03 希望の友情 1(親友)
岡崎志津奈が体験した不思議な出来事には、もう一人の協力者を忘れてはならない。
少し時間を巻きもどすことにする。
ちょうど4月のはじめ、学校閉鎖なってしまった頃から、またこの物語は、スタートする。
「おはよう、お父さん」
「おはようじゃ、ないよ。今、何時だと思っているんだよ」
父は、横目で娘を見ながら、口では文句を言いつつ、笑顔が消えないのだった。
「いいじゃあありませんか。昨日は残業で、遅かったんだから、少しぐらい」
と、いつも、母親は知っていて、お決まりの助け舟を出すのである。
それもそのはず、娘はこの春、大学を卒業して、父親の電器屋を手伝い始めたのである。
手伝いというより、正式に父親の電器屋に就職したのである。
これで、一日中、父親は娘と一緒にいられるのである。
母親は、そんな父親のうれしさをよくわかっている。
「ところでね……」
何事もなかったように、母親は続けた。
「向かいのしーちゃんね、元気が無いんだってさ」
「え?しーちゃんが?どうして?」
娘が、心配そうに尋ねた。
「それがね、今、大変でしょ。学校も先週からお休みになってね。友達に会えなくなったじゃない、だからだと思うわ」
「三成実、お前午前中、ちょっと様子を見てきたらどうだ?」
「え?お父さん。お仕事休んでいいの?」
「まあ、昨日の残業の振替だ、午前中だけだぞ」
父親は、ちょっと照れくさそうに言った。
すかさず母親が
「さすが、お父さん、話せるわ!」
「何、言ってんだ、お前。
しーちゃんは、昔からうちの三成実と仲良くしてくれたじゃないか。
まるで姉妹のようなものだ」
「そうね、二人とも一人っ子だったけど、一緒にいると姉妹みたいだったわ。
そうと、決まれば、ミーちゃん早く着替えて、ご飯を食べちゃいなさい」
「はーい!」
彼女は、しーちゃんに会えるのをとても楽しみにしていた。
こんな時だけど、しーちゃんに会えるのをとても楽しみにしていた。
大学の4年間、時々は帰ってきて一緒に遊んだりしたけど、昔みたいにそんなに時間がとれなかった。
4月からは、お父さんの電器屋さんに就職したから、また近くになった。でも、今度は仕事が忙しくて、なかなかしーちゃんとは遊べなかった。
だから、どんな形にせよ、会えるのがとっても嬉しかった。
「おばさーん、ひっさーしぶりー。こんにちは。しーちゃん、いる?」
「あら!ミーちゃん、よく来てくれたわね。
お父さんの仕事を手伝ってるって聞いたけど、なかなか姿を見せないから。
シズなら、いるわよ、いつものニ階、上がって、上がって」
「おばさんは、ちーっともかわらないな。……よし、ここだ。しーちゃん、いる?ミーだよ、開けて」
ドアが、すぐに開き、顔を見る間もなく、すぐに女の子が、三成実にしがみついてきた。
「こらこら、久しぶりなんだから顔を見せてよ」
「うん…。えへ…」
しーちゃんは、抱きついたまま顔をあげた。
笑った目には、大粒の涙が光っていた。
その後、二人は部屋で再開を懐かしみ、まるで姉妹のように近況を語り合った。
三成実は、少し安心した。
元気はなかったが、昔のしーちゃんに違いはなかった。
きっと今は寂しいんだ、そうに、違いない。
話をしながら、三成実はそう確認した。
「ねえ、しーちゃん、何かしてほしい事なあい?」
「……みんなに、会いたいなあ…」
しーちゃんは、壁に貼ってある学級通信を見つめながら、つぶやくように言った。
彼女の部屋は、そんなに広くはないが、机、ベッド、整理ダンスなどきちんと整えてある。
壁にも自分で描いた絵が飾ってあったり、低い丸テーブルと座布団、テーブルの上には小物入れなど女の子らしい飾りもあったりする。
そんな中で、学級通信はひときわ目を引く。
クラス全員が、笑顔で写っている。
それも、写真を撮るための笑顔でないことが分かるような、なんというか自然と笑顔になった瞬間を写真にした感じなのだ。
三成実もその写真をじーっと眺めていた。
〔つづく〕
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