28 どこまでも吹き抜けて 4(シャインマジック)
「ただいまー」
「お帰りだのー……、うまくいったかのー……」
「うん、うまくできたよ………はい、これ、お願いね、ミーちゃん。
さあ、太郎君もミーちゃんに、バッジを渡しておいてね」
「う、うん……?」
「そっか、わかっちゃったようだね。さすがだな、志津奈は……」
少しがっかりしたような表情の三成実だったが、すぐに気持ちは切り替わる。
「もー、だからこのバッジは、十秒の動画撮影にしたんでしょ?」
相変わらず志津奈は、ニコニコしていた。
「まーね。気がつけば、きっと撮影してくると思ってたんだ!」
やっぱり、最後は、三成実もニコニコしていた。
「え?え?何言ってんの?ぼくには、全然わかんないよー」
一人だけ納得がいかず、みんなが何を話しているか訳が分からない太郎だった。
虹の像の謎も、千尋の家の調査も、わからないことだらけなのに、志津奈は解決したような口ぶりだし……。
ただ、三成実もそれは予想していたようだったが………。
もう太郎には、おばあちゃんにしか頼る人がいないように思われた。
「ねえ、みよおばあちゃん。しーちゃんもミー姉ちゃんも、ぼくには、何にも教えてくれないんだよ。
せっかくしーちゃんの役にたとうと思ったのに……」
「あれ?……太郎君、こめん、ごめん」
軽く、笑顔で志津奈には、謝られたが、それほどの気にもされた様子がなく、少しがっかりした太郎だった。
「まあ、太郎君のー……、あなたも十分役にたっていたよのー……。
シャーロックホームズで言えば、ワトソンみたいな感じだのー……。
太郎君が一緒にいるから、しーちゃんだって安心して調査に行って、いろいろ聞けたんじゃないかのー……」
さすが、年寄りの知恵。うまく太郎の機嫌をとったおばあちゃんだった。
「まあ、それに全部わかったら、あとの種明かしの時におもしろくないだろう?」
三成実が、いたずらっぽく笑って見せたのが、太郎にはちょっと悔しかった。
「さあ、それじゃあ今度の日曜日にみんなで、千尋さんのお誕生日をお祝いしに行こう」
三成実が、言い出した。
「みんなで?」
「そう、みんなで」
「ぼくも?」
「そう、太郎君も」
「みおおばちゃんも?」
「そう、みおおばあちゃんも」
「しーちゃんも?」
「もちろん、しーちゃんも」
「なんで?」
「お誕生日だからに決まってるでしょ」
「本当に、それだけ?」
「もー、あとは、行けばわかるから!」
・・・・・・・・・・・・
いよいよ、千尋の誕生日。
夕方にメガネ屋さんの一階にみんなが集まった。
お店は閉めた。
大きなテーブルが用意され、ごちそうやケーキがのっていた。
それでも、集まったのは,千尋の家族と今回の事件で知り合った太郎や志津奈、三成実、それにみよおばあちゃんだけだった。
誕生日会は、夕方はじまった。
まだ、外は薄明るかった。
千尋自身の手作りケーキやごちそうが並んだので、なんとなく太郎達が“およばれ”したような感じで、少し違和感があった。
それでも、千尋は、嬉しそうだった。
太郎達は、プレゼントも持っていった。
志津奈は、千尋の似顔絵を描いた。
三成実は、千尋にもトランシーバー付きのバッジをあげた。
みよおばあちゃんは、薬草ジュースのレシピを渡していた。
太郎は、大好きな自分のうち店のカボチャをもってきた。
ちゃんと午前中、お店のお手伝いをして、母親にもらってきた。千尋は、とっても喜んでいた。息子の悟や旦那さんもプレゼントあげていた。
その時、悟さんが、
「もう一つ、母さんにプレゼントがあるんだけどなあ、受け取ってくれるかい?」
「悟は、まだ何かプレゼントをくれるの?」
「これは、ぼくだけじゃなくて、みんなからって思っていいよ」
その時、部屋の照明が消え、真っ暗になった。
「キャッ!」
「大丈夫、外を見て!」
「あ!」
公園の虹の像が蛍光色に光り出していた。千尋は、
「あれよ!あの光だわ!」
千尋が、叫んだ。
「ごめん、母さん。あれは、ぼくたちのせいなんだ。まあ、安心して見ていてよ」
虹の像に映し出されたのは、千尋への感謝のメッセージと楽しい家族の思い出の風景だった。最後に志津奈と太郎のメッセージもあった。
「あれは、この間公園で録画したものだ…」
「(そうか、しーちゃんはあの時からもうわかっていたんだ)」
最後に公園の像にある虹が、だんだんに大きくなり、大空へ上っていき、夜空にかかる大きな虹になって終了した。
みんなは、自然に拍手をしていた。
なぜか千尋だけは、嬉しそうに笑いながら、涙を拭いていた。
「みなさん、今日は本当にありがとうございました。
それに悟、あんなにすばらしいものを見せてくれてありがとう。
思い出の写真も良かったけど、最後の虹は、本物が飛び出したように見えてびっくりしたよ」
「ありがとう、母さん。
あれがぼくの大学での研究成果なんだ。
光が本物のように見えたら素晴らしいだろうなあって」
「……なのに、いいのかい。………メガネ屋で。
本当は、大学で研究を続けたかったんじゃないのかい?」
「違うよ!ぼくは、この研究を実際の生活に生かしたいんだ。
つまり、この研究でもっと素敵なメガネを発明するんだ。
だから、今回の作品をみんなに見てもらいたかったんだ」
「ああ、父さんも応援するからがんばれ!」
「ありがとう」
「いい子じゃのー……。なあー……、ミーちゃん、だから手伝ったんかのー……」
「えー?やっぱり、ミー姉ちゃんも手伝ってたのー?」
「もー、太郎君は鈍感なんだからー」
太郎は、志津奈に笑われてしまった。
「実は、そうなんだ。
ぼくは、光の専門家。でもその光をうまく機械で照射できない。
そこで、機械工学の同級生で、幼なじみの上杉電器のミーちゃんに頼んだというわけさ」
「そう、この間実験の途中、思ったよりおばさんが早く帰って来てしまって、うっかりホログラフを見られてしまったのよねー」
「そうか、だから千尋おばさんのうちへの調査に、ミー姉ちゃんは行かなかったんだ。でも、しーちゃんは、いつごろからわかったの?」
「んー、悟さんが、ミーちゃんの同級生って聞いた時かな。それに、おばさんの誕生日がもうすぐって聞いて、ピンときたわ」
「もー、それなら、ぼくにも早く教えてくれれば、いいのにー」
とにかく、すべてが分かった。
そして、楽しい誕生日会を過ごすことができた。
みんなは、帰りに悟から、誕生日会のお礼ということで、お祝いカードをもらい幸せな気持ちで家に帰ることができたのだった。
その時は、まだ、ドキドキする続きがあるとは、まだ知らなかったので………
〔つづく〕
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