67 恋の案内人 1(図書館先生)
虹ヶ丘の町が、飛行場をつくろうと大きな決断を下そうとしていたちょうどの時期、ぼく達の図書館先生も人生の岐路に立とうとしていた。
でも、最初ぼく達は、そんなことにはまったく気が付かず、ただいつものまじめで一生懸命な図書館先生だと思っていたのだった。
ぼく達は、図書館の館長である本田彩子さん(母さんは、あーちゃんと呼んでいるが……)を図書館先生と呼んでいる。
ぼく達というのは、ぼくの友達の上杉光や中村笑太、岡崎和美はもちろんだが、虹ヶ丘小学校のみんなのことである。
わからないことがあって、図書館に調べに行くと、必ず彩子さんが、手伝ってくれるし、親切に教えてくれる。
どんなに難しいことが本に書いてあっても、わかりやすく説明をしてくれるので、本を読んで調べるのが楽しくなるのである。
だから、みんなが、図書館先生って呼んでいるんだ。
今回もぼくが、冬休みの課題に“飛行場づくり”を提案したものだから、たぶんみんなが図書館にはお世話になっていると思う。
やっぱり、その度に図書館先生は、手伝ってくれているんじゃないかなあ。
もちろんぼくも、図書館先生に聞きにいったよ。
そしたら、図書館の本以外にも、参考になるものがあることを教わったんだ。それが、“虹ヶ丘大学の町民講座”だった。
これは、月1回の間隔で、大学の先生が、いろいろな講座を開設しているというもので、虹ヶ丘町民なら、誰でも無料で勉強できるんだ。
実は、図書館先生も毎月通っていて、大変勉強になると言っていた。
飛行場づくりを考えることになったぼく達にも、参考になる講座があるかもしれないということで、教えてくれたのだった。
早速、冬休みに入って、特別集中講座があったので、図書館先生と一緒に行くことにした。
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「みょんちゃんも、一緒にいくでしょ」
「もちろんよ!時々、私も講座をやってるのよ!」
「え?そうだったの?」
「知らなかったの?だって、虹ヶ丘大学だって、私の学校よ!」
「でもね、みょんちゃん、ほとんど学校へは、行ってないよね……」
「そりゃあ、もう全部、北野先生に任せちゃったからね。私は、時々頼まれた時だけね、ちょっと遊んでくるのよ!」
「もう、そんないい加減なことを……」
「いいじゃないの……、楽しいんだから。
ところで、何の講座にするのか決めたの?ダイちゃんは」
「それが、何にしたらいいか迷っているんだ」
「じゃあ、おいしいものを作れる、料理の講座にしなさいよ。飛行場の中に、おいしい食堂を作りましょうよ!ね!ね!」
「もう、みょんちゃんが食べたいだけじゃないの?」
そんな話をしているうちに、図書館先生が迎えに来た。
「あら、いらっしゃい、あーちゃん!」
「みょんちゃん、こんにちは。大学まで一緒に行きましょう」
3人は、雪道を歩きながら、選んだ講座について話し始めた。
「みょんちゃんは、食いしん坊だから、食べ物屋さんの講座ばかり進めるんですよ」
「うーん、でも、料理の腕はいい先生ばかりだから、いつも食べ物講座からは、おいしそうなにおいがしてるわ」
「ほら!そうでしょ。
だって、先生は、私がみつけてきたんだから、確かよ。
食堂を出したら、きっとお客さんがいっぱい来るんだからね!」
「じゃあ、飛行場に食堂を出すのには、いいかもしれないね」
ちょっと冗談っぽく言ったつもりだったのに、母さんは、本気の顔になってしまった。
「大学へ行ったら、相談してみようかしら、あの先生、チョコレートバナナサンデー作れるかしら?」
「ところで、図書館先生は、何講座を受けるんですか?」
「私?私はね……まあ、行ってから……決めようかしら……」
なぜか、図書館先生は、ちょっと道路脇の雪山に目を移した。
前、図書館で話を聞いた時は、もう何回も町民講座に通っていると言っていたので、てっきり決まった講座でもあるのかと思ったが、毎回違う講座にしているのだろうか?
大学のロビーで、目的の講座を見つけたぼくと母さんは、図書館先生と別行動をとることにして別れた。
別れてすぐ、図書館先生は、上の階を目指して階段を上って行った。今日の講座を探すでもなく、速足で迷うことなく進んで行った。
何となく母さんは、黙って図書館先生を見送っていたが、
「さあ!私達も行くわよ…」
と、おいしい講座へ急いだ。
〔つづく〕
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