06 微笑みの仲間 1(緊張の新学期)
岡崎志津奈は、虹ヶ丘小学校の5年生である。もちろん、彼女が夜中に上杉三成実の作ったテレビリモコン型の通信機で交流したクラスメイトも同じ虹ヶ丘小学校の5年生である。
そして、その岡崎志津奈達の担任は、やる気だけは誰にも負けない駆け出し3年目の新米教師、北野大地であった。
さて、もう一度、4月のはじめに遡り、どのようにこの学級が、あのウィルス蔓延による休校措置を克服したか見ていくことにする。
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4月の職員室は、まだ落ち着かない。
受け持ちの学年や担当が変わって、教師の席も入れ替わる。
自分の席から見えていた景色が違ってくる。
座る場所が違うと、こんなにも世界が変わるものなんだ。
北野先生にとっては、始めての席替えだ。つまり、初めてのクラス替えなのだ。
目の前は、中堅の男の先生で、2組担当だ。
理科が専門で、なんだか見た目がカマキリのようで、怖そうだ。
「あのー、北野です。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
目も合わさず、読んでいる本に夢中になっていた。
斜め向かいは、特別支援マリーゴールド学級担当の花村先生だ。
「あら、北野先生、今度は一緒ね。よろしくお願いね」
北野先生の母親と同じくらいの年齢だ。しかし、何でもこなすファイトある人だ。
いつもニコニコしていて、子ども達は“お母さん”と言って慕っている。
先生達も、安心してお世話になっている。
最後に、北野先生の隣は学年の主任の木村先生だ。みんなは、早央里先生と呼んでいる。
「早央里先生、また、よろしくお願いします。少しは、進歩したとこ見せられるように頑張りますから。」
「何言ってるの。北野先生は、しっかり2年間がんばって、前の子ども達を成長させたじゃない。今度は、5年生ね。自信をもっておやりなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
早央里先生と北野先生は、前回の受け持ち学年と同様のコンビなのだ。
おまけに、早央里先生は、北野先生の初任者講師ということで、本当に新米教師のイロハを教えたことになっている師匠なのだ。
それに、なんといっても優しいのでる。
いや、ただ優しいというより、厳しさのある尊敬できる先輩教師なのだ。
適切に教えることは伝えてくれるし、自分で考えなければならないことはまかせてくれる。
本当に指導力のある教師だ。
早央里先生が1組、北野先生3組、鎌田先生が2組、マリーゴールド学級の花村先生、それに時間講師で何人かの支援員の先生が交代で指導に加わる。そんな学年団が新しい風景になった。
今日は4月始業式、学校にとってはお正月みたいなものだ。
先ほど、着任式、始業式と無事終わった。
今年も新しい先生が加わったこの虹ヶ丘小学校の一年間が今スタートしたのだ。
北野先生は、今年で先生になって3年目になる。
「(3回目ならもう慣れただろうという人がいるけど、学校なんて毎年違うんだよな。
子ども達も違う。
活動も同じようなことをやっているようだけど、やっぱり何かが違う。
時間の流れを感じてしまうんだ)」
北野先生は、そんなことを感じながら、新学期の変化を味わっていた。
今年は、受け持ちのクラスが変わり、学年団の先生達も変わった。北野先生にとっては、新鮮な年になった。
この後、入学式が行われるが、それまで1時間ある。幸い北野先生は、5年生なので、入学式の準備はしなくてよい。学級で使える時間になっている。
朝、簡単な挨拶はした。
子ども達と付き合っていくための大切な第一歩をどうするか悩んでいた。
北野先生は、本当に悩んでいた。
職員室を出る時、鎌田先生にも、聞いてみた。
「ああ、ぼくは、いつもこの時間を使って学級目標を提示してるんだ。
最初が肝心だからね。授業時数も限られていますから、今後余計な時間を無駄にしないためにも、こういった時間を有効に使ってるな~」
教育実践書を何冊も出版してる鎌田は、あっさりと答えた。
それを聞いた北野先生は、急に自分には何ができるか不安になってきた。
横で、それを聞いていた木村先生は、
「大丈夫よ、北野先生。あなたは、あなたの方法で子ども達に接すればいいの。焦らなくても。出会いを大切にね……」
と、声をかけてくれた。
「(早央里先生は、初任の頃からいつも『自分の方法を考えて』と言ってくれるんだ。
……これは、とても安心するけど、時にはとても厳しいよな……。
……だって、簡単に人まねじゃダメってことだもんな……。
……意味をよく考えろって、……たぶんそうなんだと思う……)
……よし、着いたぞ…(…聞こえる…トゥックン…トゥックン…トゥックン… ・ … ・ …)」
北野先生は、自分で胸を押さえ深呼吸をした。
〔つづく〕
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