77 志津奈の進学
「みょんちゃーん!」
「おや、志津奈ちゃん、可愛い制服じゃのー」
「ね、いいでしょ、このセーラー服!」
「うん、中学生らしいのー。でも、志津奈ちゃんは、虹ヶ丘学園の中等部じゃろ? あそこは、制服は無かったはずじゃが……」
「えへへ、この制服はね、今日は入学式だから特別よ! だって、虹ヶ丘学園って服装は自由なんだもんね。一応制服はあるけど、別に着用の義務はないんだもんね」
「えっと、僕もね、今日だけは特別に制服にしたの! だって、しーちゃんと記念写真撮りたかったんだもん」
「まあ、ええのう。太郎君の学生服も、志津奈ちゃんのセーラー服もよう似合ってるわ!」
「太郎君ったら、記念だから写真撮ろうってうるさいのよ。ふふっ」
志津奈ちゃんたら、口ではあんなこと言って、とっても嬉しそうだわ。
この虹ヶ丘学園中等部から、午後の授業は全部自分で決めた研究テーマに沿った活動をするのよね。もう、自分の目標に向かって『自由』が許されているの。でもね、それだけ自分に掛かる責任は重くなるんだけど……この子達は、大丈夫よね。もうしっかり自分で考えて行動出来ているもの。一緒にいて、わしはよく分かったわ。
あれから100年か……早いものね。わしらの虹ヶ丘小学校……いや、開校から今年で103年目になるのね。わしも、122歳じゃもんな~。
わしは、桜山美代乃。みんなから『みょんちゃん』って呼ばれてるの。……うーん、呼ばせてるのかな? わしは、虹ヶ丘小学校の初代校長だったんじゃ。校長っていっても、別に偉くもなんともないんじゃ。みんなが協力してくれて、何もなかったこの虹ヶ丘の村に小学校を作ることができたんじゃ。
この100年の時間をかけ、村は町になった。そして、町は大いに発展してきたんじゃ。虹ヶ丘小学校も、虹ヶ丘学園になり初等部から大学までに育ったんじゃ。今じゃ、町民が誰でもいつでも通える町民大学も併設してるんじゃ。
「ねえ、みょんちゃんも一緒に写真撮ろうよ!」
「あーはいはい」
志津奈ちゃんと太郎君は、入学式が終わり、学校の帰りに家に寄ってくれたんじゃ。庭の桜も満開に咲き、とってもいい天気じゃなあ。
「あのね、みょんちゃん、今日も上杉電器に行くの?」
「ああ、今日は、午後からかな。店番、頼まれてるんじゃ」
わしは、去年から縁が合ってこの子らと関わってるんじゃ。……んー、去年じゃないかな? もう100年以上前からの縁かな?
ま、そんな関係で、上杉電器商会で、時々パートの仕事も頼まれてるんじゃが……。
「そう……じゃあ、後でわたしも行くからさー、ちょっと相談にのって欲しいんだけど、いいかな?」
「おや? 何か悩みごとかい。いいさねーいっぱい悩みな! 悩めば悩むだけ、心が豊かになるさ。いつでも相談にのるよ」
「うん、ありがとうね、みょんちゃん!」
「あのー……えっと……ぼくも行ってもいいかな?」
「おや? 太郎君も何か相談があるんかい?」
「あ、いや……ぼくは別に……えっと……気になるっていうか……」
あー、太郎君は、志津奈ちゃんのことが気になるんじゃな。そうかそうか……。
「なあ、志津奈ちゃんよ、もし何か相談して考えることができたら、太郎君も居た方がええんじゃないか? いい案がもらえるかもしれないと思うけど、どうだい?」
「別に、構わないわ。あたしの悩みは、きっと太郎くんにも関係すると思うから」
「それじゃ、太郎君も……待ってるぞ」
「うん、分かった。じゃあ、また後でね。みょんちゃん!」
相談かあ。何じゃろな? 悩みにしては、志津奈ちゃん、元気だったなあ。
(つづく)




