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みょんちゃんが奏でる虹色のメロディー ~皆で紡ぐ、楽しい学校と素敵な町並み~  作者: 根 九里尾
第6章 ”みょんちゃん”の日常(未来の子ども達へ)【過去】
63/91

62 町の未来 3(秘密の作戦?)

 9月某日、虹ヶ丘町長選挙を明日に控え、今日は最後の公開討論会だ。

 ここ、虹ヶ丘小学校講堂には、たくさんの町民が集まった。また、全町に配信されているラジオ放送局も中継にやって来ていた。

 今、町民の娯楽を唯一担っているのが、ラジオ放送だ。

 全国放送や一部虹ヶ丘町内だけの放送など数局の選択ができるようになっている。公開討論会の司会は、ラジオ放送の担当者がやっていた。



「本日は、皆様、お忙しい中、お集りいただきまして、誠にありがとうございます。

 本日は、虹ヶ丘町長の立候補者、黒岩素直(くろいわすなお)様と桜山建造(さくらやまけんぞう)様による、公開討論会を行いたいと思います。それでは、早速、桜山様からお願いいたします」



 それぞれ、自己紹介やら、お互いの経歴などを話し、今回の立候補に至る説明にも触れた。

 そして、父さんは、虹ヶ丘の未来について次のように話した。



「…………私は、この虹ヶ丘の100年先の未来について考えてみたいのです。

 開拓に入った当時は、先が見えませんでした。

 それでも、当時の村長や仲間のお陰で、学校を作ったり、建築の勉強をしたりできました。

 たぶん当時、開拓に入った人達は、毎日の生活が苦しくても、先の事を考えていたに違いないのです。


 虹ヶ丘の基本は何か。

 何の資源も資本もない虹ヶ丘でしたが、虹ヶ丘には豊かな自然と前向きな人材がたくさんいたのです。絶対にそれを大切にすることを忘れなかったのです。


 私は、最近思うのです。

 家が増え、人が増え、自動車が増え、機械が増えてきています。

 でも、畑が減り、働くところが減り、危険が増えて、この先100年後の虹ヶ丘はどうなっているのだろうと考えます。


 私だけが心配しているのでしょうか?

 ぜひ、みなさんにも、考えてほしいのです。ただの心配ではなく、考えてほしいのです。」



 ここで、司会の人が質問をした。


「では、桜山さん、あなたが町長になったら、どんなことをしたいのですか?」

「わかりません」


「わからない?それでは、町長にはなれないのではないでしょうか?」


「そうかもしれません。町長になって、何ができるかは、わかりません。

 でも、私はこの虹ヶ丘のために、山を守っています。

 ご存じの通り、私の仕事は、家を設計したり建てたりする仕事です。

 私は、家を建てるために、木材を使うことを大切にしています。できるだけ、釘なども使わず、木や竹で木材を繋ぎ合わせています。木材が鉄で錆びるのを防ぐためです。

 また、一度使った木材も、錆びて腐っていなければ、再利用できるからです。


 それから、山の管理も行っています。

 山にはたくさんの木が生えていますが、大きくなったら、間を空けるために、間引きをしなければ、育ちません。間伐です。

 また、木を切った後には、植樹と言って、新しい苗木を植えなければ、木が育ちません。早く育てることだけを目的にすれば、一種類の木しか生えない山になってしまいます。

 その土地には、その土地に合ったふさわしい木があるものです。

 また、下草を刈ったり、木の枝を払ったり、細い木を切ったり、いろいろ手間をかけると、立派な建築材料になるいい木が育つのです。


 うちの会社は、そんな山も大切にしています。


 私が、できることは、これっぽっちのことですが、100年後の虹ヶ丘には、絶対に必要なことだと思っています」



 父さんは、自信を持って答えていた。

 

 続けて、司会者は、黒岩さんにも質問していた。



「私は、桜山さんの話を聞いて、はじめて100年後の虹ヶ丘のことを考えました。

 私の仕事は、土木工事の会社です。

 これから、自動車も多くなるので、自動車が走りやすい道路をたくさん作らないといけないと考えていました。

 でも、内地のように道路をコンクリートや油のような化学製品で固めてしまっては、せっかくの虹ヶ丘の自然がダメになってしまうと思いました。

 それに、これから100年ももつだろうか?そんな疑問がありました。


 桜山さんは、『木材の家は何度でも再利用できる』と言っていました。これからは、再利用できるものではなくてはダメなのではないでしょうか。

 特に、資源のない虹ヶ丘は、そのことをよく考えるべきだと思ったのです。


 桜山さんは、山の仕事の中で、細い枝や枯れた枝がたくさんあって困ったと言っていました。

 私は、これらを活用する方法を考えました。この山をきれいにして出てきた今まであまり薪にしか利用しなかったものを、細かく砕き、道路に敷いて固めるのです。

 これは、自然のものですから、年月が経つと又自然に戻ります。土になるでしょう。

 しかし、これは、道路のデコボコが無くなりますし、自動車も走りやすくなります。

 ただし、コンクリートとは違うので、あんまりスピードは出せません。だから事故も起きにくいでしょう。

 基は木材ですから、雨が降っても、浸透するので、水が道路にたまったりはしません。

 私が町長になったら、桜山さんの会社にお願いして、協力してもらいながら、道路工事を木材チップで作り直します。

 それから、虹ヶ丘の基幹産業を第1次産業と認定し、農業をその基本にすることで町の発展を考える計画を立てるお約束をします。」



 なぜか、父さんは、これを聞いても驚きもせず、とても嬉しそうにニコニコしていた。

驚いていたのは、司会者で、びっくりしたような声をだして、黒岩さんに、確認していた。


「じゃあ、黒岩さんは、さっきの桜山さんの考え方には、賛成なんですか?」


「そうですね、賛成というか、……虹ヶ丘のことを真剣に考えたということですかね……」


「まあ、確かに、真剣ですね……。

でも、黒岩さんの方が、具体的に何をするか、言っていたので、わかりやすいところがありましたが……」


「たぶん、虹ヶ丘に住んでいる、みなさんが、これから、自分でいろいろ考えていけば、もっともっといい知恵がたくさん出ると思うんです。

 私は、そんな町にしたいんです」



「いいですね、とってもいいですよ……。それは……いいと思いますが……」


 その時、ラジオを聞いていたぼくは、聞き覚えのある声に(やっぱり、この辺で登場かな?)と思った。



「あのー、たぶん町長選挙の立候補者のお話は、だいたい分かったかなと思うので………。

 私もちょっと真剣に考えて、いい知恵が出たんですよ。

 せっかくたくさんの皆さんが集まっているので、聞いてもらいたいなあと思って出てきちゃったんですけど、いいですか?」



 司会者の人は、昨日の盆踊りのラジオ中継もやっていて、最後の母さんのギター演奏には妙に感心していた人だった。

 だから母さんの顔を見たとたん、これが選挙の討論会だということなどすっかり忘れてしまって、嬉しそうに満面の笑顔になっていた。



「やあ、あなたは昨日の盆踊りのギターの人ですね。いいですよ、いいですよ。どんないい知恵が出たんですか?」


 母さんは、いつものオーバーオールズボンを履き、チェック柄のシャツを腕まくりにしていた。

 どこへ行くにもこの姿で、寒くなれば、セーターを羽織るくらいだ。

 今日は、まだ、暖かいので、大きな麦わら帽子を首の後ろに付けている。それに、今回は、使い込んだギターを抱えている。


 ゆっくりとギターを弾き始めた。


 昨日の盆踊りの最後に弾いた曲だ。

 毎年、演奏している盆踊りの終了を告げる音楽だ。


 ただ、今回は、はじめて歌詞がついていた。

 母さんの歌声が響く。

 音楽に合わせて、優しい言葉、懐かしい言葉、そう誰もが虹ヶ丘で思い描く、畑や森や山の風景、そして大切にしてきた人と人の出会いなど。


 開拓期にいた人でなくても、その当時を懐かしむことができ、それを後世まで伝いたいという気持ちにさせる歌だ。


 その場にいる人も、ラジオで聞いていた人も、これが100年後の虹ヶ丘の町だと、思い描いたはずだ。

 歌い終わってから、母さんは、静かに……


「この曲は、開拓に入った時からずうっとギターで弾いてきたの……

 みんな……どこかで聞いたことあるわよね…………。

 虹ヶ丘町になって、20年近く経ちます。町の歌があってもいいと思うの。

 虹ヶ丘町の歌、そう町歌よ!

 開拓の時の音楽に、100年後の姿をのせてみたの。どうかしら?」


 そうか、だから、複雑な景色だったんだ。

 でも、大切な想いだけは、この歌の中に流れているような気がした。

 それは、この歌を聴いていた人達の顔をみれば分かった。


「今、決めなくてもいいわ。

 たぶん、ここにいるどちらかの人が新しい町長になると思うの。

 できれば、みんが100年後の虹ヶ丘を想える町歌を作ってくださいな。別に、私が歌ったこの歌でなくても構わないわ、お願いします…………」



 それだけ言うと、母さんは、そそくさと帰っていった。







・・・・・・・・・・・・・・・・


 投票結果は、もちろん黒岩さんの当選で決まった。


「いやあー、本当に当選しなくてよかったよ」


「あれ?けんちゃん、本当は町長やりたかったんじゃないの?」


「何言ってんだ、ダイちゃん、町長なんかになったら、日曜日だって仕事だから、一緒に遊ぶ時間やうちでご飯食べる時間が無くなっちゃうんだぞ」


「え?それは、困るよー」


「そーよねー、そんなことになったら、私が、好きな事できなくなっちゃうもんねー」


「え?みよちゃん、町長選挙に出たらって、言ったの君だよね?」


「だって、あの歌に歌詞付けたの、発表したかったんだもン…………」


「え?そのために……?」


「そ!町長選挙に出れば、討論会を開くでしょ、そしたら、ラジオ中継があるでしょ!ラジオ中継って、すごいでしょ!虹ヶ丘中に、聞こえるのよーーー」


「もー、みょんちゃんったらー、そのうち、レコードデビューでもしそうだね!」


「やーねーダイちゃんったらー、デビューは、100年後よ!」



〔つづく〕


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― 新着の感想 ―
この討論会は凄く良いですね〜! 黒岩さんも、とても良く考えてプランを出してきたことが伝わってきますよ。 (*´ω`*) 現実の選挙ならラジオ司会者の仕事を忘れた行動は問題しされそうですけど、ここは不…
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