23 新しい風を感じて 2(思いやる推理)
「……冷たかったでしょー……」
志津奈は、おばあちゃんの手袋をつけていない方の手を両手で握った。
「みよおばあちゃん、これあたたかいお茶です。少し持っていると、手も温まりますよ」
そっと湯呑を渡して、暖をとることを勧める志津奈は、優しく微笑みかけていた。
おばあちゃんは、身長170センチぐらい。腰は真っすぐの延び、髪の毛はきれいに結っていた。
「(目がぱっちりしていて、なんてかわいいんだろう。上下のジーンズ姿なんて、おばあちゃんにしては、おしゃれだなあ。でも、首や手の感じじゃ、けっこう歳はとっている感じがんだけど……)」
太郎は、そんなことを考えながら、おばあちゃんと志津奈の会話を聞いていた。
そして、最近太郎は思うことがある。特に、あの時間旅行の後、感じることが多くなったような気がするのだ。
「(しーちゃんって、優しいよなー。初めて会ったおばあちゃんにも、こんなに親切にして………、誰かもわからいのに………)」
「どの辺で、手袋を無くしたか、わかりますか?」
志津奈が、おばあちゃんに質問をしている声で、何となくボンヤリ考えていた太郎は(はっ!)と、我に返った。
「(そうか、おばあちゃんの手袋を探すんだ……)」
太郎は、何となく他人事のような気でいたが………。
「わからないんだのー。……でも、これを買ったお店に入る時はのー……、あったようなのー……、気がするのー……」
と、買い物カゴを見せた。
そこには、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎが入っていた。
「あと、お肉屋さんに行ってのー……、買い物をするだのー……」
「あー、今晩は、カレーライスなんですね」
「おー、よくわかったのー……。その通りだのー……」
「しーちゃんすごい!」
太郎は、拍手していた。
…………………………
「太郎君、今、携帯持ってる?」
志津奈が、少し考えてから迷わずに何かを決断したように尋ねた。
「うん、お母さんに、持たされてるよ」
「これ、直通で、お母さんにかかるわよね、ちょっと貸してね」
『もしもし…………。はい。お願いします。…… あ!……ありがとうございます。それじゃあ、今、行きますから』
志津奈は、八百屋である太郎の母親と何やら話をした後、笑顔になってこちらに向き直った。
「……みよおばあちゃん、手袋があったわよ!」
「おー、なんとのー……、見つかったのかのー……」
「しーちゃんすごい!!」
太郎は、また、手放しで喜んで拍手していた。
「太郎君、何言ってんの、それより太郎君、早くお母さんの所へ行って、手袋もらって来て」
志津奈は、澄ました顔で、次の指示を太郎に告げた。
「へ?」
「いいから、早く!」
太郎は、要領を飲みこめないまま、ただ志津奈の言われた通りに動くしかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
太郎は、息を切らして十数分後、戻って来た。
「………は、はい、これ!」
手には、片方の手袋が握られていた。
志津奈が、受け取って、みよおばちゃんに尋ねた。
「この手袋で、間違いないですか?」
「あーこれこれだのー……。間違いないだのー……」
「やっぱり、しーちゃんはすごいよー」
「太郎もそう思うだろう……」
三成実も一緒に感心した。
「なあ、しーちゃん、どうしてわっかのか、教えてよ。たねあかしをしてくれよー」
「んー。ミーちゃんに言われちゃあ、仕方ないわね。
……秘密は、カゴの中よ。
中身を見たら、八百屋での買い物だったのよ。
しかも新鮮で、おいしそうなものばかりだったの。
みよおばあちゃんの足で行けるのは、この近所だから……。
だからあれを売ってる八百屋は、太郎君の家しかないのよ。
きっとお金を払うとき、右手だけ手袋を脱いだのね。
その時、手袋をポケットに入れたつもりで落としたんだわ。
親切な太郎君のお母さんは、手袋を拾ってしまっておいてくれたはずなのよ……きっとね」
「そーか!それで、電話して確かめたんだね!!」
「あんたのー……、すごいのー……。まるで、探偵さんみたいじゃのー……」
「いやーよ、みよおばあちゃんたらー。あはははー…………」
1つの事件をきっかけに、楽しい笑いに包まれた上杉電器商会のロビーだった。これが、彼らの初めての出会いだと……思っていたのだった。
〔つづく〕
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。