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みょんちゃんが奏でる虹色のメロディー ~皆で紡ぐ、楽しい学校と素敵な町並み~  作者: 根 九里尾
第4章 信頼の軌跡をたずねて(虹ヶ丘小学校の成り立ち)【過去】
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37 虹ヶ丘小学校のはじまり 6(準備は静かに…)

 この虹ヶ丘にも夏がやってきた。


 ここでも、畑には様々な野菜が育つ。特に、開拓当時から品種改良にこだわってきたジャガイモは、作付面積も広くこの虹ヶ丘の代表作物になっている。

 最近では“虹風8号”という品種が特によく育ち、成長が早いうえに、甘みが格段に高いと評判になっている。

 

 今日もこの北の国にしては太陽の光は強いが、美代乃はそれにも負けないぐらいに明るく元気に“先生”をしている。


「みょんちゃん、きょうもってきた、えほんぜんぶよんじゃった。ほかに、なにかないかなあー」


「あらー、あーちゃん、えらいわね。

 じゃ、他のみんなも、ちょっとお休みして、外へ行ってみない。

 せっかく、けんちゃん達が、運動場やお花畑作ってくれたの。

 今日は天気がいいから、たくさんお花が咲いているわよ」


「わー、行く、行く」


 子ども達は、みんな大はしゃぎで、外の運動場へ駆け出して行った。

美代乃(みよの)も横に置いてあるいつもの麦わら帽子を片手でつまむと、自分の頭にヒョイと載せ、子ども達の後を追いかけた。

 

 まくり上げたシャツから見える真っ白な腕と麦わら帽子の後ろから伸びて風になびく真っ黒な髪の毛は、トレードマークのオーバーオールをこの上なく似合ったものにしていた。


 腰から足にかけて体形に合ったサイズを纏った美代乃は、華奢なはずなのに、どこか力強さを感じる雰囲気を出していた。


「よーし、私も行くわよー、待てー……お花畑まで競走よー……」


 午前中は、いつものように小さい子どもの相手をしたり、外にできた運動場で遊んだりして過ごした。


 中村、北野、多田野(ただの)は、そんな中でもこれから受ける教員試験に向けて、美代乃と一緒に勉強に励んでいた。

 ただ、岡崎(おかざき)だけは、試験を受けないにも関わらず、いつも難しい本を読んでいた。


「岡崎君、何読んでいるの?カバーついているから、よくわからないけど、何か難しそうな本みたいね……」

「あ、美代乃先生、大丈夫です。これは、遠くにいる親戚にもらった本ですが、僕もあんまりわかりませんから………あはは………」


「そうお……読めないところがあったら、聞いてね。調べてあげるわよ」

「はい、ありがとうございます。その時は、お願いいたします」


 小さい子ども達が帰った後の午後は、桜山(さくらやま)や岡崎、上杉それに中村、北野、多田野といった例の仲間達で、校舎増築の作業を行ってる。

 開拓に入ったばかりの頃の古い倉庫をもらうことがき、それを解体して教室を増やしているのである。

 桜山の設計で教室だけではなく、黒板や机など、学校としての細かな備品についても、木材で細工してみた。


「いやあ、がんばってるかな」

「村長!どうしてここへ?」

「ちょっと様子を見にね……、桜山君だけかね、美代乃達は?」


「ああ、他のみんなは、今、隣の教室のカーテンを縫ってます。窓が大きいので、みんなで押さえないと曲がってしまうから……」


「そうか、大変だね。

 ところで、もう、教室を1つ完成させたんだね。すごいね。

 美代乃に話は聞いていたが、さすがお父さんが大工さんだけはあるなあ。

 美代乃もとても喜んでいたよ」

 

 新しく完成した教室を眺めながら村長は、とても満足そうにうなずきつつ桜山を褒めた。


「あの…………」


 桜山は、周りに誰もいないことを確かめるように見渡してから、ゆっくり話し出した。


「村長、お願い、いや、お話しておきたいことがあります」


 桜山の真剣な口ぶりを感じたのか、村長も静かに尋ねた。


「何かな?」


「これは、僕だけじゃなく、岡崎や上杉も考えていることなんです。」


「うん」


「僕達は、必ず将来、この虹ヶ丘小学校、いや虹ヶ丘の役に立ちたいと思っています。

 そのためには自分のできることをしっかりとしたものにする必要があります。

 僕は設計と建築を、

 岡崎は医療を、

 上杉は機械と電気です」


「うん、私は今でも十分役に立っていると思うんだが……、

 まあ自分でそうしたいと思うんだったらそれは……」


「はい、……それで、

 僕達は、この虹ヶ丘小学校がうまく申請できたら、ここを離れて、今度は自分の力を伸ばすために勉強してきます」


「……そのことは、美代乃に話したのかい?」


「いいえ、まだです。今、話しても不安にさせるだけなので……」


「そうか、……わかった。

 心配しないで、君達は、今できることを精一杯やりなさい。

 今度は、私が君達を応援しよう。必ず助けてあげるから心配はいらない」


「ありがとうございます」


 二人はしっかり握手をした。








「あ、村長さん、いらっしゃい」

「いやあ、一太君、君も手伝っているんだってな。

 今日は、差し入れを持って来たよ。スイカだ、みんなで食べてくれ」


「わー、スイカだー、よーし、さっそく切るぞー」

「待て待て、一太」

「何でだよ、上杉先輩~」

「スイカといえば、これだ。スイカ均等16等分包丁」

「何だよ、そのタコの足みたいな包丁は?」

「聞いて驚け!この包丁は、一回でスイカを16等分に切り分けることができるんだ。

 すごいだろう?」

「本当かい?」

「じゃあ、今、やってみるから、よっく見とけ!せ、のー、はい!!」

「おーーー!!!」

「さすが、機械の上杉様だね」


「はいはい、まったく、お父さんがスイカなんか持ってくるから、もー」


 教室は、スイカを頬張る子どものような青年と、それを見守るお母さんのような?……お姉さんの笑い声で満ちていた。




〔つづく〕


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― 新着の感想 ―
まだ言えないんでしょうか? みよのさんもいきなり聞かされたらびっくりするはずですよね。 それからスイカの季節が近くなりましたね〜。
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