69 恋の案内人 3(やっぱりね!)
一週間後、母さんは大学の講座に行く日になった。なぜだかとても楽しみにしていたことが、ぼくでもわかった。
「みょんちゃん、ぼくも行かなきゃだめなの?」
「何言ってるの!あなたの図書館先生でしょ?あなたが、助けないで、誰が助けるのよ!」
「助ける?図書館先生、何か困ってるの?」
「んー?困っているというか、迷っているというか。
……別れ道なのね……。
迷子にならないように、ダイちゃんが道案内してあげたらどうかな?」
「……………」
ぼくには、さっぱりわからなかった。今日も町民講座に出かけるんだけど、図書館先生とは、大学で待ち合わせをした。
「あ!あーちゃん、待った?」
「いいえ、私も、今着いたところです」
「じゃあ、行きましょうか」
「行くって、どこへ?」
「決まっているじゃない、あーちゃんの講座よ。今日は、みんなで、あーちゃんの講座に出るのよ」
「私は、別に何の講師もやってませんよ」
図書館先生は、困ったような表情を浮かべた。
「あー、言い方が違ったかなあー、あーちゃんが通っている講座よ!
あーちゃんのお目当ての講座とでも言った方がいいかな?」
「……………みょんちゃんは、もう知っているんですね」
意味ありげに、図書館先生は小声でつぶやいた。
「うん、まあね。
……この間、北野先生から、名簿を見せてもらったのよ、ごめんなさいね。
でもね、安心して。
……だから、大丈夫だから。
それで、今日は着いて来たのよ、任せてよ」
「……はい、お願いします…」
図書館先生は、少し元気を振り絞るように返事をした。
ぼくには、何のことだかさっぱり分からなかった。
「みょんちゃん、名簿って何?……どこへ行くの?」
「今日の講座はね、“図書館の歴史……”だったかしら?」
「“図書館における世界の歴史と本の有用性”っていうとっても面白いお話ですよ!」
「本当かしら?……そのお話を聞いている人は、何人いるの?」
「……えっと、……1人なんです」
「1人?……ということは、あーちゃんしか聞いてないの?」
「まあ、そうなりますね……」
「その講座にどのくらい通ってるの?」
「もう、半年ぐらいですが」
「はじめは、何人ぐらいいたの?」
「はじめから、1人でした……」
「あははははははは……」
母さんは、大声で笑い出してしまった。
「やっぱりね
……この間、北野先生に聞いたのよ。
どうして、1人しか受講生がいないのに、講座を続けるの?って。
北野先生も不思議がって、担当に聞いてみたそうよ。
そしたら、その担当者は、まじめな顔で『私が続けたいからです!』ときっぱり言ったって言うじゃない。それで、ピン!ときたの。
これはやっぱりねって」
図書館先生は、少し顔が赤くなってきた。そのまま下を向いたまま黙ってしまった。
ますますぼくには意味が分からなかった。
「あれ?ダイちゃんには、まだ無理かな。
この楽しい状況が理解できるようになるには、あと10年はかかるかな?
とにかく、みんなで講座に行きますよ」
母さんは、一人だけとても嬉しそうだった。
〔つづく〕
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