25 どこまでも吹き抜けて 1(仲間の支え)
新学期になった。志津奈や太郎は、6年生になった。
この辺りは、5月頃になってようやく春らしくなる。
太郎の斜め後ろには、築山のある公園があり、一面にタンポポが咲いている。
今日は、天気もいいので、黄色い花が満開になって見ごろだ。青い空がよく映えていた。
この辺は、商店街だけれど、小さい店が多いから、静かで穏やかな街だ。
太郎は、今、志津奈の向かいにある上杉電器商会の前に立っている。
「ごめんくださーい。しーちゃん,いますか?」
「はいはい、いらっしゃいだのー……」
「あ、みよおばあちゃん。こんにちは。しーちゃんは、来てますか?」
「大丈夫だのー……。今、ミーちゃんとおやつの準備をしてるだのー……」
「じゃあ、おじゃましまーす。みよおばあちゃん、今日もよろしくお願いいたしますね」
「はいはい、こちらこそ、よろしくなのねー……」
太郎は、最近毎日のようにここ上杉電器に通っている。
と、言っても、電器屋さんに用事があるわけではない。
ここ、上杉電器商会は、上杉三成実の家で、その幼なじみが志津奈なのだ。そして、最近この上杉電器商会には、新しいアルバイトの人が入った。
お昼から夕方にかけて、お店の留守番をしている。みよおばあちゃんだ。
ちょうどこの時間帯は、お客さんもあんまり来ないので、毎日太郎や志津奈が遊びに、…いや勉強に行って、そのついでに、おやつをごちそうになったり、みよおばあちゃんとお話をしたりして、楽しく過ごしているらしい。
「さあ、できたわよ。……あら、太郎君いらっしゃい」
「やったー、ミー姉ちゃん、今日のおやつは、なーに?」
「もー、太郎君ったら、お行儀が悪いわよ」
「はいはい、しーちゃんったら、厳しいんだからなー。でも、すっごいいいにおいがするんだ。ミー姉ちゃん、チョコレートのケーキか何か作ったの?」
「聞いておどろきな!なんと、ホット団子のチョコレート包み仕立てだ」
「また、発想がすごいよね……(でも、最近のミー姉ちゃんのおやつは、おいしいんだ。見た目やネーミングは、????なんだけど、なんだかほんわかするし、もう一回食べたいなあと思っちゃうんだな……)」
「……おいしいよ、温かい団子とチョコレートがよく合うよ」
「な!そうだろう」
「ミーちゃんったら、散々みよおばあちゃんに相談してたくせに」
「いいじゃない、そんな細かい事気にしないでよ」
「(あんなに料理が苦手だったミー姉ちゃんが、こんなにおいしいおやつを作れるようになるなんて………)」
太郎は、少し疑っていた。
「ねえ、ミー姉ちゃん。どのくらいみよおばあちゃんに手伝ってもらってるの?」
「え?どのくらいって?……うん、そうだな、手伝ってもらってるっていうか……」
「あ!やっぱり、代わりに作ってもらってるんだ!」
太郎は、身を乗り出した。
「ちがうわよ!!みよおばあちゃんは、ただ私の話を聞いてくれるだけなの?」
「話を聞くだけ?」
「そう。こんなおやつが食べたいとか、こんなふうに作ったらおいしいかもとか、ただ話すだけ」
「え?それで、おやつ作りが上手になったの?」
不思議そうな表情をした太郎だった。
「それは、一緒にそばにいた私が保証するわ」
いつも一緒におやつ作りをしていた志津奈が、自信をもって言った。
「そうよね、みよおばあちゃん」
志津奈が、真面目な顔でみよおばあちゃんに言った。
「あたしは、なんものー……しとらんのー……。おいしそうな話をいっぱいしてくれるんで、楽しくってのー……」
「なんか、みよおばあちゃんは、私の話をいつもニコニコしながら聞いてくれるんだ。だから話しているうちに、いろんなアイディアも浮かんで来るんだよね」
三成実は、とても嬉しそうだった。
「(そっかー、だからヘンテコリンなおやつもできるのか。
アイディアの出し過ぎかな?
みよおばあちゃんが、いろいろ教えているのかと思ったんだけど、話を聞くだけとは……。
でも、なんとなくわかるかな。
今日の「チョコレートだんご」だって、おしそうだって真剣に聞いてくれる人がいなかったら、作ろうという気持ちにならないかもしれないもんな。
作ろうという気持ちにならなければ、工夫も努力もしないから、上手にはならないしな。
そういう意味じゃ、みよおばあちゃんがいたから、ミー姉ちゃんの料理の腕があがったんだな…………)」
太郎は、三成実の笑顔を見ながらこんなことを考えていた。
〔つづく〕
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