88 町立病院構想
あの時、芯ちゃんはとんでもないお願いを町長さんにしたのよ。わしは、今でも覚えてるわ。わしでさえ、あんな考えは思いつかんかったわ。
「黒岩町長さん、僕はこの町に町長さんの手で総合病院を作って欲しいんです!」
「総合病院だって?」
「ええ、内科や外科、小児科や耳鼻科など、あらゆる病気の手当てができる病院です」
「し、しかしだ、岡崎さん。そんな総合病院を作ったら、他の病院の先生が困るんじゃないか? 患者さんが、みんなその総合病院に来てしまったら、他の病院の先生達は儲からなくなるんじゃないのかい?」
「確かに、普通に考えると、患者さんはみんな総合病院に行ってしまうでしょうね」
「ふふふ……芯ちゃんは、普通じゃないからね。ねえ、何か考えがあるんでしょ?」
「ははは、みょんちゃんにはもうお見通しなのかな? 僕のこのとんでもない提案は……」
あの時、町長さんをはじめ、うちのケンちゃん……あ、旦那ね……も、みんな目を丸くして驚いてたわ。
確かに、わしもびっくりはしたんだけど、絶対に芯ちゃんは、そんな片手落ちな提案はする訳がないと思ったのよ。何か、秘策があるだろうってね。
「町長さんが作る町立病院は、すべての診療科を備え、その上に検査機器と検査技師も充実させるんだ。もちろん、手術に必要なものをそろえてね」
「そんなことをしたら、ますます他の病院は困るんじゃないかな?」
「でもね、町長さん。今だって、町の病院は困っているんですよ。何に困っているかご存じですか?」
「え? あ、ああ……それは、それぞれの病院は、開業はしたがそれだけで資金が底をつき、医者以外の検査機械や検査技師を雇えないということらしいんだ」
「その通りです。病院は、患者を診て治療をしますが、どんな患者でも専門の検査をしなければなりません。もちろん、医者ならある程度の検査もできますが、小さな町の病院で医師が一人しかいないのなら、検査まで自分でやり続けるのはかなり無茶なことです」
「なるほどな。僕もみょんちゃんについて遠くの病院に通っていたから分かるよ」
「そういえば、桜山先輩は、大樹君が生まれるまで、ずっと遠くの病院に一緒に通っていましたね」
「ああ、あの病院は、治療する先生もたくさんいたけど、いろんな検査機械がって、それを操作する人もたくさんいたなあ。それにな、薬ももらえるんだけど、そこにもたくさんの人が働いていたぞ」
「そうなんです。どうしても病気を治すのには、薬も必要なんですよね。その薬も病院で出すとなると、物凄い手間と設備にお金が掛かるんですよ」
「でもね、そうすると大きな総合病院を町立で作るとして、芯ちゃんが目指している町にたくさんの病院を作るというのはダメになってくるんじゃないの?」
芯ちゃんの話を聞けば聞くほど、わしはその時に矛盾を感じたのを覚えているんじゃ。まさか、芯ちゃんが町に病院を増やすと言ってきたことが、間違いだったなんて言い出すんじゃないかとハラハラしたんじゃ。
(つづく)




