81 笑顔の素は
「その後、体調はどうですか?」
「ええ、もう充分お乳も出るし、大樹もしっかり3時間おきに飲んでくれるから大助かりよ」
「そりゃよかったです。心臓の方も問題ありませんし。……まあ、激しい運動はもうしばらくはお預けですけどね、あははは」
「大丈夫よ、来年の運動会にさえ間に合えばいいから、うふっ」
そう、あれはわしが、大樹を生んで間もない頃だったよ。わしの検診は必ず1ケ月ごとに芯ちゃんがしてくれたんだ。その検診のためにわしが家族と岡崎医院を訪れた時、何気なく気になることを聞いたんじゃ。
「ねえ、芯ちゃん。患者さん少ないんじゃないの? 病院、繁盛してないんじゃない?」
「あははは、みょんちゃん、何いってんの? 病院は繁盛しちゃダメなんだよ」
「もう、あなたってば……うふっ。みょんちゃんは、心配してくれてるのよ、ね」
「あ、ああ……芯ちゃんだって、こんなに可愛い奥さんもらったんだから、しっかり働かないと奥さんが困るんじゃないの?」
いつも傍で検診の手伝いをしてくれる奥さんの幸子さんも、お医者さんなんだけど、その頃はほとんど芯ちゃんの手伝いしかしてないんだ。まあ、今でいう看護師さんだよね。
それでも、奥さんの幸子さんは、いつも笑顔で接してくれるんだよ。わしだけじゃなく、病院を訪れた人みんなにな。もちろん患者さんにもだけど、付き添いの人にもみんなに笑顔で接してくれるんだよね。
「ねえ、さっちゃん、もう少しお尻叩いて働かせてもいいかもよ」
「まあ、みょんちゃんったら……うふっ、そんな事したら、私も忙しくなっちゃうわよ」
「あれ? さっちゃんもさぼりたいのかな?」
「まあ、私もゆっくり芯也さんとお茶できた方が楽しいですからね、ふふふ」
「おいおい、君達さあ、まるで僕が仕事をしないダメ亭主のようないい方はやめてほしいなあ~」
わしの健診はいつもこんな笑顔と笑いで終わるんじゃ。たぶん、この雰囲気がわしの寿命を延ばしてくれとるんじゃないかと思う時があるわなあ。
「ところで、芯ちゃん、ほんに患者さんが少ないのは、わたしの健診のために他の患者さんを断ってんじゃないでしょうね?」
「あはははは、みょんちゃんは心配性ですね。前は、どんなことが起きてもいつも前向きで、心配なんかしたことなかったじゃありませんか」
「そりゃ、自分のことなら心配はしないけど、だんだん歳を重ねるとまわりの人のことが心配になるものなのよ」
「へええー、そうなんですか。僕は、まだそこまで歳をとっちゃいませんけどね」
「もう、何いってんのわたしと芯ちゃんなんか、1歳しか違わないじゃないの。まったく、あははは」
「あれ? そうでしたっけ……昔から僕はみょんちゃんの頑張ってる姿しか見てないから、僕なんかまだまだだなあって思っちゃうんですよね」
「ねえ、さっちゃん、どうにかしてよ、芯ちゃんってば、わたしを年寄りみたいにいうのよ~」
「うふっ、困ったものですね~……じゃあ一番若いのは、私かな? 私、芯也さんの4つ下ですからね、えへへ(❁´◡`❁)」
「あ、さっちゃんずるい~、自分ばっかり若いからって~~あはははは」
本当に奥さんの幸子さんと話をすると、いつも笑顔になったのよね~。
(つづく)




