48 未来のために 1(幸せすぎて)
あれからもう数か月も経った。
美代乃にとって、信じられないくらい夢のような出来事だった。
学校の図書室で、10年ぶりに再会したあの人達は、また自分に力をくれたような気がする。本当にうれしかった。だから、また夢中で頑張れた。
気が付けば、冬休みになっていた。
ここ北の国は、一面雪に覆われてしまった。しばらくは閉ざされた国になってしまう。
「あなた、今日は晴れているから、玄関前の除雪してほしいんだけどなあ~」
「ああ、いいとも。仕事に行く前にやっておくよ」
建造は、今、町の図書館を建てている。
朝食を済ませて、これから出かけるところだ。
ちょっとお願いしただけですぐに引き受ける。
前なら、このくらいの除雪は、美代乃自身が平気でやっていたが、最近、すぐに疲れて息があがってしまう。
建造は、そのことをよく知っていて、体を動かすことなどは、代わりにすぐにやる。
「本当に、ごめんなさい。朝の忙しい時に」
「何言っての、みーの体が一番だから、気にするなって」
「(けんちゃんって、本当にやさしいんだから……)」
声に出しては、なかなか言えない美代乃だった。
「ありがとうね……」
「ところで、もうすぐお正月だろう?家の大掃除とかは、あんまり無理してしなくていいからね。松飾は、帰ってきたら、僕がつけるから」
「うん、わかったわ」
「じゃ、玄関のところ、除雪したら出かけるからね……」
「お願いします。行ってらっしゃい……」
美代乃は、学校がお休みなので、家の片づけをすることにした。
先ほどは、建造にあんまり大掃除なんかしなくていいと言われたが、やっぱり少しぐらいはやっておきたい気になった。
そんなことを考えながら、家の掃除を始めた。結婚してから、建造が家を建て、二人で住み始めた。
そんなに大きな家ではないが、部屋が3つと台所や風呂がついている。
すべて、建造の手作りだ。
建造は、気を聞かせて、虹ヶ丘小学校の近くに家を建てた。おかげて、学校までは歩いて10分ぐらいで通えた。
この辺りは、冬になると1メートル以上雪が積もるが、今はまだ半分ぐらいだ。気温は、そんなに低くはならないが、それでも常時マイナス10度ぐらいにはなる。
ただ、家の中はストーブを焚いているので、結構あたたかい。
薪を燃やしたり、最近は電気を使ったストーブもあったりする。
この電気ストーブは上杉が作ったもので、太陽の熱を貯めておける太陽電池というのを備え付けていて、その電池で暖かくなる。
この太陽電池は、まだ実験の途中で、使っている人は少なく。
虹ヶ丘も町になってから、ますます発展してきた。
基本は農業だ。
開拓当初からのジャガイモやダイコンに加え、たくさんの種類の畑作野菜を育てている。
それらの野菜を売る商業も盛んになってきた。また、虹ヶ丘のまわりにはたくさんの森林があるので林業も行われている。
だんだん人口も増えつつある。
小学校も、虹ヶ丘小学校だけでなく、他にもいくつかできたし、政府の学校制度も変わり、それに合わせて、中学校や高等学校などもできつつあった。
「(だから、建造さんのお仕事も増えるのよね。
家を建てたり、それに合わせて山の木を切ったり、とても大変なお仕事なのよね。
この年末ぎりぎりまで、お仕事なんて、本当に大変よね)」
少し、美代乃は寂しかった。
・・・・・・・・・・・・・・
「さあ、どうぞ、いらっしゃい。……」
「……おじゃまします………」
お正月、建造と美代乃は、美代乃の実家に新年の挨拶に行った。
「明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「いやあ、久しぶりだね」
「村長さんも、お元気ですか?」
「おいおい、いつの話だい?村長は、だいぶ前に辞めたじゃないか」
「あ!すみません。つい」
「まあ、今日は、ゆっくりしていきなさい。雑煮を作ったんだ、食べていきなさい」
美代乃は、久しぶりに実家でおいしいい雑煮を食べた。
「……うっ、……」
急に胸のあたりがムカムカして、その場を離れて、台所で戻してしまった。
「あら、どうしたの?」
あわてて、母が駆け寄って来て、背中をさすった。
「……大丈夫かい?」
建造も心配して傍に来た。
「うん、何ともないわ。変ね、さっき迄何ともなかったのに?」
すると母親は、娘の顔を両手で押さえてから、
「ちょっと、こっち見てごらんなさい」
と、顔をジーッと見て、目の色や肌の色などを確かめた。
そして、耳元でささやいた。
「……やっぱり……そうかもね!」
おもむろに、母が建造に向かって静かな声で言った。
「建造さん!おめでとうございます」
建造は、きょとんとしたが、
「あ!……明けまして、おめでとうございます」
と、言って、母親に笑われた。
「そうじゃなくて……おめでとうございます!
…………………お・め・で・た・なのよ!たぶんね!!」
「えーーーー?」
すると、食卓にいた美代乃の父が、いつもは出さない高い声を出して驚いた。
「ほんとうか!母さん!」
「たぶん、間違いないわ!よかったわね。大事にしなさいよ」
美代乃も建造も、何が何だかわからないうちに、おめでたいことが重なっていたのである。
〔つづく〕
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