53 未来のために 6(流れをつくる)
北の国の夏は短い。
9月になれば、収穫の時期と同時に、冬を迎える準備にも入らなければならない。
しかし、上杉万作には、まったく関係ないことだった。最近、虹ヶ丘は人口も増え、家を建てる人も増えてきた。
そのため、電気工事も増えて、電器屋の上杉も休み無しで働いていた。
店は、奥さんの千子にまかせっきりにしている。
申し訳ないと思いつつ、お客さんの扱いうまい奥さんには、いつも頼っている。
「今日は、早く電気工事が済んだから、昼飯前には家に帰れるかな?」
そんなことを考えながら、家路に向かっていた。
「やあ、万ちゃん!…どっか行っていたのかい?」
畑の真ん中の道を家に向かって急いでいる途中、横のとうきびの間から、急に声を掛けられ、上杉は少し驚いた。
「え?………なーんだ、大空じゃないか。どうしたんだよ、とうきび畑で」
顔を出したのは、虹ヶ丘小学校で教員をやっている上杉の仲間の北野だった。
「なーに、来週あたり、遠足に来ようかと思っているんだ。
たぶん、この辺に来たら、子ども達は、とうきびをもがせろとか、言うに決まってんだろ。
それで、あちこち調べているってわけさ」
「そうだな、勝手にもいだら、怒られるからな。でも、とうきびだけで、いいのか?」
「いいわけあるか!他にも、たくさん野菜や果物が育っているだろ。これらを収穫できたら、子ども達がどんなに喜ぶか……」
「そうだよな…………」
周りには、ブドウ畑もあった。少し離れてはいるが、オンコの木やドングリの木もあり、良さげに実を蓄えているのも見える。
「まあ、運が良ければ、見つけられるかもしれないなあ」
「誰にとって運がいいんだか………」
「そうだな、木にしてみれば、実を食われっちまうんだらなあ……あはは」
北野先生は、下調べはするが、親切にその情報を子ども達に教えるつもりはないらしい。
当然のことだと、上杉は思った。
楽しいことは、自分で、探し当てないとなんの意味もない。そして、探しあてたものは、無条件で認めてやる。
これが大人の心得だ……………そうやって、彼自身も小さい時、彼女から学んできた。
「(そうだ、こんな簡単なことだったんだけど、オレ達は、あの人と一緒に学んできたんだ。)」
「なあ、ソラよ。今は、お前が、代理になったんだろう?」
「ああ、そうさ」
「すごいじゃないか。今や虹ヶ丘小学校は、北野先生が校長代理なんだからな!」
「いやあー。それがさ……ちょくちょく来るんだよ。心配なのかな?」
「だれが?」
「……みょんちゃん……」
「あはは……きっと、暇なんだよ……。付き合ってやんな……、お前だって、その方が落ち着くんだろう?」
「はははは、実はそうなんだけど…………。たぶん、来週の遠足も、現地集合だと思うんだよね……」
「いいじゃないか。……ところで、体の具合の方は、どうなんだ?」
「うん、……だいぶ、辛そうだな。ちょっと歩くと、息が上がってしまうようだし、時々、心臓をおさえているし。
…………それでも、ニコニコしながら、大丈夫って言うんだよ」
「そっか、こっちも、最終仕上げといくか…………急がないとな」
「うん……」
上杉は、北野先生と別れてから家までの道を歩きながら、改めて虹ヶ丘の町を見渡した。
町はずれに作った大きな風車も今は、10機を超えた。
太陽光を98%の精度で蓄電できる発明は、火力発電にも匹敵すると言われている。
上杉万作は、この特許を基に様々な発電技術の会社と協力して技術協力を結んだ。すべてお金に換えて大金持ちになることもできたが、そんなことをしても自分のまわりの人達は喜ばないと、彼は考えていた。
彼が考えるのは、いつもあの人のことだった。
彼女が喜んでくれるのは、きっと他の人を助けた時だけだと信じていた。だから、自分の仲間が喜ぶのも、同じだと考えているのだった。
東京などでは、電気よりやっぱり石油やガスの方が、普及している。大きい会社が供給していることと、個人が手間をかけないで済んでいるからだ。
虹ヶ丘の町では、一人一人が自分の考えで行動できることを大切にしてきた。
そのためには、自分の事を自分で惜しまずに頑張れるようになってほしいと考えていた。
発電も蓄電も各自ができるように上杉は手助けしてきた。
今、各家庭は、電気がガスや石油よりも動力になりつつある。これからは、台所だって、電気が調理器具を動かすようになっていくと、上杉は考えていた。
上杉万作は、そのために、この虹ヶ丘で頑張っていた。
そうすることが、今まであの人にしてもらってきたことに対しての答えになるはずだと、信じていた。
〔つづく〕
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。




