59 親子喧嘩 4(子の心、親知る!)
母さんは、小学校でぼく達に調理室の利用を勧めた後、すぐに八百屋中村に向かったのだった。
「あら、みょんちゃん、いらっしゃい。今日は、夕方じゃないなんて、めずらしいわね。夕飯の買い物にしては、早いし?」
「ええ、今日は、笑美ちゃんと“オヤツ”しにきたのよ」
「“オヤツ”?……まあ、そろそろオヤツの時間だけど………。今日は、お客さんも少ないから」
「あんたあー、お店、任せていいかしらー?」
「あー、いいよ、みょんちゃんと、“オヤツ”でも、なんでもしておいで」
「さあ、上がって、お茶でも入れるから……」
「あ!いいの、いいの。何もしなくていいから。私、持って来たから、これ!」
みょんちゃんは、バックから新聞紙に包んで丸めたものを取り出して見せた。ダイコンの切れ端とジャガイモの欠片3個、カボチャの切れ端が5個だった。
これを目の前に出して
「おいしそうでしょ!どうぞ!」
と、笑顔で勧めた。
“みょんちゃん”は、普段から不思議なことをよくするので、このくらいの事ではそんなに驚かれないが、さすがに笑太の母親は、何かピンときて尋ねた。
「ひょっとして、これ、うちの野菜の余ったものなの?」
「うん、そう」
と、また、ニコッと微笑んだ。
すると、笑太の母親は、何か思い出しでもするように、その野菜の切れ端をつまみながら
「ということは、この間の笑太のことね」
と、軽くため息をついた。
「さすが、笑美ちゃんね。わかってたのね」
「うん、あれからね、笑太が面白いこと言ってくれないのよ。ふざけてくれないのよ」
笑太の母親は、少し笑顔になってきた。
「なーんだ、笑太ちゃんのおふざけ、好きなんじゃないの」
「大好きに決まってるでしょ。だから、2人とも“笑”の字を付けたんだから」
もう、いつもの“笑太母ちゃん”だった。
「そうよね。それに、一太君だって、楽しいしね」
「もちろんよ」
「じゃあ、どうして言ってあげないのよ」
ここで、みょんちゃんが少しすねて質問したが、その答えはたぶんわかっているはずだ。
「何となくね。……この間は、忙しくてね。……つい」
「ふーん、まあ、そんな時もあるわよね。あのね…………今度は、しっかり最後まで聞いてあげてね。それで十分だからね……」
「うん、わかった。ありがとう、みょんちゃん」
「……これ、食べる?」
「いや、やめとく」
「そう、残念……」
本当に、みょんちゃんは余計な冗談を最後までやるのが大好きだ。
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「ただいま、父ちゃん、母ちゃん、遅くなって、ごめん」
「こんなに暗くなるまで、どこ行ってたんだい?二人で」
「学校で、実習してた」
「実習?」
「実習って、何さ?」
「あのさ、前に店番したろ、あの時、野菜が余ってたんだ。
もったいないなって思って、何とか余った野菜をおいしく食べる方法はないか考えたんだ。
そしたら、いろいろ思いついて、今日、学校の調理室を借りて作ってみたんだ。
食べてみてくれるかな?」
「本当に作ったのかい?」
「うん」
「じゃあ、早く、食べさせておくれ」
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次の日、学校で聞いた話を家に帰ってから母さんに話した。
「笑太は、大喜びだったよ。
学校の調理室で作った余り野菜のオヤツをお父さんとお母さんに食べてもらったら、二人とも泣き出したらしいよ。
はじめは、おいしくなくて泣いたのかと焦ったそうだけど、どうも感動してたらしくて、本当に良かったって喜んでたよ」
「よかったね。私の“オヤツ”も食べとけば、もっと味がいいことが分かったのに、残念」
「え?みょんちゃん、何のこと」
「何でもないの、こっちのことよ」
「ところで、そのオヤツは、うちにはないの?昨日、何も出てこなかったけど」
「えーとね、あんまりおいしかったんで、途中で、全部食べちゃったんだよね」
「えーーーーー!どうして、残しておかなかったのよーーーー」
「だって、みょんちゃん、いっつも、言ってるでしょ、思った通りにやりなさいって!えへっ」
「えーーー?……それは、違うよ~~~!」
〔つづく〕
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