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みょんちゃんが奏でる虹色のメロディー ~皆で紡ぐ、楽しい学校と素敵な町並み~  作者: 根 九里尾
第4章 信頼の軌跡をたずねて(虹ヶ丘小学校の成り立ち)【過去】
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35 虹ヶ丘小学校のはじまり 4(仲間の決意!)

 7月の上旬、ここ北の地では、一年で一番日が長くなる。従って、夕飯を食べる時刻も遅くなることが多い。

その分、畑仕事などははかどるが、疲れは貯まるので、夕食後、そのまま寝てしまうこともある。

 

 ただ、今日だけは、何人かの若者がいつもより少し早めに仕事を切り上げ、夕食を済ませ、まだ明るい夜道を出かけていた。



「今晩は……。建造(けんぞう)さん居ますか?」


「ああ、上杉(うえすぎ)君か、こっちだ、入ってくれ」


「おじゃまします。おうちの人はお出かけですか?」


「ああ、隣の村で建前があってな。

 父ちゃんも母ちゃんもお呼ばれしてて、今日は帰りが遅いんだ」


「そうですか。そういえば、お父さんは大工さんでしたもんね」

「いやあ、大工の仕事は時々しかなくて、普段は畑仕事ばかりなんだけどな」


 そのうちに、上杉と同い年の岡崎がやってきた。


「上杉、お前も自転車で来たにしては早かったな。

 確か、俺が家を出ようとした時、ちょうど目の前を通ったと思ったんだけどな」


「ああ、俺の自転車な、駆動輪に歯車を少し付け足して、変速機を作ったんだ。

 少ない力で早いスピードが出せるんだぞ!」


「また、お前は自転車も改造しちまったのか?まったく、機械いじりが得意だなあ………」

「機械だけじゃないぜ、電気だってまかせなさい!」

「あーはいはい」


桜山(さくらやま)先輩ー、お邪魔しまーす」


 桜山の2歳下、岡崎(おかざき)と上杉の1歳下の中村(なかむら)北野(きたの)多田野(ただの)が来た。


「それにしても、桜山先輩の家は、自分の部屋があるなんてすごいですね」

「そうそう、開拓に入った家で、自由に家を作れるのは、大工さんの家くらいですよね」


「おいおい中村君、あんまり人聞きの悪いことを言わないでほしいな。

 なんか大工が自分勝手に好きな家を建てているみたいじゃないかい」


「あ!すみません。でも、好きなように立てられないですか?」


「うちだって、最初はこの部屋は無かったんだよ。この部屋はね、僕が設計の勉強のために自分で作ったんだ」


「え?桜山先輩が自分で設計して、自分で作ったんですか?」


「そうだよ。

 僕は、将来設計師、建築士になりたいんだ。

 そして、できれば虹ヶ丘小学校を作りたいんだ…………」


「…………ああ、なるほどね………。だからですか!」


 歳は一つ下だが、いつも沈着冷静で、先を見通して行動する岡崎は、納得顔で桜山の顔を覗き込んだ。

「何が、なるほどだよ」

 少しドギマギしながら言い返す桜山だが、すかさず2歳下の北野が閃き顔で答えた。


「わかった!美代乃先生の役に立ちたいんだ!そうでしょう?」


 他のみんなは、「そんなことは、もうわかっている」とは言わずに、ただ「にこっ」と微笑むだけだった。ただ、本人だけは少し焦ったのか

「…まあ、…ああ…、…今日は、…その話の…ためなんだ。

 みーに、あ、いや、美代乃さんに聞いたんだ。

 今、何に困っているかを…………」


 桜山は、学校で美代乃から聞いた学校申請の話をした。

 校舎増築のこと、教員のこと、児童確保のことなど、美代乃が頭を抱えていることに手助けできることはないか相談することになったのである。


「……あの時、僕たちは約束したよね。

 美代乃さん…………みょんちゃんが作りたい学校を作るために何でも協力するって。

 それは、自分が勉強する姿を見せることで、他のみんなに『これが学校だ』というものを知ってもらうという協力だって約束もしたんだ。」


「そうだ、中村君の言う通りだ。

 だから僕は、建物を作るための勉強をしたんだ。

 自分で設計もできるようになった。

 自分は、学校を作るという協力をするよ。

 申請に間に合うくらいの学校にして見せる……………」


「お願いします。桜山先輩」


「でも、僕は、その先も、この虹ヶ丘小学校と美代乃さんの面倒をずうっと見ていきたい。

 だからもっと本格的に設計や建設の勉強がしたい。

 僕は来年二十歳になる。

 東京の学校に行って早く本物になって帰って来るよ。

 それまで、この虹ヶ丘をみんなに頼みたいんだ!」


「僕も、機械と電気の勉強をしてきたいと思ってます」

「上杉さんもですか?」


「みんなすまん。

 その代わり、行く前に、しっかり新虹ヶ丘小学校には、新しい電気を通していくから。

 きっとこれからは、電気と機械の世の中になるんだ。

 これに負けないように、技術を身につけて帰ってくる」


「わかりました。

 それじゃあ、僕たち、居残り組は、先生になります。

 年齢的にも補助教員の試験が受けられます。

 今年の夏に美代乃先生と一緒に、この試験に合格できるように猛勉強します」


「岡崎、中村、北野、多田野、頼んだぞ!」


「…みんな、すまん」


「どうした?岡崎」


 次々に美代乃を助けるための手立てを決め、意気揚々とする中、岡崎だけはだんだんとうなだれていった。

 そして、あまり大きくはない、加えて歯切れの悪い、いつもとは違った岡崎の話が、少しずつ始められた。


「……俺は……助けたいんだ。

 ……間に合うか……いや……間に合うように………頑張るから……」


「助ける?頑張る?誰をだ?」

 不思議そうに尋ねる多田野の言葉を遮って、桜山が聞いた。

「お前、知っていたのか?」

「ああ……………」

「そうか…………」


 桜山の顔も今までの元気さを急に失ってしまった。

 他のみんなは、何のことだかわからず、しばらくは沈黙が続いた。

 北野が、もう一度聞いた。


「助けるって、誰をですか?」


「……時々、……美代乃さんが倒れたのを……みんなも知ってるよね。…………」

「ええ、でも、あれは仕事をしすぎて疲れがたまったって…………」


「自分は、医学に関心があって勉強してるんだ。そして調べたんだ。

 美代乃さんは、心臓に病気を抱えているに違いないんだ……………」




「「「「    !    」」」」




「だから、僕は一日でも早く医者になって、美代乃さんの健康を取り戻せるようになりたいんだ。

 だから、僕も……………」


「わかったよ。

 きっと、君ならできると思う。

 僕達は、できることをやろう。

 いや、やりたいと思うことをやろうじゃないか」


〔つづく〕


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― 新着の感想 ―
心臓が悪いのを克服された背景には、岡崎さんの頑張りがあったんですね。 他の皆も様々な活躍をしていく、その源泉がここにあったのだなぁ〜と思えますし、乗り越えていける強さを感じます。 この町はきっと素敵な…
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