31 七色の風と共に 3(想いの実り)
みんなの鉛筆を差し込んだプロジェクターのような機械からの眩しい光が変化してきた。
「……ん?……何となく光が落ちついてきたような気がする………」
太郎が、そんなことを考えていると、今度は不思議な音が聞こえて来た。
どうも、音というより、それは声と言った方が近い気がした。
『……な……、……なさ……、みなさ……、こんちは。………しは、……よ……です』
同時に、その落ち着いた光が、今度はだんだん立体的で何かに見えるように形作られてきた。
「(たぶんプロジェクターが映し出した立体映像だ。……)」
北野先生は、そう思ったが、それが一人の女の人に見えだしてくると、叫ばずにはいられなかった。
「美代乃さん!」
ほとんど同時に太郎も志津奈も三成実も
「「「みょんちゃーん!」」」
と、叫んでいた。
みんなは、椅子から立ち上がり、駆けだしそうになっていた。
三成実が、我一番に飛びついたが、光の中を素通りしてしまった。
「あ、ごめんね」
悟が、頭を掻きながら簡単に説明してくれた。
「これは、スーパーフォトグラフィックで、実態はここにはないんだ。でも、偽物のじゃあないよ。まあ、テレビ電話の立体映版って考えてもらっていいよ!」
「で、で、でも、美代乃さんって、100年も前の人だから、…ああ…ビデオなのかな?」
「まさか、100年前のビデオがここにあるわけがないでしょ…」
「じゃあ…」
「ぼくの光工学と三成実ちゃんの機械工学、それに三角軸の鉛筆のお陰かな。それより、あんまり時間が取れないんだ、美代乃さん、早く話をお願いします」
「はい、私は、学校を作りました。私は、この先いつまでこの学校を見守れるか心配です。だから、先日会ったあなた達にもう一度会って、話がしたかったのです。
私の学校は、あれでよかったのですか?
私は、それだけが心配で………」
太郎は不思議に思った。
「(美代乃さんは、ぼく達が未来から来たことを知っていたのかな?)……どうして、ぼく達にそんなことを聞くのですか?」
「最初に出会った時から、何となく感じたの。
あなた達は、私の迷いを解決にきたんじゃないかなって。
だから、いろんなことを話したし、いろんなものも見てもらったわ。
そして、お話をして、私の迷いもなくなった。
でも、やっぱり寂しいの、もうニ度とあなた達に会えない思うと…………」
「大丈夫ですよ、きっとまた会えますから!」
大きな声ではないけど、しっかりとした、力のこもった志津奈の声は、続けた。
「美代乃さんの作ってくれた虹ヶ丘小学校は、私達の大切な学びの場です。
私達は、自分の学びたいことを学びながら、楽しい毎日を送っています。
それに、美代乃さん、きっとまた、私達にいつか会えますよ。
心配しないでください」
すると美代乃は、見えなくなってしまった。
「時間切れです」
悟が静かに言った。
「ご協力ありがとうございます。
実は、ここ数カ月、同じ夢を見ました。
そのことを、三成実ちゃんとみよおばあちゃんに相談して、今日の計画になったんです」
「いいさ、もともとは、われわれの出来事だからね」
北野先生が簡単に去年のことを話した。
「ねえ、しーちゃん、美代乃さんにまた会えるなんて、どうして言ったの?……そんな事、簡単に言っていいの?」
太郎は心配そうに聞いた。
すると志津奈は、笑顔で
「だって、会ってるじゃない!」
と、ケロッと答えた。
「え?」
太郎は、また、訳が分からなくなった。
志津奈は、みよおばちゃんの方を向いて
「ねえ、おばあちゃん!」
と、確認を求めた。
「おや!やっぱり、わかっておったかい」
するとおばあちゃんは、観念したような顔をした。
「だって、だって自分で“みよのー”って最初に言ってたもん」
「あははは。つい、自分の名前をそのまま言ってしまって、そのあと変な言い方するのに、苦労したよー」
「え?ということは、おばあちゃんが、美代乃さん?」
「ほんとうに太郎君は、にぶいんだから。あははははは」
太郎は、みんなに笑われてしまったが、みんなが笑顔で楽しそうにしているのが本当に嬉しかった。
「でも、おばあ……、美代乃さん、どうして?」
「太郎君、おばあちゃんでいいよ。ここにいるのは、あの100年前の美代乃だけど、もうあの時の美代乃じゃないんだよ。ちゃんと、100年間生きた美代乃だよ」
「わかったよ。美代乃おばあちゃん!」
「わしは、学校を作ったあと、がんばったんだ。
みんなが、学びたいことを学べる学校になるように。
そして、その楽しさに気付ける人になるように。
でも、やっぱり心臓が悪くなり、そのうちに動けなくなってしまったんだ」
「え?」
「ところが、一緒に勉強していた、岡崎君が優秀な心臓のお医者さんになって、私の心臓を直してくれたんだ。
しーちゃん、あなたのおじいちゃんよ」
「うん、じいちゃんはお医者さんよ。でも今は、お父さんのお手伝いしか…」
「そうね、でも、うでは確かよ。わしは今でも、みてもらっているの。だからこんなに長生きなの!118歳よ」
「えー!!」
みんなは、本当におどろいた。
「わしは、虹ヶ丘小学校を陰ながら見守ってきたの。
でも、あの時に出会った、みんなに会える時代になった時、もういてもたってもいられず、上杉電器の前まで来てしまってたの。
そこで、しーちゃんに声をかけられてからは、みんなが知っている通り。
ここ数カ月、みんなと過ごして本当によくわかったわ。
虹ヶ丘小学校を作ってよかったって。
あの時、学校を作ると、決心してよかったって。
本当にありがとうね」
太郎は、うれしいのに涙が出て止まらなかった。
「何言っての、おばあちゃん。まだまだ、私達の出会いはこれからじゃない。
先は長いのよ、よろしくね」
志津奈が、ポンと肩をたたくと、三成実も
「そうだよ、うちのバイトだって、まだ続けるんだろ!」
と、その場が、笑いでより明るくなった感じがした。
「それにさ、美代乃おばあちゃんが苦労して作った虹ヶ丘小学校の話をいっぱい聞かなきゃならないじゃない?」
志津奈は、美代乃おばあちゃんにすがって甘えた。
〔つづく〕
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