04 希望の友情 2(優しさの発明)
「あら、お帰り……」
そう声をかけてくれた母親には目もくれず、三成実は2階の自分の部屋に飛び込んで行った。
「本当にもう、また何かに夢中になったのね」
母親は、少しあきれたような顔で、でもニコっとしながら、父親の方を見た。
「いいから、好きにさせておきなさい」
父親もまた、少しうれしそうな顔をしていた。………
・・・・・・・・上杉電器商会の長女、上杉三成実は、後に重大な冒険をすることになるが、まだ何も知らない・・・・・・・
ただ、とにかく直球勝負の女の子で、何事にも一生懸命に取り組む。
思ったことはすぐ実行に移してしまう行動力のある子である。
そして、人一倍優しくて思いやりがある。
きっとこの時も、誰かのために、何かを思いついて、ただ突っ走っていたのである。
三成実は、すぐに2階から降りてきた。
「お父さん、うちにテレビのリモコン余ってなかったっけ?」
と、妙なことを尋ねた。
「え?リモコン?…そりゃあ、うちは電器屋だから、古いので良ければあるけど…」
と、戸棚から段ボールを取り出した。
ちらっと、中をのぞいた三成実は、
「お父さん、これ全部ちょうだい!」
と、即決した。
「あ…ああ、いいよ…」
父親の返事を全部聞く前に、三成実はもう段ボールを抱えて、嬉しそうにまた自分の部屋に戻って行った。
「まったく、何をするんだか」
相変わらず、父親は、嬉しそうに娘の背中を見ていた。
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「ねえ、お父さん。大丈夫かしら?」
「そうだな、もう3日か?食事はしているのかい?」
「部屋の前に置いてあるおにぎりは、無くなってるのよね。
時々、二階のトイレを使っているのはわかるの。
でも、ずうっと物音はするから、きっと寝てないのよ、あの娘ったら」
「まあ、若いから、二日や三日寝なくても、死にやしないけど、それでもなあ」
……………………
本当に思ったら一直線の行動なんだから、無茶をします。
困ったものです。
でもそろそろ完成のようですね。
……………………
心配している2人のところに、階段を転げ落ちる勢いで三成実が駆け下りてきた。
そして、手にテレビのリモコンを持ち
「できた!できた!これで、解決だ!しーちゃんの望みを叶えるぞ!」
と、はしゃぎまわって、茶の間にいる両親をまた心配させてしまった。
「ミーちゃん、ミーちゃん。ちょっと、落ち着いてくれるかな」
「なあ、父さん達にもわかるように説明してくれんかな?」
ここで、我に返った三成実は、茶の間のソファーに腰を下ろし、深呼吸をしてから説明を始めた。
「私はね、しーちゃんがクラスのみんなに会えなくて、寂しいって言うから、会えるようにしてあげたいと思ったの。
それで、このリモコンを改造したの。
このリモコンを使うとね、テレビの前にいる人同士が、つながってテレビに映るの。
しかもおしゃべりができるの。
トランシーバーのテレビ版ね。
これはね、このテレビリモコンがあれば、どんなテレビでもできちゃうんだからすごいでしょ」
と、一気に話した。
父親は、そのリモコンを手に取って
「ほー、すごいな。
パソコンでは似たようなことができるが、その機能をリモコンに埋め込み、しかもテレビの電波を利用して、同時中継を行うシステムをたった3日で作り上げてしまうなんてな。」
と、感心してしまった。
「まあ、お母さんにはそんな難しいことはわかんないけど、きっとすごいことなんでしょうね。
でーも、それがわかるお父さんも、すごいわよ。
……あらら、ミーちゃんったら、疲れたのね。
ぜーんぶ、お話ししたら、もう寝ちゃってる。
今日は、ここでおやすみなさい。
よく、がんばりました」
ソファーの上で毛布にくるまって眠っている三成実の幸せそうな顔を見て、2人はまた微笑だ。
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「それにしても、ミーちゃんは機械に詳しいわね。
小さい頃から、何でも分解して遊んでいたけど、他の子と違うのは、それをまた組み立ててしまうのね。
しかも、組み立てると、前よりもちょっとだけ違うものが出来あがるのよね。
目覚まし時計を分解して組立てたら、ベルだけじゃなくおしゃべりするようになったり、掃除機を分解して組立てたら、ごみを吸うだけじゃなく、分別までするようになったりしたのにはおどろいたわ……」
と、娘の寝顔を見ながら、母親が昔を思い出していた。
「まあ、何にでも興味をもって、とことん追求する気持ちを大切にした、お母さんのお陰だよ」
「何いってんですか。好きなことを好きなようにさせてあげた、お父さんのことをよく知っているから、ミーちゃんだって、NASAの研究室に誘われたのに、断ってお父さんの電器屋さんに就職したんじゃない。
大学の教授が、もったいないっていっていたわよ。」
「おれは、好きなようにしなさいって言ったんだぞ。…………ところで、まる一日も眠りっぱなしで大丈夫なのか?」
茶の間で三成実の寝顔を見ながら、それでも顔が緩んでいる父親に、夕飯の支度をしながら母親が、これまた笑顔で返していた。
「大丈夫よ、ミーちゃんの大好物のカレーができたから、すぐ目が覚めるわ。この香りを逃すはずがないもの」
と言って、母親が、カレーの鍋の蓋をあけかきまぜると、すぐにソファーで眠っていた三成実の体がムズムズと動き出した。
「…ん、…あ、ああ、んんんーん…………」
大きな伸びをして、ソファーから起き上った三成実は、すっきりした顔をしていた。
〔つづく〕
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