32 虹ヶ丘小学校のはじまり 1(開校式)
「美代乃おばあちゃん、それじゃあ約束よ……早速、あのお話を聞かせてよ」
「ぼく達も聞きたいんだ……」
志津奈や太郎は、上杉電器に遊びに来るなり、美代乃に昔話をせがみ出した。
それは、先日の図書館で“昔の美代乃”に会った時に交わした約束から、虹ヶ丘小学校についての成り立ちを聞きたがったのだった。
「はいはい……わかったよ。じゃあ、そこに、座ってくれるかの~…………」
『あれはなあ……………………
晴れ渡る8月の空。
ここ虹ヶ丘の町にも夏が訪れた。
中心作物であるジャガイモの作付けが忙しかった春は無事に過ぎた。
同時に始まったのが、この建物の建設だ。
最初、町長は渋った。まだ、時期ではないと。見通しも明るくないと。
でも、あの時から、町の子ども達は、願っていた。
あの人達と出会ってから、自分達の学ぶことへの意味を問い始めていたのである。
美代乃も意思を固めていた。
自分のやるべきことを教えられたと感じた。
みんなは、口には出さなかったが、それは見ていれば感じられた。
だから、町民はみんなで小さな建物を作った。
本当に小さな建物だった。
お世辞にも、
………呼べるものではなかったが、みんなは笑顔だった。
仕事の合間を縫って、作業を進め、ようやく8月の晴天の日に、この日を迎えた。
「これより、虹ヶ丘小学校の開校式を始めます。町長、ご挨拶をお願いします」
「…みなさん、ありがとう。
私なんかより、本当は、みなさんがここに上がって、ひとりひとり挨拶しなければならないと思っています。
みなさんが、どうして虹ヶ丘小学校を作りたいと思ったか。
それは、この虹ヶ丘の町を発展させるには子ども達を大切にしなければならないと考えたことがよくわかります。
そして、それは今しかできないということも。
本当にありがとう。
これからは、私たちは、この虹ヶ丘小学校が進む道を陰ながら支えていきましょう」
集まった町民達からは、大きな拍手が沸き起こった。
開拓がはじまったばかりの虹ヶ丘。
町民といっても、すべて集めても500名いるかいないかぐらいである。
まだまだ軌道に乗ったとはいいがたいが、一家で開拓に参加しているものもいる。
したがって、子どもの数もそこそこいる。
町長の娘、美代乃は、18歳になったばかりだが、しっかりしていて、同年代だけではなく、下の年代の子達からも慕われている。
畑の仕事もよくこなす傍ら、休日には子ども達の面倒を見ながら勉強を教えたりもしている。
そんなこともあり、音無美代乃は、この虹ヶ丘小学校の初代校長に任命されたのである。
「それでは、初代校長の音無美代乃様、ご挨拶をお願いいたします」
「え?…え!…え?……、わ、わ、私が……、音無…………」
「みょんちゃん!がんばって!!」
「大丈夫だぞ!俺たちが、ついてるぞー!」
会場にいた、子ども達が口々に声を掛けた。
下を向いていた美代乃が、声の方を向いて軽く息を吸った。
「うん!…ありがとう。
私、一人じゃありません、たくさんの仲間がいます。
みんなを信じて、この虹ヶ丘小学校を進めていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
また、会場から大きな拍手が起った。
〔つづく〕
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