80 しーちゃんの疑問
「それで、しーちゃんの将来成りたいものって、どんなものがあるんだい?」
「えーっとね、わたしが普段からよく見てるのが、うちのお父さんの仕事なの」
「そっか、お医者さんね……ま、お父さんの後を継ぐのもいいじゃないの」
「もー、みーちゃんは、そんなに簡単にいっちゃって」
「そうだよね、確かにしーちゃんは頭も良くて、勉強もよくできるから、お医者様にはなれると思うけど……お医者様の仕事って大変だって聞くよ」
「おや、太郎君はお医者様が大変だって思うんかいの?」
「だって、みょんちゃん、よく考えてよ。病気っていつかかるか分からないんだよ。ケガだって同じだよ。いつケガするかなんて、誰にも分からないんだ。だから、お医者様の仕事っていつ出番になるかなんて全く分からないんだよね」
ほう、太郎君は普段からよく病気やケガのことを考えてるんじゃな。そういえば、太郎君は、いつもわしの体のことを心配してくれるし、わしが動こうとするとすぐにまわりに気を配り、邪魔になりそうなものを片付けてくれとるのう。
「太郎君は、お医者様の仕事は嫌いなのかい?」
「うーん……よく分かんないや。あの時、みょんちゃんに出会って、病気だって知った時、僕だってお医者さんだったら治してあげたいと思ったんだ」
「そうよね、太郎君、あの時みょんちゃんが具合が悪いって聞いた時、泣きそうな顔してたし、その後元気な顔を見て本当に涙浮かべてたもんね」
「もー、しーちゃんってば! 恥ずかしいから、いわないでっていったよね~」
「あーははは、ごめん、ごめん。……でもね、わたしだって病気の人を助けたいと思うわよ。おじいちゃんだって、お父さんだって、本当に一生懸命なの」
「だったら、しーちゃんもお医者さんに成ればいいんじゃないの?」
「わたしもね、この間、そんな話を家族にしたのよ。そしたらね、おじいちゃんがいったの。『将来は好きな事をやればいいんだ。ただな、医者だけじゃ町は幸せにならんぞ』ってね」
「ほう、あの芯也君がね~」
「わたしね、何のことか全然分からないの。ねえ、みょんちゃんなら、おじいちゃんと仲良しなんでしょ。どういう意味か分かるんじゃないかと思って相談したのよ」
「なるほどのう~……そうかい……」
わしは、遥か昔を思い出したんじゃ。あの岡崎芯也君が、この虹ヶ丘に初めて病院を作った時のことをな……そして、どうやってこの町に病院を増やしてきたかを……。
「あたしも聞きたいなあ。今の虹ヶ丘には、たくさんの病院があるわよね。それだけ、たくさんのお医者様がいるってことじゃない。それなのに、医者だけじゃダメだって、どういうことかしら、とっても気になるわ」
「そうかい、三成実ちゃんも、きっと今の町づくりに興味があるんじゃろ? だから、きっと芯也君の話が気になるんだと思うんだな…………じゃあ、分かった。芯也君の本当の願いを話してあげるわね…………」
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……そう、あれは、わしが大樹を生んでから、まもなくの頃じゃったなあー…………
(つづく)




