26 どこまでも吹き抜けて 2(彫刻の謎)
「いらっしゃいなのー……」
上杉電器商会の道路側は、すべてガラス戸になっていて、お店の中がよく見える。
とびら十枚ほどの幅で、奥行きがあって中は広い。
入って正面に、みよおばあちゃんが、レジと並んでちょこんと座っている。
そして、横の大きなテーブルでは、放課後に太郎や志津奈がやってきて宿題をしたり、おやつを食べたりしてる。
もちろん、外から丸見えだけど、この子ども達を目当てにくるお客さんもけっこういたりする。近所のおばちゃんなんかなは、おやつを届けてくれたりする。みよおばあちゃんも、お話するのは、とっても楽しい。
「た、た、大変よ」
「あれ?どうしたんだのー……」
「あ、メガネ屋のおばさん」
「太郎君と志津奈ちゃんもいたのかい、この平和な虹ヶ丘がえらいことになったよ、事件だよ!」
「まー落ち着いてのー……。
お茶でも飲んで、………ゆっくり話してみたらのー……」
「ああ、すみません、いただきます」
「ミー姉ちゃん、ミー姉ちゃん、ちょっと来てー」
「……ん、どうした。しーちゃん?」
「いいから、一緒にお話を聞いて」
「……みなさんも知っての通り、私の家はこの先の公園の向かいのメガネ屋です。
公園には、虹ヶ丘開拓百周年を記念して大きな虹の彫刻があります。
めずらしいことに虹の彫刻には、色がいつています。
ところがです。
今日の午前中、あの虹の色が変わっていたのです。
いつもの虹の色じゃなかったのです。
全体が少し黒ずんだ色になって、各色がずれた感じになっていました。
私もこの歳ですから、視力に自信はありません。
でも、このうちの最新のメガネをかけていたので、見間違うことはありません。
家族にも言いましたが、誰も信用してくれません。
今は虹も、もとにもどっています」
「……………………」
「本当なんです」
「(ぼくは、わからなかった。相談にのってあげるべきなのか、『ぼく達には無理です』と断るべきなのか……)」
太郎には解決の糸口すら思いつかなかった。
志津奈は、いつものように、真剣におばさんを見て話を聞いていた。
太郎は、おばさんの話より、志津奈や三成実の様子が気になっていた。
「(しーちゃんは、いつも真剣だ。そこがいいんだよな……だから大す……ん、ん………ミー姉ちゃんは……おや、なんか、ミー姉ちゃんも真剣だ。いつもだったら、その場の勢いで何でもアリの元気いっぱいなんだけどな?)」
太郎は、自分ではどうすることもできないので、最後はみよおばあちゃんに頼ることにした。
「どうしよう?みよおばあちゃん」
「そうさのー……。びっくりしたんだのー……、千尋さんはのー……」
メガネ屋のおばさんは、千尋という名前だった。
「だって、5メートル以上ある大きな彫刻の色が変わったのよー」
「そう、あの彫刻は、裏に滑り台やジャングルジムがくっついていて、表から見ると四角い虹ヶ丘の風景に虹が浮かんだ絵画のようになっているの」
と、三成実が説明してくれた。
「へー、ミー姉ちゃん詳しいんだね」
「何言ってんの、この町内の子だったらみんな遊んだわよ。しーちゃんの小さい頃もよくあそこで遊んだわよね」
「ええ、覚えているわ」
太郎は、この町内ではないので、公園のことには詳しくなかった。
「ねえ、ミーちゃんと太郎君、また手伝ってくれる?」
「やっぱり、やるのかい?」
「うん!ほうっておけないわ」
「もちろん、何でもぼくは手伝うよ!」
「ねえ、みよおばちゃんも知恵をください。お願いします」
「はいだのー……」
「千尋おばさん、とにかく考えてみるから。あんまり期待はしないで、まっててください」
「そんなことないよ。話を聞いてくれただけでも嬉しかったよ。ありがとうね。また、聞きたいことがあったら、いつでもうちにおいで。いつでもいいからね」
千尋は、帰っていった。
「じゃあ、さっそく捜査開始だ」
「でも、何をすればいいのかな」
「あせらないでのー……、いろんな人にお話を聞いたらどうかのー……」
また、志津奈の虹ヶ丘探偵物語がはじまったのだった。
〔つづく〕
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