73 健やかな未来を 2(健康診断)
「いらっしゃい、みょんちゃん」
岡崎医院で出迎えてくれたのは、院長先生の岡崎芯也さんで、和美のお父さんだった。
昔は、“理屈っぽくて硬くて”と、母さんがよく言っているが、いつもにこやかに接してくれるやさしいおじさんに見える。
「もー、芯ちゃん、何とか検診の間隔をあけることができないのかなあ?あと、もうちょっと短い時間で終わるとうれしいなあーー」
「まあー、そんなこと言わないで、今日は終わったら、とびっきりの“オヤツ”を食べさせてあげるからね!」
「え!本当なの!じゃあ、がんばるね!!」
本当に、こんなわがまま母さんに、文句の一つも言わないで、笑顔で優しくしている岡崎先生が、“堅物”なんて、ぼくには信じられないと思った。
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「今日は、大樹君が付き添いなのね」
岡崎先生の後ろから、和美も笑顔で出迎えてくれた。
「和美ちゃん、待っている間、この間約束した始君の勉強をみてあげられるけど、待合室に来れるかな?」
「大丈夫だと思うわ?ねえ、私も行っていいかしら?」
「もちろん、いいよ」
「じゃあ、今、始に知らせてくるわ……」
日曜日だから、他の患者さんがいなくて病院は静かだ。
でも、岡崎医院は、普段の日でもそんなに患者さんは多くはない。どちらかと言えば、少ないような気がする。
「それじゃあ、みょんちゃん、検診をはじめるから診察室へどうぞ」
「ダイちゃんは、ここで終わるの待っててね」
「うん、和美ちゃん達と勉強でもしてるよ……」
「今、うちのが、おやつでも持ってくると思うから、しばらく待っててね」
とにかく、岡崎先生は、ぼくにも優しかった。
母さんと岡崎先生が診察室へ入って行ったと同時に、和美と弟の始が待合室にやって来た。
「ところで、大樹君って誕生日はいつ?」
「ん?……もうすぐだけど……9月28日だよ」
「そっか、やっぱりそうなんだ……」
「え?何が?」
「うちのお父さんが、今日言ってたの。
“あれから13年かあ”って…。
たぶん、大樹君って、うちの病院で生まれたんでしょ。
そして、その時に、お父さんが、とっても頑張ったのよ、きっと」
「お姉ちゃん?…………何をがんばったの?」
「んー、わからないわ……。
だから、私もお医者さんになるの!お医者さんになれば、きっと何をすればいいかわかると思うの。だから大樹君、勉強教えてね!」
「そうか、和美ちゃんも今年小学校を卒業するんだね」
「姉ちゃん、ぼくも……がんばるから、ダイキセンパイよろしくお願いします」
そこへ、和美達のお母さんが、おやつとジュースを持って待合室に入って来た。
「あら?もう始めてるの、えらいわね。これでも食べながら楽しくやったらいいわよ。これは、みょんちゃんに出す“とびっきりのオヤツ”じゃないから遠慮しないで、食べてね」
和美のお母さんも、優しくしてくれる。
おやつを置きながら、ニコッと笑って頭をなでてくれた。
「……いつも……ありがとうございます……」
何だか照れてしまい、お礼が言えたかどうか心配になった。
「あら、中学生の男の子にしては、丁寧に何言ってるの。こっちこそ、あなたのお母さんには、とってもお世話になっているのよ」
益々、恥ずかしくなる。
「え?だって、うちの母さんなんて、いつも自分のやりたい事ばかり言って、それに毎月、こんなに丁寧に健康診断してもらっているのに……」
「それはね、みんなが、あの時のことを忘れられないからなのよ……」
「あの時のこと?」
「そう、大樹君が生まれた時、どれだけの人が、あなたとお母さんを助けようと頑張っていたのよ。
それはね、その時にみんなが頑張っただけじゃないのよ。
みんなが頑張れたのは、それまでにあなたのお母さんがどれだけみんなのために、頑張ってきたかということを誰もが理解しているのよね……」
「へーそうなんですか」
「それにね、この病院も、この設備も、みんなお母さん達が用意してくれたみたいなものなのよ……」
この虹ヶ丘の町に学校を最初に作ったのは、母さんだという話は知っていたが、病院も作ったというのは初めて聞いた。
まあ、母さんだけではできないと思うが、普段は何もしていないように見えるが、本当に驚くことが多い。
「でもね、あんまりそんなことを言うと、みょんちゃんは返って気にしてしまうから、知らないふりしてるのよね。
あなた達も、お願いね。
じゃあ、私も検診を手伝ってくるから、ここでゆっくり待っててね……」
和美達のお母さんも、やっぱりお医者さんで、普段はこの病院で働いている。母さんの健康診断は、いつも二人で診てくれる。
悪いところがあるわけじゃないが、やっぱり心配なんだと思う。
〔つづく〕
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