30 七色の風と共に 2(もどる記憶)
土曜日の朝になった。
太郎は、いつになくドキドキしていた。図書館の前で待ち合わせをしたが、一番最後が太郎だった。
「みなさん、おはようございます」
「おはよう、太郎。太郎にしては、遅かったな……」
北野先生が、茶化すように言った。
「これでも、緊張して時間より早く来たのに……」
太郎は、ちょっと拗ねてみた。
「ははは……ごめん、ごめん。僕もドキドキしてな………
………ところで、そのバック、何を持って来たんだい?」
「今回は、しっかり証拠を残そうと思って、お父さんからカメラを借りてきました」
「お!気が利くなー」
「それより、しーちゃんのその麦わら帽子は……ひょっとして」
「そう、……あの時、美代乃さんにもらったものよ。
なんとなく、また、会えそうな気がして…………もってきちゃった…………」
志津奈は、麦わら帽子を大事そうに抱えていた。
「そうだね……。じゃ、図書館の中に入ろうか」
図書館の中には、心強い仲間がいた。
「お!やっと来ましたね」
「おはようございます。今日もいい天気だのー……」
電器屋の三成実と、ここしばらくアルバイトに来ている“みよおばあちゃん”だった。
そして、どこからともなく
「ご案内します」
と、女の人が近寄って来た。
「あ!あなたは、司書の阿部さんですね」
「はい、また、みなさんをご案内することになりました。それから……」
「そういえば、去年の不思議な旅も、すべて阿部さんの案内から始まったんですよね…。それから?
……え?今年は、他にも何かあるんですか?」
「実は、私もこれを持っているんです……」
そう言って、阿部さんは、カード型の招待状を見せてくれた。
「じゃあ、今年は、一緒に行けるんだね!」
ちょっと、嬉しそうに三成実が阿部さんに抱きつこうとしたが、阿部さんは、ほんの少しだけ笑って、すぐにみんなを図書館の2階へ案内し出した。
「この部屋だ」
阿部さんは、軽くノックして戸を開けた。そんなに広くもなく、窓がない分、なんとなく殺風景な感じがする。
中央にテーブルがあり、メガネ屋の悟が座っていた。
「いやー、ようこそ。どうぞ、こちらへ」
悟は、みんなを笑顔で迎えた。
テーブルの中央に大きなプロジェクターのようなものが設置されていた。
「さあ、これに皆さんがお持ちの“アレ”を差し込んでください」
「“アレ”って何ですか?」
「太郎君のは、黄色い光が出るはずですが……どうですか?」
「黄色い光って、…まさか、この三角鉛筆のことですか?」
「しーちゃんは、赤い光線だよね。北野先生は、緑。阿部さんは、藍色。みよおばちゃんは、紫。そして、ぼくは橙色なんだ」
悟は、みんなが三角軸の鉛筆を持っていることを知っていて、光った時の色もわかっていた。
言われた通り、みんなは鉛筆をプロジェクターに差し込んだ。
ちょうどレンズの後ろに鉛筆を差し込む穴が7つ開いていた。
そこに鉛筆を差し込むと同時に、プロジェクターから眩い光が、あふれ出してきた。
それは、プロジェクターの光というより、プロジェクターそのものが光っているような感じだった。
思わずその光を見つめて、吸い込まれそうになった時、太郎はあの時のことを思い出した。
ちょうど1年前、太郎、志津奈、三成実、北野先生は、この同じ部屋で、同じように、あの本に吸い込まれたのだ。
この町の歴史、いや虹ヶ丘小学校の歴史といってもいいかもしれない
『なないろ にっき』
今と同じように、あの時も「なないろ にっき」に吸い込まれ、意識を失ってしまった。
そして、とても不思議な100年前の時間旅行をしたとしか言い表せない経験だった。
太郎は、今、この気が遠くなりそうな光を見た時、一瞬にしてあの記憶が、体の中を駆け巡っている。
不思議な時間だった。
最初は、どこにいるかもわからなかった。
でも、そこで出会った美代乃は、とても素敵な人だった。
いや、彼女のまわりにいる人みんなが素敵な人達だった。
だから、大人達は、そんな彼女たちに学校を任せたいと思った。
そんな彼女も、最初は悩んでいることが分かった。
自分達の学びたいという気持ちと、大人達の言っている学校が、重ならなかったようだ。しかし、太郎達と出会い話をするうちに、彼女達も段々と笑顔になって行った。
そして、未来を見つめた虹ヶ丘を考えてくれると約束してくれたのだった。
太郎は、思い出した。
≪……“美代乃さんのすっきりした笑顔”
それが今でも最後の印象に残っている。
最後の?
そっか、このあと、あの世界から戻って来たんだ。
いや、戻されたんだ。
きっと、みよのさんは、あの答えがほしかったんだ。
学校を作る時に、どうすればいいか迷っていたんだ。
だから、ぼく達がよばれたんだ。
なぜ?ぼく達だったのかな。
そんなことはわからないけど、そっか、去年そんなことがあったな……≫
この光は、あの時のことを思い出すには十分だった。
「(また、100年前に飛ばされるのはいやだな……。今度は、何としても眠らないようにしないと………)」
太郎は、体に力が入るのを感じた。
〔つづく〕
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。




