72 健やかな未来を 1(毎月の行事?)
「ダイちゃん……」
「…………………」
「ダイちゃん……」
「…………………」
「ダイちゃんってばー……」
「……あー、もうーそろそろ、誕生日も近いんだからさー、……その“ダイちゃん”ってのは、やめて欲しいんだけどなあ~」
「ええ?何がいけないの?……ダイちゃんは、ダイちゃんで、いいじゃないの?」
「だって、ぼくは、中学生なんだよー」
「また、始まった。中学生だって、ダイちゃんは、おんなじなのよー」
飛行場が完成して、早いもので1年が過ぎた。ぼくは中学生になったんだけど、母さんの前では、相変わらずだった。
「ダイちゃん、今度の日曜日はお願いね。けんちゃんがお仕事で一緒に行けないよねー」
ちょっとつまらなそうな声を出して、母さんがいつものお願いをしてきた。
母さんは、月1回、和美の家に行くのだが、その日だけはあまり機嫌がよくない。
別に、怒ったりするわけではないが、どことなく気持ちが暗くなっているような気がする。
話しかけても、生返事だったり、いつもはあんなにニコニコしているに、この日だけはニコリともししなかったりと、何となくこっちの調子も狂うのだ。
おまけに、決して一人では行きたがらないのだ。父さんがいれば、必ず父さんと行くし、いなければぼくについて来てと言う。
この日に、母さんと二人だけで和美の家に行くようになったのは、ぼくが小学生になった頃からだったと思う。
それまでは、父さんとぼくと母さんで、必ず三人で行っていた。
ぼくには、あんまり覚えがないんだけど、普段は和美と一緒に遊んでいる家と同じはずなのに、この日だけは違う部屋で待たされるんだ。
ちょっと、何だかドキドキしたことを覚えてるだけで、後は忘れてしまった。
「母さん、行くのはいいけど、待ってる間、和美ちゃんの弟の始君の勉強をみてあげる約束になってるんだけど、いいよね」
「あ!また、母さんって、言ってる。“みょんちゃん”でしょ!」
「ああ、はいはい。みょんちゃん……」
「もちろんいいけど、私の検査が終わるまで、待合室で待っててね。勉強はそれまで、待合室でみててあげて欲しいなあ。
午後は、自由にしていいからさ、お願いよ!」
和美の家は岡崎医院で、月1回母さんは、健康診断に通っている。
ぼくは、この岡崎医院で生まれたそうなんだけど、母さんは心臓に持病があってとっても大変だったって聞いた。
でも、和美のお父さんが、すごい手術をして母さんとぼくを助けてくれたらしい。
その後、母さんの健康を守るために、毎月、ここに来て健康診断を受けているんだ。
もちろん、母さんは健康診断がいやなんじゃないんだ。ただ、健康診断が半日もかかって、とっても退屈だからつまらないと言っていた。
〔つづく〕
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