24 新しい風を感じて 3(味のこころ)
「いってきまーす」
「しずー、お店の邪魔しちゃダメよ……」
「大丈夫よ、お母さんったら。時々、ミーちゃんのお手伝いだってするんだから……」
志津奈は、勉強に集中できるからという理由で、冬休み中ずうっと上杉三成実のところに行っていた。
「(それに、太郎君も来るし、わからないところは、ミーちゃんが教えてくれるからなんだけどね……)」
「ごめんくださーい。あれ、太郎君、もう来てたのね」
冬休みも終わり、もうすぐ春になろうとしていた。
それでも志津奈と太郎は、相変わらず三成実の家に毎日通っていた。
放課後、勉強道具を持ち寄って一緒に勉強をやるということには、なっていたのだったが………。
「あれ?太郎君、勉強はしてないの?」
志津奈が、何もしていない太郎を見て茶化すように言った。
「だって、うちの学校は、宿題が無いじゃないか…………」
部屋で転がったまま、言い訳をする太郎だったが……
「へえ……?だから?……何しに来てるのかな……本当の理由は…………」
志津奈は、実はお見通しだった。
「はい、おまちどうさま、今日のおやつは、かぼちゃ団子だよ……」
三成実が、大きなお皿に黄色い団子に黄色いシロップをかけて、もってきた。
「え?私、今来たばっかりなのに、もうおやつ食べるの?」
「あれ?じゃあ、食べなくていいのかな?」
「…いやああ!食べます、食べます。もう、意地悪なんだから!!」
「あっはは、本当は、しーちゃんの方が、オヤツ目当てだったりして……」
「もう!太郎君みたいに、言わないでよね……」
「……?それにしても、…ねえ、ミーちゃん、いつからこんなにおやつ作りが上手になったの?
前は、機械は作っても、料理は、まったく興味がなかったのに」
「まあ……いいじゃあないですか……おいしいですよ……食べましょ…」
「昨日はカリントウ、一昨日はゴマ団子、その前はズンダ餅、うちではあんまり作らないおやつが多かったなあ」
志津奈が、最近のオヤツを思い出してみた。
そして、改まって聞いてみた。
「ねえ、ミー姉ちゃんは、ホットケーキとかは作らないの?」
「うーん、あんまり作らないみたいだね……」
「作らないみたい?」
「あ、いや、作らないなあ………」
三成実は、少し考え込むような素振りを見せた。
太郎が、おいしそうにカボチャ団子を食べていると、
「ねえ、ミーちゃんがこれ作ってるところを見た?」
と、志津奈が質問した。
「んーー?……ぼくが来た時は、もう出来上がっていて、皿にのっているなー」
その時、志津奈は、なぜか少し笑ったのだった。
志津奈は、さらに
「……私もおやつ楽しみだな。明日は何作るの?」
と、しつこく聞いていた。
「…ああ、何にしよっかなー。まだ、決めてないなー」
「ねえ、ミーちゃん、私にも手伝わせてよ。明日は、学校が休みだから朝から手伝えるわよ。そうだ、太郎君も手伝うよね。食べてばかりじゃ、悪いもんね」
志津奈は、太郎に相談もしないで、勝手に作りを手伝うことにしてしまった。
「(しーちゃん?何、考えているんだ?……)」
太郎は、不審に思ったが口にはしなかった。
三成実は、お菓子作りは一人でできるからお手伝いはいらないと断っていたが、強引に志津奈がお願いして、次の日のお手伝いを約束したのだった。
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「しずー、今日は早いのね。まだ、朝ご飯前よ………」
「わかってるわ、お母さん。
でもね、早く行かないと、間に合わないの、じゃあ、行ってきまーす。
……今日こそ、みつけちゃうのよ。
なんてったって、ミーちゃんの家は私の家の向かいだもの、ヒミツになんかできないわよ、すぐにわかるんだから……」
「おはようございまーす。ミーちゃん、待ちきれなくて、来ちゃった」
「あ、しーちゃん、いらっしゃい。さあ、入って。今、支度してるところよ」
「おじさん達は?」
「あー、旅行に行ってて、昨日から留守なの、今は、私だけよ」
「ごめん下さい」
「太郎君も来た。太郎君、こっちよー」
「しーちゃん、早すぎるよー。ぼくまだ、ねむたいよー」
「何言ってんの。早く来ないと、また、おやつを作るところが、見られないじゃない!」
「さあ、今日は、ポップコーンを作るわよ。びっくりして、腰をぬかさないでね」
≪あれ?やっぱり、ミーちゃんが自分でつくるんだ≫
大きなフライパン。
ドーム型の透明なふた。
強力なガスコンロ。
コーンを計量器ですくって、一気に投入。
ふたの中で、次から次へと、コーンがはじけて飛ぶ様子が見えた。
ここまでは、いつも機械を操作している時のミーちゃんそのものに見えた。
≪気のせいだったかな≫
「ごめんなさい、ミーちゃん」
「え?何が」
「あ、いや、実は…………」
「さあ、次は、味付けをするよ。
ポップコーンをお皿に移して、好きなものをかけてね…………」
三成実は、塩や砂糖、チョコレートなど、いろいろなものをテーブルに出して来た。
志津奈は、塩を少しふりかけた。
そして、太郎は、砂糖をかけていた。
「きゃあ!ガチャン!」
音の方を見ると、三成実が、何是か醤油をかけようとして、慌ててポップコーンのお皿をひっくり返していた。
とたんに料理が下手なお姉さんになってしまったような感じだった。
「ミーちゃん、大丈夫?どうしたの?」
「ミー姉ちゃん、ミー姉ちゃん?」
太郎も心配して駆け寄った。
三成実は、ポップコーンの入っていたお皿をひっくり返して、テーブルの下に落っことし、自分はそこにしゃがみこんでいた。
志津奈は、近づいて、もう一度そーっと声をかけた。
「ミーちゃん、大丈夫?」
三成実は、ゆっくり顔を上げて、力なく笑い、お皿を拾って立ち上がった。
「やっぱり……だめね…。ホウキ持ってくるね」
そう言って、台所を出て行った。
「ねえ、しーちゃん。ミー姉ちゃんは、どうしたんだろう?」
≪……やっぱり、そうだったんだ。なんか、ミーちゃんに悪かったかな?……≫
「ねえ、しーちゃん、どういうこと?」
「う、うん……」
三成実がホウキをもって戻ってきた。そして、何かふっきれたように
「あー、やっぱり、だめだわ!」
志津奈は、ただ、三成実を見つめていた。
「ごめん!しーちゃん、太郎君」
「え?ミー姉ちゃん、何が?どうしたの?」
太郎は、びっくりしたように三成実を質問攻めにした。
志津奈は、そーっと三成実の手をとって、謝った。
「私こそごめんなさい、私が意地悪だったわ…………」
「ううん。そんなことないよ。私が、嘘をついたからいけないの」
「え!嘘って」
太郎は、おどろいた。
「本当にもう、太郎君は、何にもわかってないんだから」
「え?え?え?」
ちょうどその時、お店のインターフォンがなり、お客さんが入ってきた。
「おや、ミーちゃん、ポップコーンはうまくいったかのー?」
なんと、お客さんは、あの手袋をなくした、みよおばあちゃんだった。
「あ!みよおばあちゃん!!」
志津奈が、静かに言った。
「ミーちゃん、そうだったんだ」
「うん、本当にごめんね」
「でも、どうして?」
「だって、最初に揚げいもを出した時、本当にみんなおいしそうに食べるから、なんか私まで自慢したくなっちゃってね。
お皿を取りに来たおばあちゃんに話したら、おばちゃんも喜んで協力してくれることになったの。
そして、毎日おやつを届けてくれてたのよ」
「なーんだ、そんなことだったのか」
「もー、太郎君ったら、そんなことなんて言わないでよ」
「あああ、ごめん、しーちゃん。まさか、しーちゃんに、怒られるなんて」
「おやつ作りは、大変なのよ。今まで、メカにしか興味がなかったミーちゃんが、がんばったんだから。ねーミーちゃん」
「あ……、まあ……、ちょっと、迷惑かけちゃったけどね……」
「ミーちゃんも、よくがんばったのー……。それにのー……、
みんな、いい子だのー……。
おいしいおやつはのー……、気持ちの問題なんだのー……。
やさしい気持ちでつくれば、やさしい味になるし、
あたたかい気持ちでつくれば、甘い味になるんだのー……。
そして、みんなで食べれば、2倍も3倍もおいしくなるもんなんだのー……」
「そっかー、だから、ここで毎日食べていたおやつは、おいしかったんだね」
「え?太郎君は、何を食べても、おいしい、おいしいって言うじゃない」
「しーちゃん、そんなこと言わないでよー。もー」
「ところで、しーちゃんは、どのあたりから、私が作っていないと疑ったの?」
「えーとね、3回目ぐらいに『ズンダ餅』が出たでしょう。
あれは、仙台のおやつなの、この辺の人達は、あんまり作らないわ。
特にミーちゃんの家の人達は、仙台関係の人はいないはず。
その後は、若い人が知らないおやつが多かったの。それでかな」
「この前の手袋の推理もすごかったけどのー……、今回も名推理だったのー……。
ホンに、名探偵さんじゃのー……」
「これで、みんなとも、友達ですね。また、遊びに来てくださいね」
「もちろんだのー……。また、来るだのー……。それに、おやつも持って来るだのー……」
「もう、太郎君ったら、顔が、おやつを催促してるわよ」
「えー、あはは、でも、とってもうれしいや」
「あああははははははは…………………」
また、上杉家に茶の間には笑いが響いて止まらなかった。
〔つづく〕
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