65 夢の計画 3(未来の選択)
「ごめんください。上杉君、いますか?」
「はーい、今日は、お休みなんですけど……なーんだ、みょんちゃんか。おや、みんなも、日曜の朝から、どうしたんだい?」
「おじゃまして、いいかしら?」
「あら!みょんちゃん、どうぞ、どうぞ」
「センちゃん、朝からごめんなさい。今ね、商店街にみんなで行ってきたのよ、はい、これ、お土産よ」
「わー、ありがとう、何かしらー」
「めずらしい、味付き味噌を塗った焼きおにぎりが売ってたから買ってきたの。みんなの分もあるから、一緒に食べない?」
「わー、何かおいしそうなにおいがするー、今、暖かいお茶も入れるわね」
光のお母さんとぼくの母さんも、仲良しなんだ。
この様子だと、いつも一緒に買い物をしているようだ。
この焼きおにぎりだって、いつの間に買ったのか、ぼくは知らなかった。そろそろ“おやつの時間”だけど、おやつにおにぎりなんてと思いつつ、食べてみると、ことのほかおいしかった。
「どう?この味噌が、格別なのよね」
母さんは、もう何度も食べたことがあるような口ぶりだった。
「ところで、うちにも何か買い物に来たのかな?」
光のお父さんは、おにぎりを頬張りながら、冗談めかして言った。
「上杉君、私ね、遠くのものを買い物したいのよねー。何か、遠くへ買い物に行ける“おつかいカゴ”を作ってくれないかしら?」
母さんは、唐突にそんなことを言い出したものだから、光のお父さんは、呆気に取られて黙ってしまった。
慌てて、うちの父さんや笑太のお父さん、それに黒岩町長さん達が、今までの経緯をかわるがわる話して聞かせた。
しばらく黙って聞いていた光のお父さんは、ニッコリしたかと思うとすぐに息子の光を傍に呼んだ。
「なーんだ、そんなことかい。みょんちゃんは、何が欲しいんだい?」
「私ね、……前にね、東京のお土産でもらった、
……チョコレートバナナサンディーというのが食べたいな……」
「そっか、東京か……あの時は、なかなか遠かったもんな……。
簡単に行ったり来たりできる“おつかいカゴ”があればいいんだろう?」
「そう、それが、あれば、虹ヶ丘で作ったものも、“おつかいカゴ”に入れて遠くへ運んでいけると思うのよね」
「本当に、みょんちゃんて、うまいこと考えるよね。……なあ、光。お前の出番だぞ」
「うん、ぼく、頑張るよ」
「ねえ、光の出番って、なに?」
ぼくは、友達の光が張り切っているのを見て、びっくりした。
「なあに、この間、光が、おもしろいことを言ったんだ。虹ヶ丘に“飛行場”を作りたいって」
「飛行場!!」
確かに、今、東京や大きな町には、飛行場を作る動きがある。外国にだって、たくさんの飛行場はある。
だったら、飛行場を作って、飛行機が来くれば、“おつかいカゴ”になるのではないだろうか?
でも、飛行機で、虹ヶ丘にたくさんの人が来るとは思えない。人が虹ヶ丘に来ても、何もすることがない。珍しい場所も、ものもないのだから。
「光はね、飛行場だけでなく、飛行機も作ろうって、言うんだ。それも、物を運ぶ飛行機を」
「でも、おじさん、飛行機で物を運ぶのって、汽車で運ぶより早いけど、お金がかかりそうに思うんだけど」
ぼくは、飛行機を飛ばすのには、とても強力なエンジンが必要だと思った。
しかも、荷物をたくさん積むとなると、エンジンも大きなものになるので、燃料もたくさん使うのではないかと考えた。
すると、今度は、光が自分で話はじめた。
「だから、ぼくは、考えたんだ。
飛行機の離陸の時だけ、燃料を使ったエンジンを使い、上空へ行ったら、後は太陽の光を電気に変えたエネルギーをプロペラの回転に変える動力にする2段階飛行形態のエンジンにする方法を。
父さんが、発明した太陽電池は、地上でも有効な働きをするけど、上空へ行けば行くほど、力は増すと思うんだ。
そうすると、汽車よりも早く遠くへ行ったり来たりできると思うんだ。特に外国なんかへは、行きやすいと思うんだ」
「でも、そんなに簡単に作れるのかい?」
「ああ、もうこの冬休みに、試作段階に入るつもりなんだ。後は、この虹ヶ丘に飛行場を作るだけなんだけど……」
「……わかった、それなら、この私が、議会で話を進めよう……。
それに、他の飛行場との行き来の約束なども考えないとな。
加えて、飛行機の操縦士資格を取る人も集めなければならないしね……」
なんだか、急に話が進んだみたいになったけど、とにかくこの冬休み中に、上杉家は新しい飛行機を開発することになり、黒岩町長は虹ヶ丘に飛行場を作り、飛行機を運行する段取りを整えることになった。
「なあ、大樹、手伝ってくれよ!」
光が、傍に寄って来て、急に頭を下げた。
「飛行機のことを考えるだけなら、おれと父さんでなんとかなると思うんだ。
でも、それを使う人のことを考えるとか、それを飛ばす飛行場のことを考えるとなると、やっぱり大樹の力が必要なんだよ」
「なんで、ぼくの力なんだよ」
「お前は、いっつも、みんなを見ていて、困った人がいたら、すぐに助けに行くだろう。
それだけ、全体のことを考えることができるし、そんなお前だから、お前の考えたことには、みんなも納得するんだよ」
「そっかなー。でも、いいよ。協力するよ。じゃあさ、ぼくだけじゃなくて、いつものみんなにも声をかけようよ。仲間は、多い方が絶対にいいよ、なあ…」
「うん、わかった」
すぐに、ぼくと光で、笑太や和美の家に行き、事情を話した。みんなは、快く賛成してくれた。
すると和美が、最後にこんなことをつぶやいた。
「…………これ、虹ヶ丘の町の未来が変わるわよね……私達だけで、考えていいのかな?……」
未来か…………。
ぼくは、虹ヶ丘に飛行場ができたら、どんな未来になるのか、ちょっと楽しくなってきた。
この楽しさは、きっと虹ヶ丘に住んでいる“子どもの未来”に関わるんだ。自分の未来を楽しめるのは、大切な権利なのではないだろうか。
だとしたら、子どもだったら、みんなが、この未来を決めることに参加することができてもいいのではないかと思った。
「そうだね、和美ちゃんの言う通りだ。みんなにも、虹ヶ丘に住んでいる子ども達みんなにも、参加を呼びかけてみようか?」
「そうだな、そして、たくさん、意見をもらったら、虹ヶ丘に合った飛行場にきっとなるんだ」
「そうしよう!」
そこで、まず、虹ヶ丘小学校の2学期終業式に、大樹がこの虹ヶ丘の町に飛行場を作る計画を話すことにした。
なぜ、飛行場が必要か、どんな飛行機を飛ばしたいか、どんな町の未来を想像しているか、そして、みんなにはどんな飛行場の未来を考えてほしいかを話した。
虹ヶ丘小学校の放送設備を使って、学園中にこのお話を流してもらった。
虹ヶ丘中学校、虹ヶ丘高校、虹ヶ丘大学すべてである。
また、和美の友達のお父さんで、ラジオ局で仕事をしている人がいるということなので、頼み込んで、大樹のお話をラジオで流してもらうことにした。
また、同時にラジオニュースにも取りあげてもらうことになり、虹ヶ丘中にお知らせすることができた。
期限は、冬休みが終わるまで。
何といっても、虹ヶ丘の学校は、長期休業中の宿題が無いのが普通だ。
昔から、いや、母さんが学校を作った時から、宿題を出さないのが第1条件だったそうだ。
とにかく、勉強は、自分のやりたいことをやる。人に強制されない。これが、とっても大切な考え方なのだ。
だから、虹ヶ丘では、自分が何をするかは、自分で決める。
この空港づくりに参加するかしないかだって、自分で決めることができるのだ。
他にやりたいことがあれば、迷わずそれをやればいい。いつか必ずそれが役に立つ時が来る。
だから、空港づくりだって、何が大切かは、選択してもらうために、しっかり、丁寧に、わかりやすく説明したつもりだ。
ぼくだってわからないことはたくさんある。
そのことは、正直に言って、一緒に調べてもらったり、考えてもらったりすればいい。
とにかく、正直にすべて話した。
後は、冬休み明けに、どんな考えや内容が集まるかだ。
「他の人の考えも参考にするとして、ぼく達も頑張ろう。光は、お父さんと飛行機作りを頑張るんだろう?」
「ああ、でも、大体はもう出来上がっているんだ……あとは、荷物を載せる“カゴ”の部分だけなんだ」
「そっか、じゃあ、ぼくと笑太と笑子ちゃんと和美ちゃんは、飛行場の計画を考えようか?」
「私ちょっと思いついたことがあって、飛行場の傍に作りたいものがあるの、その絵を描きたいのいいかしら?」
「じゃあ、和美ちゃんは、それを頑張ってみて……。後は、みんなで飛行場を考えようか……」
それから毎日冬休みは、ぼくの家に集まって冬休みの自由研究と言って、虹ヶ丘飛行場の計画を話し合っていた。
時々、母さんが覗きには来ていた。
母さんは、早く“おつかいカゴ”が出来上がり、チョコレートバナナサンデーが食べられればいいかなあぐらいの気持ちだったと思う。
でも、それがきっかけで、とてつもない動きになっているんだ。
まあ、虹ヶ丘の平和な毎日を考えると、大きな動きだ。未来を選択する動きだと思う。
当の母さんは、ただ顔を見るたびに、『頑張ってるわね!』と声をかけているだけなのだが、みんなにとっては十分に力になっていたと思う。
〔つづく〕
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