29 七色の風と共に 1(あの場所へ再び)
千尋の誕生日から帰ってきた、その真夜中、太郎は、不意に目を覚ました。
「ん?……何だ?」
天井に何かが写って光っていた。
太郎は、寝ぼけたかと思いつつも、目をこすってよ~く見た。暗い部屋の天井は、その部分だけが、妙に明るくはっきりと文字が見えた。
カードのような形になっていて、日付と時間と場所が書いてあった。
『ご招待 ○月○日(土)午後2時 場所:虹ヶ丘図書館2階 専用閲覧室』
「今度の土曜日だ……それに、図書館のこの部屋は、確か……あそこじゃないかな……」
太郎は、おぼろげな記憶をたどりながら、去年の事を思い出していた。
ぼんやりと天井を眺めながら、その光をたどってみると、机の上に置いたお祝いカードに繋がった。
そのカードは、今日誕生会の帰りに、悟からもらったお祝いカードであった。
同じころ、志津奈と三成実も、お祝いカードから出ている不思議な光のメッセージを見つめていた。
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次の日の学校で、太郎は、遠慮がちに話し出した。
「あのー、……しーちゃん聞いてくれる?夜中にね、ぼく……不思議なメッセージを見たんだよ」
すると、志津奈は、声を潜めて太郎に近づき目を見開いて同調した。
「え?太郎君も見たの!私もよ!!……ひょっとして、今度の土曜日でしょ!」
「そうそう!そうなんだ!!」
太郎は、つい嬉しくなって声も大きくなってしまった。
「しっ!……これは、あんまり他人には言わない方がいいと思うわ。
…………たぶん、図書館のあの部屋ってさ、………前のあの部屋だよね………?」
「あ!……そっか……だからなんだね、しーちゃん!」
そんな話をしている2人の傍に、担任の北野先生が、近寄ってきた。
「あ、岡崎と中村は、放課後ちょっと先生のところに寄ってくれないかな。頼みたいことがあるんだ」
「はい、わかりました」
特に用事は、言わなかった。
それだけ話すと、北野先生は、また違うところへ行ってしまった。
「何だろうね?
…………そういえば、去年のあの時、図書館のあの部屋でも北野先生はいたよね……………」
志津奈は、図書館で眠りに落ちてから、不思議な時間の旅をしたことを考えてしまった。
「うん、不思議な体験だったよね………。あの時、ミー姉ちゃんや北野先生が一緒だったから、すごく心強かったのを覚えてるなあ……」
太郎が覚えているのは、美代乃お姉さんと飲んだ温かくて甘い牛乳だったかもしれない。
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「北野先生、お話って何ですか?」
「……ん、お前たちのところには、これ、来たか?」
そう言って、北野先生は、『お祝いカード』と同じようなものを子ども達に見せてた。
ただ、表面には、『虹の森 招待状』とだけ書いてあった。
「先生、何ですか?これは」
太郎は、カードの裏表を確かめながら質問した。
「夜、ここから光が出てな、あそこへ招待されたんだ……」
北野先生は、たぶんわかると思って、大切なところは、省略して言った。
「あそこって?」
太郎は、それでも聞いてみた。
「図書館の、あの部屋さ」
それ以上は、言わなかった。
「……いつですか?」
志津奈は、すぐに次のことを確かめた。
「今度の土曜日、時間は○○」
「同じです。私達もそうなんです」
志津奈は、答え合わせを済ませたような表情をした。
「やっぱり、そうか。…去年の夏だったよな。お前たちと……」
北野先生も、やっぱり去年の事を思い出していた。
「私は、今でも信じられないんです。
それでも、私はあの時から、人の気持ちをよく考えるようになったと思うんです。
あの人に会ってから………………。
…………太郎君なんか、私が探偵になったって言うんですけど………、ちょっとその人になってみるだけなんですよ…………」
「そうだなあ……夢なのか、現実なのかはわからないけど……あれは、あれで大切なものだったと、僕も思うよ
………………で、お前たちは、どうするんだい?」
「もちろん、行くに決まっていますよ。先生だって、行くでしょ?」
「ああ、もちろんさ!」
職員室ではあったが、北野先生と子ども達は、あの貴重な時間旅行を一緒にした「仲間」として、また、冒険を約束したのだった。
でも、今回は「招待」されている。
目的は、何なのか?
悟は、どんな関係があるのか?
「ぼくには、さっぱりわからない。不安の方が大きくて、押しつぶされそうだよ」
「大丈夫よ、太郎君。きっと、美代乃さんが守ってくれるわ……」
しっかり前を向き、胸を張っている志津奈を、さらに頼もしく感じた太郎だった。
〔つづく〕
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