75 健やかな未来を 4(たまご)
母さんは、やっぱり笑顔だった。
“とびっきりのバナナメロンプリンのサクランボ付き”をぺろっと平らげた。
それなのに、食べ終えた母さんは、とぼけた顔で、岡崎先生に失礼な質問をしていた。
「ところで、芯ちゃんの病院は、お客さんが少ないんじゃないの?」
「え?お客さん?……患者さんでしょ……?」
「ああ…まあ、患者さんね。
あんまり患者さんが少ないと、私が今度来た時、おいしいおやつをごちそうになれないんじゃないかと思ってね……?」
「アハハハハ……大丈夫ですよ。おやつぐらいは、いくらでもごちそうしますよ。
実は、あんまり忙しくならないように、他の病院を紹介しているんです」
「え?……忙しくって……暇にして……何かやっているの?」
「ええ、今、虹ヶ丘大学でお医者さんを目指している人に、医療のことを教えているんです。僕が東京で教わったみたいにね」
「へー、芯ちゃん、すごいねー」
「今度、大学へ来てみませんか?紹介したい学生もいるんですよ」
岡崎先生は、特に自慢している様子もなく、静かに自分の話をした。
大学へは、ぼくや和美、始も一緒にどうかと誘ってくれた。
ちょうど、来週の金曜日は、午後の予定もなかったので、みんなで大学の見学に行くことにした。
虹ヶ丘中学校の午後の授業は、すべて自分で決めていいのである。自分がやりたい学びを自分の課題で進めるのが、虹ヶ丘の学習なのだ。
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「大樹、何だよ、今日は保護者同伴かよー」
大学見学の話しをしたら、一緒に行きたいと言った笑太が、ニヤニヤしながら小声でささやいた。
「何言ってんだ、説明しただろう。
今日の見学は母さんが誘われたんだ。ぼく達は、ついでなの……」
笑太は知ってて言っているので、ぼくは軽く付き合っておいた。
すると、母さんが
「あら?笑ちゃん……今日は一人なの?
笑子ちゃんがいないと寂しいわね。じゃあ私が手をつないであげるからこっちいらっしゃい……」
と、いたずらっぽく声をかけた。
「……いえ、大丈夫です。妹がいない方が、怒られなくて済むので……」
なぜか急に笑太が緊張した感じになって、悪ふざけをやめてしまった。
中学生になると、よその母親と話をすると緊張するようになるのだろうか。
「みんな揃ったかな、ここがこれから僕のお話をする教室だ。
ここにいる10名の学生は、医者を目指して勉強しているんだ。今日は、君達にもわかる話を少しするから、一緒に聞いていってほしい」
そう言うと、岡崎医院の岡崎先生は、虹ヶ丘大学の教室で病気の話を始めた。
〔つづく〕
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