれの医者が、しっかりと手を結ぶ……んー、連携するとでもいうんでしょうか、とにかくもっと親密にならないと、町としてはダメなんですよ」
「ほー、連携ですか。それは、具体的には……」
「たぶん、町立の総合病院だけが充実したものになっても、逆に患者さんが混んでしまって、治療が必要な患者さんに行き届いたケアができないと思うんです。また、小さな病院がいくら増えても、これから発達していく最新の検査設備や人員負担は結構な重荷になるでしょう」
「私もまったく同感ですな」
「そう、だからです、町長さん。お互いに足りない物を補えばいいんですよ」
「補うって?」
「町立病院は、町の小さな病院の足りない高性能な検査設備と検査技師、手術設備なんかも充実させればいいんです。また、町のそれぞれの病院は、患者さんのための行き届いた治療です。一人一人に合ったきめ細かな診断と治療をしていくんです」
「それは、わかります。でも、その連携というのは?」
「つまり、町の小さな病院は、町立総合病院に検査や手術のための施設設備を自由に使えるようにするんです。また、町の病院は、町立総合病院の患者さんの治療を継続的引き継げるようにするんです」
「つまり、患者さん一人について見ると、町立の総合病院と町のそれぞれの病院を連続的に使えるということですか?」
「その通りです、町長」
「そうね、普通は、病院を変えるのにいろいろ手続きが必要だったり、時には病院同士が連携できてなくてうまく患者さんの希望に応えてもらえない場合も多いって聞くわね」
「それだけじゃないんです。町の病院で扱っているカルテを共有化していくんです。どの病院のどの先生がみてもいいようにしておくんです」
「そうだね、初めから患者さんを町ぐるみで守っていくという姿勢が打ち出せれば、安心して患者さんはどこの病院にも通えるな」
「たぶん、それができれば、1つの病院に患者さんが詰めかけて混み合うということもないかもしれませんね」
「そう、みょんちゃんが言うように、患者さんにとって病院で待たされることが一番の辛い事なんだ。だから、薬屋さんも町で情報を共有化して、処方箋をもとに必要な場所に、必要なものを届けるようにしていくんだ」
「つまり、患者さんが自分で薬を買いに行かなくていいのかい?」
「ええ、病院ですぐに必要だったら病院に届けるし、自宅でもいいのなら自宅に届くように手配するんだ」
「だったら、薬をもらうために長い時間待つということは無くなるわね」
「ああ、これも、町自体が連携して患者さんを守ろうという意思があればできることなんだ。だから、町立の総合病院は、この町の意志を作って行くようにすることが最大の役目と考えて欲しいんだ」
「そうか、町立の総合病院だからといって、町の患者さんをたくさん集めるというのではなく、如何に町の小さな病院の役に立てるかを考えるんだね」
「そうすれば、きっとこの町で病院を自分で作ろうって考えるお医者さんも増えるわね」
こうやって、あの時の町長さんと芯ちゃんは、町立総合病院の構想を話し合ったのよね。ほどなくして、黒岩町長は町の所有している特許に関する収入をすべてつぎ込んで町立総合病院を作ったわ。
もちろん、町にあるすべての病院の先生達と相談をしながらね。
(つづく)




