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84 増やしたいものは

「それでな芯ちゃん、わたしはもう1回聞くんだけど、病院をやるより大事なことっで何なんだい?」


「そりゃー、決まってるさ。この町に足りない物は何だい?」

「……うーん、足りないって言われてもさあー。贅沢をいったらキリがないからねえ」


「あのな、みょんちゃんが赤ちゃんを産もうとしてた時、どこの病院に通っていたんだい?」

「そりゃあ……あ、そっか、芯ちゃんはお医者さんを増やそうと思っているのかい?」

「ああ、あの時、みょんちゃんは遠くの町まで通っていたじゃないか。それも、心臓が悪く、そんなに無理はできないっていうのに、結構な時間と労力を使って……」



 確かに、あの頃は虹ヶ丘には、病院は無かったんじゃ。まあ、歳をとった産婆さんはいたけど、お医者様じゃないからね。わしみたいに、病気を持ってると面倒は見てくれなかったんだよ。



「もしもだ、町に病院が無かったら、いやお医者さんが居なかったら、町に人は住みたいと思うだろうか?」

「……うーん、若くて健康な人なら、そんなことは気にしないかもしれないけど、だんだん歳をとってくると病気の人も増えるからね~」

「わざわざ遠くまでお医者さんに通うなら、その遠くの町に住んだ方がいいって思っちゃうんじゃないかな?」



「私はね、この虹ヶ丘に引っ越して来て感じたの。ここの人達は、みんな一生懸命なの。一生懸命働いて、一生懸命勉強して、そして一生懸命町を良くしようと思ってがんばっているの。……たぶんね、そうすることが、ここで長く暮らしていくための方法だって分かっているんだと思ったわ」


「そうだね、この虹ヶ丘は開拓されてこんなに開けたんだ。初めは何にも無かったって聞いてる。僕がこの町に来た頃は、もうジャガイモが採れるようになっていたんだ。でも、それもみょんちゃん達が頑張ったお陰だと思ってるんだ」


「確かにそうね、あの頃わたし達は、この虹ヶ丘にいつまでも住みたいって思ったわ。住むためにはどうしたらいいか、ここで暮らすためにはどうしたらいいか、いっぱい考えたの。……そして、ジャガイモ育成の特許に行きついたのよね。それから、いろいろな作物も試して、なんとか特許をとることが、みんなの生活に繋がることを学んだの」


「そうさ、その特許のお陰で、僕は東京で学び、医者になることができたんだ。だから、今度は僕がその特許の代わり……いや、お手伝いをしようと思っているんだ」


「芯也さんは、よく学校に行くの。そして、医療の事を話したり、進学を希望する学生の相談にのったりしているの」

「ああ、虹ヶ丘学園の高等部でも希望する学生には、医療の講義をしているらしいじゃないか。それもボランティアで」


「僕の話がちょっとでも医療への切っ掛けになればと思ってるんです」

「でも、医者になっても虹ヶ丘でお医者様をやってくれるとは限らないんじゃないの?」


「私は、別にそれでもいいと思ってます。私だって、故郷を離れてお医者になったけど、今はこの虹ヶ丘のために働けるんですから」

「そうさ、みょんちゃんはいったじゃないか。僕達がもっと専門的なことを学びたいっていった時、『好きなところで、好きなように学び、好きなようにがんばって欲しい』ってさ。そのためには、何でも協力するっていってくれたのが、とっても嬉しかったんだ」


「そうね、わたしだって、好きなようにやって来たんだもの。学校を作るのだって、学ぶのが好きだっただけなのよね」


「僕は思うんだ。しっかり種さえ撒けば、いつかは芽が出て成長してくれるはず。例え、その成長が虹ヶ丘の地でなくても、きっとどこかでまた種を撒いてくれるってね。そしたら、いつかはこの虹ヶ丘にもたくさんのお医者さんがいてくれるような気がするんだ」






・・・・・・・・・・・・・・・・

 そう、あの時、芯ちゃんは、本当に先の先を見通して、進んでいたのよね。本当にゆっくりだとわたしは思ったんだけど……。




(つづく)



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― 新着の感想 ―
何にも無かったのに、ドンドン開拓していきましたよね。 新たに移り住んだ人たちは、その熱気や活気に惹かれたのかも知れません。 「病院があり医者が居ること」よりも、「町の皆が健康で安心して暮らせるために、…
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