39 虹ヶ丘小学校のはじまり 8(あこがれて)
虹ヶ丘にも収穫の季節が来た。
畑には、いろいろな作物が実り、大人から子どもまで作業に駆り出されていた。
特に、ジャガイモは虹ヶ丘の代表的な作物になっていて、多くの場所で芋ほりがされていた。
開拓に入ったばかりの頃は、ここが農耕に適した場所かもわからず、手当たり次第に様々な野菜の品種を植えていた。
ジャガイモも、どの品種がこの土地に合うかわからず、最初の数年は品種選びの年だった。いくつか成長のいい品種を見つけてからは、村長の発案で違う品種同士の交配をして、品種改良にも取り組んだ。
おかげで今では、どこにも負けないおいしいジャガイモが採れるようになっていた。
北野は、休憩を兼ね、草むらに寝っ転がって空を見ていた。
「(………どこまでも透き通る……青い空はいいなあ。
………どこまでも行けそうな気がする)……僕は、何でもできそうな気になる……」
先日、教員試験を受けて来た北野は、その時のことを思い出していてた。
「(別に、先生になりたい訳じゃなかったんだ……ただ、僕は、みょんちゃんに会って、不思議な気持ちになったんだ……)あの時の空も青かったなあ……」
北野が、開拓でこの虹ヶ丘に来た当時は、まだ子どもだった。その頃の北野は、美代乃をやっぱりみょんちゃんと呼んで慕っていたのだ。
みょんちゃんと一緒にいると、何でもできると思っていた。一緒に遊んでいる時も楽しかったし、歌を歌っている時も楽しかった。何かを教わっている時も楽しかった。
どうしてかは、わからなかったが、村のみんなも、楽しそうにしていた。
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北野は、当時をよく振り返ることがあった。
≪そりゃ、上手くいかないことも、いっぱいあったんだ。
友達の一太の方が、相撲は強かった。
でも、みょんちゃんは“だいじょうぶ”って言ったんだ。
等が、めんこで勝った時も、みょんちゃんは笑って見ててくれたんだ。
僕が、友達に勉強を教えて役に立ったら、みょんちゃんは褒めてくれた。
逆に僕が困って、みんなに助けてもらったら、“よくお願いしたね”って、僕が褒められちゃった。
みょんちゃんは、いつも僕のことを………いや、みんなのことを、見てくれていたんだ……だから、みょんちゃんと一緒にいると楽しかったんじゃないかなあ………≫
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≪そんな、みょんちゃんが、先生になる………いや学校を作るっていうから助けたいだけなんだ…………≫
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「…………“そら”!…………“そら”ってば!………
また、ボーっとして……………………
試験に受かるかどうか、心配してるのか?」
一太が、北野の傍に寄って来て、顔を覗き込んで声を掛けた。
「あ、一太か。…………誰が、心配するかよ。
あんな試験。………………大丈夫に決まってるさ。お前こそ、大丈夫か?」
「俺だって、大丈夫さ……………あははははははは」
2人は、ジャガイモ畑で寝転んでふざけ合った。
「そっか、お前、また、美代乃先生のこと考えてたろ?」
「……何?言ってんだよ!」
北野は、少しムキになって否定したが、中村は、かまわず続けた。
「だめだぞお前、美代乃先生は、桜山先輩の彼女なんだからな………」
「うるさい!そんなのは、みんな知ってるよ!」
2人は、起き上がり、顔を見合わせて、軽く笑った。
「それにしても、俺は、みょんちゃんのような先生になりたいなあ……」
「そうだなあ、僕もあんな先生になれたらいいなあ。あの時は、傍にいるだけで、何でもできそうな気がしたんだ」
「俺は、今でも、何でもできそうな気がするぞ!」
「あ!ずるいぞ、僕だって!」
もうすぐ教員試験の発表である。虹ヶ丘小学校の申請が通るかどうかも決まる時期だ。そして、それに合わせて、もう一つ新たな旅立ちを待つものが……。
〔つづく〕
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